大食い勇者の救世譚

Rei

旅立ち編

勇者御拝命

暗がりの森の中、一団が速足で行軍をしていた。足音まで整っていて、統率の取れた騎士の集団だ。その中央には豪華な服装をした人間が一人。権力者であろう。


そんな一団を魔族の軍団が取り囲んでいた。魔力で気配を消してゆっくりと。一団の前方に先鋒となる魔族が現れた。


「…!魔族だ!総員戦闘態勢!」


「陛下には指一本触れさせる…な!!?」


騎士の中で高位そうな男が剣を抜き、一団に指示を出した。が、取り囲んだ魔族達が気配を露わにした瞬間、取り囲まれていることに気付いたようだ。


「…大所帯だな…しかも気配をコントロールできる魔族が複数。」


「メイゼン、こいつらだけじゃない。森全体の魔族が僕らを襲おうとしているよ。陛下もいらっしゃる。城まで撤退しよう」


「…そうだな。我々で陛下の退路を開きます。陛下は速やかに…」


「…メイゼン、少々私を舐めすぎだぞ。まだ魔族に遅れを取る歳ではないぞ」


王も剣を抜いてみせた。


「…ご無理なさらないよう。あなたの身になにかがあれば!」


「分かっておる!騎士に戦わせて、おめおめと逃げる王ではない、それだけだ」


「よし!総員、死ぬ気で陛下と共に城までお供するぞ!」


騎士達の威勢に呼応して先鋒の魔物が飛びかかってきた。犬のような姿形で、素早そうだ。剣を構え、迎え撃とうとする騎士達。


しかし、その一瞬で森陰から何かが飛び出し、犬のような魔族を連れ去った。


「!!??」


騎士達や魔物達まで困惑の表情。


土煙が晴れると、先程飛びかかってきた魔族を口に咥えてむしゃむしゃと頬張っている女の子が姿を現した。歳としてはまだ青二歳がいいところだろう。


「女の子〜〜〜!!!???」


「はむっ…はむっ…ごくん。う〜ん、美味しい♡」


…え!?なんで!?なんで結界の外に人間がいるの…!?つかなんで魔族食ってんの!?


騎士一同が困惑の中、森陰に潜んでいたさらに姿形の大きな魔族が、女の子に向かって飛びかかる。


グッと拳に力を込めたかと思えば、徒手空拳で魔物を一撃粉砕していく。そして砕け散った魔族の破片をむしゃむしゃと頬張っている。


一団の近くの魔族は全て、女の子に飛びかかっては粉砕され、飛びかかっては粉砕され…気がつけば騎士一団の包囲網はすっかり崩れていた。魔族もその様にビビり、女の子から距離を置いた。


なぜ人間が魔族を食えるんだ…!?…は!さては、姿形は人の形をした高位魔族の魔人か…!?それならば、この強さも納得…


「娘を警戒しろ!取り囲めえ!」


魔族を頬張っている彼女を取り囲む騎士達。何故か取り囲まれたため、きょとんとした様子で周囲の様子を見る女の子。


「え!?なに!?」


「人の言葉を話すな魔人め!」


「待てメイゼン。」


「陛下…!?危険です!どうか下がってください!」


「…娘。答えよ」


女の子は話しかけてきた王の目をじっと見つめていた。


「美味いか?」


「…はい!!とっても美味しいです!」


嘘偽りのない和かな笑顔で答えた。


「構えを解け」


「!!しっ、しかし!」


「魔人は所詮魔族。感情などない。美味いと感じるのであれば、その娘は人だ。」


「…しかし、その強さと能力…面白い。是非城へ案内したい。」


「……はっ!あの娘を捕え…ろ…」


メイゼンという騎士長が再び目線を戻した頃、既に女の子はその場所からいなくなっていた。


「いない〜〜〜!!??」


「お、おい!どこに行ったんだ!」


「なんか…すごい勢いで森の奥に消えていきました…」


結界の外で人一人で…!?そんな人間聞いたことがない。ってか!


