遭遇⑤

結界は音を立てて崩れていったため、地上でもすぐに異変は伝わった。敵も味方も、結界の構築が崩れていく様に呆然と立ちすくみ、人間は絶望の表情で、魔王の手先達は歓喜の表情で迎えていた。


「なんて…ことだ…結界が…」


「見たか!これが魔王様の力よ!」


だが程なくして魔族の統率が乱れ、敵味方問わず暴れる様になってしまった。


なんだ…?急に魔族達が暴れ出した…?もしかして魔王様に何か…


何事かと驚きながらも、すぐにΩから通信魔法で言伝がくるのであった。


「魔王様は結界の破壊で力を使い果たしてしまったようだ。暫くは魔族の統率が効かない。ひとまずは離脱し、魔王様の容体が良くなられてから総攻撃を仕掛ける。」


「……案ずるな。」


「了解。」


「きけい!人間達よ!この結界の破壊を、我々魔王軍の宣戦布告の狼煙とする!ひとまずは勘弁してやるさ。だが1ヶ月後!我々は貴様ら人類に総攻撃を仕掛ける!」


影の一団のうち、白いタキシードに仮面をつけた男ジョーカー。5人の中では一番の手慣れの彼が言い放った。


「魔王軍?発言には気をつけろよ。生きて返すと思ってんのかよ」


先刻までルイスと撃ち合っていたため、ジョーカーの首は常にルイスが狙っていた。魔法で宙に浮いて言い放っていたジョーカーだったが、発言と共にルイスの強烈な爆裂魔法をくらって地上に降ろされた。


「おーっと危ないね…ガチんちょは感情的で困るな」


画面の一部が衝撃で壊れ、口元からの吐血が見えた。


「なんだ。しっかり効いてるじゃん。さっきからヒョロヒョロして。お前自体が偽物のパターンかと思ったよ」


先程から攻撃を当てているのに全く効いている素振りがない…あのトランプカードか?飛び道具として攻撃にも転用できるみたいだが、いかんせん能力が謎過ぎる…


俺の魔法で相殺してこれか…流石だね"神童"ルイス


「悪いな神童!君に付き合ってる程暇じゃないんだ。」


激昂したルイスの戦闘は魔法の威力を殆ど絞らないため、あちらこちらが魔法の着弾痕で建物が粉々になっている。


「それじゃあ、みなさん。お元気で。」


魔族を残し幹部達は転移魔法で何処かに消えた。


「残った魔族共を掃討して逃げ遅れた市民の救助を最優先!余った奴らは国境の援軍にいけ!魔族達に好きにさせるなよ!」


……クソッ…何もかも全部後手に回ってる…


「ルイス!降りてこい!」


メイゼンの声掛けで我に返り、魔法を解除して地上に降りた。地上ではハルマサ大佐率いるイルム公国軍が忙しなく残った魔族の掃討やらで働いていた。我々四牙は陛下のご安全を確認すると、軍からひとまずの避難所に案内された。最悪である。人類史上でも初めての、対魔族結界の破壊である。


軍は避難所で要人達の安否確認と戦死者の確認を行なっていた。幸いキタニス陣営の被害は少なかった。死人も無し。


「ミネルヴァ女王!魔王軍の幹部である5つの影は皆ガルム人だとの事です!ガルム女王としてこの件について何か一言!」


イルムのマスコミ達からインタビューの嵐を浴びせられているのはガルム女王ミネルヴァであった。


「一切の関与を否定します。」


「20年前のガルム戦役とは何か関係があるのでしょうか?」


「先のガルム戦役は全て先王の意向によるものです。私は先王ではありませんので。これ以上何も答えられません。失礼します。」


「魔王だかに乗っかってイルムに復讐しようとしてるんでしょう!!??」


「なんとか言ってください!」


記者達が去り際に声を荒げていた。大変だなあ。でもきっと順番的に、次はうちらだ。ソルビアやイルム王も記者達に囲まれている。幸い、僕はインタビューされないと思うので楽に傍観が出来る。


「キタニス王!どうなっているんですか!?5つの影が執拗に狙っていたのは、キタニスで拝命された勇者じゃないそうですか!それに!」


記者達はイルムの大聖堂の地下。大聖堂で行われていた結界の破壊の一部始終を見せつけてきた。結界を壊した魔王の傍には、勇者がいたのであった。


「!!!」


「この映像はどういう事ですか?あなたのところの勇者が魔王と通じているだなんて、只事じゃないと思いますけどね!」


やはり…勇者はもう魔王のところに…!


「なんとか言ってください!キタニス王!!!」


何も言える訳がないだろう。実際この人、ここまでの大事になるなんて思ってなかったんだから。僕がもしやと思って色々根回ししていたのに…不甲斐ないな。


だがもう一つ良くない事がある。この報道によって僕達キタニスも世間受けが悪くなってしまったのであった。

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大食い勇者の救世譚 Rei @3686

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