門出

王から勇者への御拝命を受け、軍資金という形でひとまずの資金を経たカリーナ一行。


「ねえ、……名前なんだっけ…ユ……うーん?」


「ユリース。カリーナだろ?よろしく」


二人はラウシュビッツ城から門番の兵に敬礼されながら城を出て、城下町を彷徨いていた。


「勇者やるんだったら、色々と準備が必要だろ?飯と金は持たせてくれたけど…癒薬とか、武器とか、色々だよ」


幸いキタニスの城下町は店で賑わっている。腕の良い職人が騎士の甲冑だったり武具を作る工房を構えている事も多い。これだけあれば色んなものを揃えられる。どうしたものか。


暫く熟考しながら城下町を歩いていた。


ふとカリーナに目をやると、既に王からもらった食料のパン類を頬張りながら歩いていた。


「だー!お前何やってんだよ!こういうのは節約するの!」


「お腹すいたの!」


昨日あれだけ食ったじゃん…凄えよ…バケモンだよ普通に。


「何買うの〜?私はこれだけで良いよ?」


「ん?格闘でも籠手がある方が良いんじゃないのか?」


「素手で魔族倒せるよ?大きいやつ」


マジでか…確かに、あの拘束魔法を破るなんて相当だが…


「なるほどね…」


「それでさー?まおうって何処にいるの?何処に行けば会えるの?」


「あー…このクニにはいない。でも、そうだな…実際何処から行ったもんかね…」


「…あ、寄っていきたいところがあるんだ。そのための土産とか買って良いか?」


「うん」


食料とかを買った後、城下町の外れへ向かった。


「あ!ユリース兄ちゃんだ!」


町の外れも外れ、それが家なのかと思うようなボロ家の前に着いた頃、小さい子供達が私達を出迎えた。ユリースと同じで小汚くて細い子供達だった。


「元気だったか?母さんいるか?話がしたい」


「それと、お土産。みんなで分けて食えよ?」


「わーい!」


子供達に案内されてボロ家の中に入って行った。外の印象よりも広かった。


家の一番奥のベッドで寝ているのがユリースの母親だった。病気なのだろうか、痩せこけていて今にも死にそうな雰囲気だった。


「…生きとったんかい。死んだかと思ったわい」


「まあね。実際殺されかけたよ。そんでさ、俺勇者の手伝いする事になった」


「なんじゃと!?」


ベッドから起き上がり、驚愕の表情を見せた。


「この…隣にいる方が、勇者様」


「なんと…」


呑気そうにパン類を頬張っている女の人を見て、一体誰が勇者様に見えるだろうか。


「なんと御崇高な名誉を…」


だが、その期待を外に、ユリースの母親はカリーナに跪いた。


「…帰りが遅れて悪かった。金と飯を貰ったよ。いくらか置いてくからさ、あれは持っていくよ?」


「全然構わねえさ。あれ売っぱらうよりも良い」


「カリーナ、金と飯やるけど良いよな?」


「…うん。皆お腹減ってそう。」


カリーナが背負っていた食料と、お金の半分を家に置いて行った。


ユリースはあれを取りに行くとか言って、町の外れのもっと外れにある洞窟のようなところに入っていった。


洞窟といっても、直ぐに行き止まりだったため空洞というべきだろうか。その行き止まりに、一振りの真剣があった。


「これ、一応俺のなんだ。俺も用意はこれだけで良い」


「綺麗な刀だね」


刃こぼれと血の染みのような痕が所々に見えたが、刀身自体は手入れされており、私の顔が映るくらいだった。


「あっそう。名のある刀みたいでね。顔も知らない父親の置き土産らしい」


「刀…振れるんだ?」


「…低級魔族には負けないと思うね」


刀を持ち、家族に挨拶を済ませてから、また城下町の方へ歩いていった。


「…この辺はさ、見ればわかると思うけど貧民街だ。似たような境遇の奴らがいっぱいいる」


「目の前で何人も餓死したり、病気で死んだのを見てきた。」


「王様は何もしてくれないの?…やっぱり悪い人なんじゃない?」


「いや、そうじゃない。ここキタニスはあまり良い土壌の土地じゃない。酪農も放牧もまともに出来やしない。」


「ふーん」


「騎士達が傭兵稼業として隣国の救援に行ったり、町にいた職人みたいに、武具を他国や民間に売って生計を立ててるんだよ」


途中から言っている意味が分からなくなり、適当に聞き流していた。


「……要はこのクニは、戦いで稼いでいる国だ。」


なる…ほど?


「騎士も民も、そう贅沢な暮らしをしてるわけではないんだ。そんな状況なら、食いっぱぐれる人も出てくる訳さ」


「なあカリーナ、何処に行けば良いか、わからないって言ってたよな?」


「うん。」


「なら勇者としての初仕事として付き合って欲しい。報酬はこの貧民街の少しの幸福」


「えー、なんかアヤシイ…」


「なんだそれ。信頼ないなあ。…ま、死刑囚だもんな」

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