「何平然と逃してんだ!仕事しろよ!」


「いやー、でもほんと一瞬だったんで…」


「我々騎士が王命を全うできなくてどうする!」


「そんなこと言われましてもー」


「だ!か!ら!出世しねえんだよお前わあ!」


「だいたいお前はさあ!……」


メイゼンと騎士の口論というか、メイゼンの一方的な講釈が続いた。


その脇で、先刻メイゼンに撤退を促した少年の魔導士が、王に進言していた。


「それにしてもあの娘…どんな生得魔法なんですかね…魔族を食べる事ができることに加えて、あの身体能力…」


「体術は誰かに仕込まれたものではないかと思う。」


「ですね。我流ではないでしょう。となれば名のある格闘家の弟子かなにかか…」


「取り逃したのは痛手だが、ルイスの言った通り、城に戻るのが先決だろう。…先月からの魔族の強靭化と凶暴化…イルムやソルビア、ガルムと同盟を結んで対処すべき事態だと判断したが…」


「ここまで魔族の量と質が高いとは…四牙が出揃っていながら、一個大隊が壊滅とは情け無いですね」


「急ぎ城に戻り、今後の方向性を議論しよう。これは我々キタニス存亡の危機だろう。」



翌朝。キタニス王国ラウシュビッツ城にて


王がキタニス王国の王城であるラウシュビッツ城に帰還。玉座までの道を王城兵が整列していた。王の間の玉座にて、王城兵や国の騎士達が跪き、王の帰還を歓迎した。


「…戦況報告を。」


騎士の中から四人の幹部と思われる男女が王の御前に跪いていた。報告は騎士の一人が行うようだ。


「…は!先日行われたイルム公国への同盟締結を目的とした護衛行軍ですが、予想を超える魔族の襲撃に遭い、一個大隊が壊滅。大隊を指揮していた、四牙のソニア様も負傷されました。」


四牙と呼ばれる四人の幹部の一人、凛とした女騎士がソニアだ。目には昨日まで無かった眼帯をつけていて、腕に巻いた包帯が取れていなかった。4人のうちの紅一点。女というだけで目立つが、スラリとしたスタイルに高潔で真面目な物言いと仕事ぶりと、美しくしなやかで素早い剣技から、神速と呼ばれている。


「その後、同じく四牙のメイゼン様、ルイス様を含む少数にて陛下をお連れしてイルム公国への最短ルートを辿りましたが、魔族の大軍に遭遇し、撤退を余儀なくされました。」


「…少々事実と違う言い回しだね」


「ルイス、王の御前だぞ」


「…以上が、我々の被害であります」


「…一個大隊が壊滅ですか…誇り高きキタニス騎士ともあろう我々が」


参謀総長が口を開いた。エルフ族の中でも年配者で、古くからキタニス王国に仕えている者だ。


「準A級、A級クラスの魔族が大量にうろついていました。高位魔法を使う魔族も複数確認しました。」


「なんと?A級がそんな大量に…?」


「国境付近に駐屯していた俺の大隊も遭遇した。直前まで姿を消し、気配を表したと思ったら包囲されている。まるで森全体が魔物かのようだった。物陰という物陰から魔物が湧いてくるんだ。あれ程の気配のコントロールに加えて、統率の取れた波状攻撃。雑魚の出来る芸当じゃない」


四牙の一人のガウェイン。四人のうち最も体格の大きいオーク族の大漢で、大斧を振り回し魔族を蹂躙する鬼神の如き戦いぶりから、荒獅子と呼ばれている。


「今回の一件は、絶対に人為的な魔法によるものです。」


突然会話に割り込んできた、まだ若い魔導士が四牙のルイス。四牙のうち一番歳は若く、軍全体でも群を抜いて若い兵士である。魔法学校を飛び級で入学、その後主席で卒業し、魔道の神童と呼ばれる天才だ。


「キタニスの周辺に広く浅い魔力を探知しました。恐らく誰かの魔法か何かによって、意図的に強力な魔族が大量に集められたのではと思います。他でもない私の魔力探知です。」


「…とすれば、陛下が同盟締結を求めて直々に使者として他国へ移動なさったタイミング…このタイミングを伺って何者かが発動したと?」


「その可能性があるということです」


「…今回の件は重要機密…仮に知っている人間がいるとしたら、国の中枢にいる人物…なるほど。ネズミが入り込んでいる…と言いたいわけか」


王の間にいる騎士達がざわめき始めた。


「…可能性がある、と。魔族は人間が到達できない魔法の領域まで到達できます。国の外から探知する事も充分あり得る話だと思います。魔族に超高位の探知魔法を開発されたと考えても…」


