遭遇④
「さて…姉さんはどうしたものかな…」
心を閉ざして以降、僕の干渉にも応じないし…
転移魔法の先はイルムの地下、あの時の玉座の場所であった。
「魔王様、まだ、動かれない方が良いかと。その器では身が持ちませぬ。」
「黙れ。こいつを鎮められたのはつい最近のことだ。まだ身体の制御が効かぬだけだ。」
まるで人格が二つあるかのように、大人しそうな言葉遣いとは真逆の傲慢で高圧的な口調がその口から放たれていた。だが指先がおかしな挙動をしており、まだ肉体の制御ができていないのか、体の動かし方もおぼつかないようだ。
「姉さん、起きてくれよ。そろそろ分かったんだろう?そうやって閉じ籠るの、やめてくれないかな。」
魔王はカリーナを揺り起こそうとしていたが、気づくと手の甲に垂れた血を見て呆然としていた。
「なんと…私の血か…?」
「魔王様の、というよりはその器の血でございますよ。軟弱すぎます。その女の方がずっと丈夫でありますよ」
「……あ、ああ。そうだな。Ωよ、そう認めざるを得ない。」
よろよろと壁を伝いながら歩く事しかできない魔王であった。恐らくは受肉体越しで魔族の制御を行っているため、肉体にかかる負荷が恐ろしく高かったのであろう。
「なぜこいつは起きぬのだ。これでは結界を壊せぬではないか。」
「恐らくは器である彼女自身が、己が役割を自覚する前に絆されてしまったのでしょう。」
「そうか。であれば…此奴の手脚を縛っておけ。影にも連絡を。標的は、あの生かしておいた男だ。」
「分かりました。ですがなりませぬぞ!その御身体では!」
「Ω!!貴様の代わりなどいくらでも創れると心得ろ!」
「…!はい!失礼致しました。」
カプセルの中の人…Ωは、今大聖堂を襲っている部隊に先程の魔王の指令を伝達魔法越しで伝えた。魔王は勇者を連れ、転移魔法でイルム大聖堂の地下奥深くの聖墓と呼ばれる場所の門前に転移した。
「貴様。何者だ。大賢者アストラ様の墓に何用であるか!!」
聖墓の門前にはまるで岩の様な甲冑を身に纏った巨人族の大男がその身丈と同じくらいの薙刀を持って鎮座していた。
「失せろ」
巨人の足元から植物の根っこの様なものが生え、巨人を縛りつけたのち、あっという間に巨人は細切れに四散したのであった。
「っ〜〜〜〜………」
魔法を放った魔王はからは先程よりも多くの鼻血が垂れ、勝手に動き出す頭を抑える様に首を鳴らしたのであった。魔法によって大きな門を開け、聖墓へ入っていった。聖墓の中は広く、中央にはまるで木のように痩せ細り、干からびているように思える大賢者アストラであったものと、1人の老婆が立っていた。
アストラであったものからは、足元から根っこが生え、頭の様な場所から一筋の魔法の線が地上に向かって伸びていた。結界はこの魔法である。国を守る結界は各国の初代王達が身を犠牲にして展開している。
歩み寄ると老婆は口を開いた。
「アストラ様にゃあ…」
バシュン!
言い終わる前に魔王は魔法で首を刎ねた。勇者が目が覚めるまで、魔王は律儀に老婆の死体の上に腰掛けていた。目が覚めた勇者は、大賢者アストラの前で魔王と対面したのであった。
「おはよう。」
「ひい!!??」
眼球からも血を流した魔王の顔は、誰であろうと驚くところだろう。
「あんた…一体何を!」
「私はもう既に君の知る彼ではない。私は魔王。君のぶっ飛ばしたい魔王さ。」
「魔王!!」
魔王は右腕をスライムの様なドロドロの液体に変化させ、勇者の首から上を覆った。
「借りるぞ。貴様の力。」
残った左腕で大賢者アストラの顔を掴み、ガラスが割れた様な音と同時に結界は破れたのであった。
魔王は吐血すると魔法を解除して勇者の懐に倒れ込んだのであった。
「姉…さん…」
「??」
「助け…て…」
微かではあったが、先程の魔王の声圧よりもずっと優しく弱々しい声であった。
「!!」
姉さん?私の事?でも君って…ペンダントの声だよね!?
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