「いや!ルイス君!これはキタニスの存亡に関わる話だ!仮に不穏分子が国の中枢まで及んでいるとすれば一大事だ!早急に中枢を担う人間の調査を…」


「ですからそうと断定するのは!」


「ルイス君の言う通りであると思いますよ?参謀総長。」


再び割り込んだのは、四牙の一人にして、騎士総長のメイゼン。爽やかな好青年という印象で、剣と盾を使った紳士的な剣技には多くの女性ファンが存在する。聖騎士と呼ばれている。


「ルイス君の魔力探知です。何らかの魔法が発動され、高位の魔族を呼び寄せていたのは確かでしょう。それが国の内外か、今この場で言い切るのは時期尚早、混乱を招くだけです!それに、混乱を招く事こそが、魔王含む魔族達の目的かも知れません。我ら誇り高きキタニス騎士の純潔なる団結を乱し、そこに付け入るつもりでしょう…邪な魔族の考える事としては筋が…」


「鎮まれぇい!!!」


王の喝により、ざわめいていた場は静まった。


「…失礼しました。」


メイゼンとルイスは跪き直した。参謀総長も王には口答えできず、口論は終了した。


「…成すべきことは一つであろう?」


「皆常日頃から鍛錬をし、来るべき魔王との闘いに備えよ。仲間との絆も大切にせよ。ここにいる皆は、共に国を守る同志、その心に違いはない!」


「ガッハッハ!何一つキタニスとしてブレぬではないか!杞憂ぞ杞憂!」


変わらず豪快な王である。だが、いずれにしろ、本件について、この場でこれ以上触れない方が良いのは本当である。


「伝令です!」


一人の兵士が王の間の大扉を開けた。


「議論中であるぞ。火急の用か?」


「…はい!城の食糧庫が…盗み食いされていました!」


「なんと…量はどのくらいだ?」


「全部です!城の食料全部食べられました!」


「なんですとー!!??」


「その場で犯人を拘束魔法で現行犯逮捕しました。」


「おお良くやった。早く連れ出せ」


衛兵が数人がかりで、食べすぎて大きなお腹をした女の子を引っ張り出した。そのお腹は妊婦とすら形容し辛く、人がお腹として抱えて良いサイズとは到底思えなかったが、城の食糧を全部食ったという人間離れした業を鑑みると、このお腹の大きさも納得できてしまう節がある。ただ、


「だあああああああ!!!!!」


メイゼンとルイス、王は揃って指を刺して声を出していた。


「お前あの時の!」


「あー、久しぶりー」


とても捕まって王の前に突き出されている罪人とは思えねえ呑気な返事だなおい!!!つか腹でか!!!??人間の腹じゃないでしょそれ!


「なにこの人達〜?知り合い?…痛っ!…もー、な〜に〜?」


「王の前だぞ!言葉を慎まんか!」


「えー、なにそれー」


「…この前も盗人を捕らえていたな?」


「はい!現在、地下牢に監禁中です!」


「そいつと一緒に処刑する。牢に入れておけ」


「は!」


先ほどの女の子は衛兵に連行され、その場は収まった。


(いずれにせよ…本件は魔王の受肉と無関係とは思えない…)


「…決戦は近いかもしれぬな」


王が口を開いた。重苦しい雰囲気のまま会議は終了した。


一方地下牢では


例の女の子が手足に錠をかけられて、囚人として監禁された。


「…処刑は3日後だ。朝に飯をやる。せいぜい大人しくしとけ」


「あ!ご飯くれるんだ!」


「うるさい!」


衛兵はそう言うと地下牢の入り口へと戻った。


薄汚い地下牢の一室に閉じ込められていた。凄く汚いベッドに加えて、一緒にいるのは蜘蛛とネズミさんだけ。


「…あれ、おかしいな…壊せない…」


いつもなら、この程度の錠であれば腕力で壊す事が出来るのに。きっと城の人達にかけられた魔法のせいだろうか?


錠に悪戦苦闘していると、向かいの部屋から声がかかった。


「新入りか?魔力制限をする拘束魔法がかかってる。外せねえよ」


顔を上げると、同じくらいの歳の小汚い男が捕まっていた。


「捕まっちゃったんだー」


「…何したんだ?…つか腹デカくね!?は?え?」


「お城のご飯全部食べたら捕まっちゃった…」


向かいの男は驚愕して声が出せていない。


「……まあ良いや。俺も3日後の執行だ。ちと盗りをやっちまってな」


「盗むのはだめだね」


「お前もそんな変わんねえけどなあ!!!」


「おい!静かにしろ!」


衛兵に静止され、顔を下げた。衛兵が持ち場に戻ったので顔を上げると、あの女はネズミを鷲掴みにして頬張っていた。俺はとても信じられなかった。どうかしてる。


やべえ女もいたもんだな…ま、話し相手は皆死んじまったし…何でも良いか…


俺は先行きを怪しみつつも、残り3日しかない命のため、家族に向けた遺書を書いていた。…隣の腹の音だったりがやかましくて仕方なかった。


一方、四牙の一人、ソニアの私室では


「ソニア、大丈夫かい?ああ…そんなに傷が…」


「傷なら大丈夫ですよ…軍医からも命に別状は無いと言われてます。メイゼンさんこそ、大変な行軍であったと聞いていますよ?お身体など大丈夫でしょうか?」


「僕なら大丈夫だよ。聖騎士の僕が魔族に遅れを取るはずがないよ。ほらソニア、傷に良く効く癒薬を買ってきた。無理せず使って欲しい。」


メイゼンから薬の差し入れをもらうソニア。どうやら、そういう仲のようだ。


「お節介ですよメイゼンさん。軍医から手当は既に…」


「君に何かあったら!僕は生きていけないよ!だからお願いだ…安静にしてくれ。君が担当していた業務は僕がやっておくから」


「…ありがとうございます。」


「おー、メイゼン!そういや報告忘れてたけど…」


「…しっ!!」


ソニアの部屋の外の廊下からガウェインが声をかけようとしたが、ルイスが急いで静止した。


「仲良いの知ってるでしょう?」


「あー、そうだった」


メイゼンが部屋から出てきた。


「お、ガウェインとルイスか。どうしたんだ?二人揃って」


「イルム公国からの使者が来たよ。神継ぎの件と次の人類会議の場所はイルムだってさ」


「そうか、それは日を改めた方が良いな。我々四牙の管轄を超えてる。…それと、ソニアが担当する3日後の罪人の処刑を代わりに受け持った。よろしく頼む」


「わかった。…今回のA級相当の魔族の集団的な襲撃。これは陛下が黒夜と任命された。…どうにも、似たようなケースが各国で報告されているみたい。次の人類会議でも決議するだろうね。」


「人類会議に出席するのは王と、参謀総長だ。我々四牙は口を出せない。」


「いずれにしろ、不穏だね…」


3日後、死刑執行日


王の眼前にて、罪を働いた罪人を処刑する。執行人である聖騎士メイゼンが執行用を剣を持ち、今月は二人の罪人が縛られ、処刑の時を待っていた。


小言で、小汚い男が女に声をかけた


「どうしてそんな呑気な顔してられるんだ?死ぬんだぞ?これから」


女は問いには答えず、王の方をじっと見ていた。


「これより!死刑を執行する!」


男はすぐに目線を下にさげ、項垂れるように聞いていた。


「商人の荷台を遅い、金品食料を奪い取った、罪人ユリース!」


「………」


長い投獄生活により、死を受け入れる用意は出来ていた。


「続いて!城の食糧庫にて盗み食いを働いた、罪人カリーナ!」


「…罪人、何か、言い残す事は?」


「…はい!」


カリーナが声を出した。


「なんだ?言ってみろ」


「どうして私は殺されなければいけないのですか!?」


「倫理観〜〜〜〜!!??」


なにこいつ!?倫理観終わってんの!!??


「盗みを働いたからだ。人のものをとってはいけない」


「私はお腹が空いたからご飯を食べただけです!」


「人は勝手に飯を食ってはいけない。お金を払って、飯を食わねばならぬのだ」


「なぜですか!?誰のせいなのですか!?」


「私!この街の人を見ました!みんなお腹が空いていそうでした…人は生きるために食べなければいけません!なぜそれをしてはいけないのですか!?誰のせいでそうなっているのですか?…あなたですか?」


「貴様!王の御前だぞ!」


「皆がお腹いっぱい食べられない世界なんて…」


「……!!??」


カリーナは縛られていたはずなのに錠を壊して、目にも止まらぬ速さで王に殴りかかっていた。


四牙が反応すら出来ぬ間に拳が王に届く寸前まで寄って言った。


「…そんな世界ない方が良いです…」


王は驚愕しつつも、カリーナの首に後ろからメイゼンが剣をつけた。


「…舐めた真似をするなよ罪人」


「…そうだな、強いて言うなら魔王のせいだ」


「まおう?」


知らんのー!?なんかこの子、その歳までどこかに監禁されてたとか、そんな感じなのー!?つか絶対そんな感じでしょ!


「魔王がいるせいで、人類は窮屈な思いをしている。一歩外に出れば、魔族に怯える世界。魔王が君臨してから、人類は世の端に追い込まれてしまった。」


「…じゃあ、魔王が悪いんですね?」


「魔王が悪いやつなら!私は魔王をぶっ飛ばします!」


そう大声で豪語した。王含め、その場の全員が顎が取れそうになる程驚愕した。


「おい!お前何言ってんだ!頭大丈夫か!?」


ユリースが思わず声を荒げてしまった。それくらい馬鹿げた話だ。


「ふざけるなよ罪人!罪人の分際で王に意見し、あろう事か"勇者"への御指名を望むだと!?良い加減にしろ…」

鬼のような形相で突き立ていた剣を寝かせた。


数秒ほど、切り詰めた沈黙が続いた。その沈黙を王が破った。


「………ガッハッハッハッハッハ!」


「面白い!!!よかろう!貴様をここで無罪放免とし、"勇者"に任命する!」


「陛下!それは…それはあまりにも!!」


「あれ程の高位魔法の拘束を解いてみせた。それに、私はこの目で、娘が魔族の大群を手玉に取っていたのを見ている!この娘は強い!疑いようのない事実だ!」


「ですが!!」


「メイゼン。貴様は、私の目を疑うというのか」


「…いえ、そういう訳では」


「そっちのお前もだ!」


「はい!?」


思わぬ指名に驚愕を隠せないユリース。


「この娘と共に、魔王を討ち果たして見せよ!」


驚きの連続で卒倒しそうだ。


「わ、私で…良いのです…か?」


「…それとも、ここで死にたいのか?」


「…い、いえ!喜んで!」


「娘よ、受け取れ」


王が指パッチンをしたら、カリーナの前に金貨が入った袋が現れた。恐らくは王自身の生得魔法によるものだろうか。空中から降ってきたので思わず抱き抱えた。


「娘よ?これが、お金だ。次からは飯を食ったり、何かを買う時は、きちんとそれを払うのだぞ」


「はあ…はい。」


慣れない"お金"の概念の理解に苦しむカリーナ。


「さあ!今晩は宴だそ!勇者の門出の祝宴といこうではないか!」


えー!!??まじでー?この王すげえな。俺仕える国間違えたか〜?


勇者の門出と称し、城では宴が開かれた。囚人の2人は久しぶりのまともな食事に心踊った。


「美味し~~♡♡」


出された食事を全部美味しそうに食べ、パーティ用の大皿もカリーナは一瞬で平らげてしまった。


「嬢ちゃんすげえな!俺の分もやるよ!」


面白がって城の兵たちがどんどん食べ物をカリーナに与えた。遠慮とかそういう概念が欠落している彼女は、喜んで食べ物を受け取って頬張っていた。


やれやれ…本当にこの女とペアで大丈夫か…?非常に先が思いやられるが…


宴が終わる頃には、城の兵達は寝静まり、その中央で、カリーナも満腹になり寝ていた。


夜が開ける頃には、路銀と当分の食料を背負い、城の人達から背中を押されて旅立った。これが、"勇者"カリーナの門出にして、この世界の救世譚の序幕であった。


続く

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