イルム公国⑥
……ここは…?
勇者カリーナは目が覚めると見渡す限りの純白の世界に立っていた。何があるのか、どうなっているのか分からないが、見渡す限り、水平線まで純白の水面のようなものの上に立っているように思えた。
そして視線の正面には、世界と似たような純白のローブに身を纏った、歳が同じくらいの青年が立っていた。
「あなたは誰…?ここはどこ?」
「記憶喪失みたいなこと言うなって。…まあ無理もないか」
「ここがどことかあれこれ説明しても、この世界はすぐに君の頭から消えるよ。だから意味のないこと。」
なるほど…?彼の発言と記憶から推測するに、ここは夢なのだろう。
「僕が君に干渉しているのは、僕からアドバイスをしたいから。」
「バカな君にも分かりやすく言ってあげるね?………魔王は世界の東端の魔王城にいる」
「どうしてそれを教えてくれるの?」
「来て欲しいから」
「だからなんで?」
「倒したいんでしょ?魔王。」
「そうだけど…」
「………ああそうか。バカだからこれでも覚えてないかも知れないな…分かった。」
青年は腕から粘土状のものを出現させ、それでペンダントを作って手渡した。
「これには僕の魔力を込めておいた。迷ったりしたら、このペンダントを開いてみて?聖石へ導いてあげるから。約束する。」
「せいせき?なにそれ?」
「良いこと教えてあげる。魔王城に行って魔王を倒すには、この世界で女神の祝福を得ないといけない。」
「女神…誰のこと?」
「この世界のいうメトーゼ教団のメトーゼ…らしいけどさ?その祝福を得るためには、各国に託された聖石を全部集めなきゃいけないんだ。」
「この世界に人のクニは4つある。各国の王が持つ王冠、そこにはめられているのが聖石だよ」
「え、でも前会った王様は王冠つけてなかった…」
「王達は皆この事を知っている。だから儀式の時か信じた人間にしか王冠を付けたり見せたりしないはずさ」
「聖石が一つの人間に集まった時、女神の祝福を得る。」
「でもね?困ったことに王達は、女神の祝福を得ないと魔王を倒せないって知らないんだ。」
「え?そんなことあるの?」
「信用できない?」
「……うん。怪しいよ」
「じゃあ、そのペンダント壊せば良いよ。」
「こういう時は、大体見返りってのが欲しい時なんでしょ?お爺ちゃん言ってた!」
「見返り?…そうだな…僕はね、君に会いたい。直接会いたい。だから色々教えてるって言ったら納得してくれる?」
「怖いなあ…」
「…ま、君がこの場でのやり取りを全部覚えていられるなんて思ってないけど。…じゃあね?」
夢から覚めると、昨晩見た少しカビ臭い天井があった。
目覚めて体を起こして身体を伸ばして周囲を確認した。そして掌の中には、夢に出てきた青年が手渡したペンダントがあった。
先に起きて部屋に届いていた制服を着てみてはしゃいでいる二人がいた。
「お、起きたんだな!制服届いてるぞ?」
「ちびエルフ用の制服もあるなんて準備がいいなあ」
私は寝相が悪いみたいで、大抵寝癖が凄いことになってしまう。部屋の洗顔台で髪を整えた後、二人の言う制服を着てみることにした。
初めて自分の服以外の服に袖を通した。昨日見た学生達と同じ服を着ているのは、なんとも不思議な気持ちだ。
「お、起きてたのか。ほれコーヒー。お子様は苦手か?」
シュナイザー先生は人数分のコーヒーを淹れてくれた…というよりは、徹夜明けのようで、その延長線上で気を利かせた風のように感じた。
「みんな!おはよう!」
先日うるさかったルーファも何故か扉を開けて挨拶に来た。
「…全くうるせえなあ…」
「今日から学校だよね?起こしに来たよ!」
「えー、どうせ一時的なやつだし卒業したいわけじゃないんだからさ…」
「折角だし話聞きたいとは思うけど…」
「…そうだバカ女、それよりも少しばかり相談が…」
昨日の出来事を思い出すと、バカユリースのせいで無一文になってしまったのだった。
「…でだな?お前は恐らく学校に行っても意味無しだ。だから、冒険者として仕事を探してきて欲しいんだ。」
「しごと!?」
「……冒険者ギルドだろ?貧民君」
「そう!それっす!結局あそこが一番早いのよ」
「地図なら書いておいたぞ?目標は書いてあるから頑張ってこいよ?」
「分かった。がんばる」
制服は脱ぎ捨て、快く了承した。ユリースとディネルはルーファの案内で学院へと向かっていった。
イルム公国の都市街へ行くのはカリーナは初めてだった。当然道が分かるはずがなく、また人混みの中に揺られながら街を徘徊していた。
やっぱり人混み苦手だなー。目が回っちゃう…
ここで思い出した。私には変な奴からの授かり物があるのだった。癪だがペンダントを開いてみた。
「全く…しょうもない事にしか使わないね君は」
「道教えて?」
「いやだ。それくらい自分の力で頑張ってくれないかな?というか、聖石に導くのがこれの仕事なんだけど?」
「ふーん。じゃあその聖石へ導かれるとしたら、私はどうするべきなの?」
「このクニは難しいね‥文明レベルが高いから個人でできる範囲が狭い。でも上手く内部に忍び込めれば…あるいは…」
「それで?どうすればいいの?」
「今は無理。」
そう聞いた瞬間呆れてペンダントを閉じた。全く使えないペンダントだ。
よろよろと道ゆく人に道を尋ねながら、なんとか冒険者ギルドなるものに到達できた。
どちらかと言うと酒場のような印象を受けた。その場にいる方々は皆冒険者なのだろうが、なんだか皆柄の悪そうな印象を受ける。本能的に少し怖いと感じた。分かりやすーい受付嬢に受付の依頼がないか確認してみた。
魔族や動物の討伐依頼だと、
近所の畑を荒らす低級魔族の討伐依頼、行商人の護衛依頼や一般動物の狩猟依頼など、つまんなそうだが低賃金の依頼が多かった。
中には募集資格に魔導士、またはそれに準ずる程度魔法が使える者いう項目があり、私は魔法が使えないので、応募できるお仕事が限られてしまった。世の摂理を見た気がする。
やっぱり魔法って大事なのかな…
その他には懸賞金の掛けられている人物や組織の依頼もあり、5つの影という懸賞金の掛けられている組織の捕縛の依頼が最も目立つように記載されていて、他にはヤクザか反社会組織か知らないけど、悪そうな顔をしている人達の似顔絵が手配書に記されていた。
「あの!もっと凄いのないんですか!?」
「はい?この中で一番の報酬金額は噂の5つの影ですけど…これは国家指名手配の依頼ですので、一般ギルドにも依頼が来ている案件ですね」
「そうじゃなくて!もっとこう…魔王倒すとか!私魔王倒したいんです!」
そう豪語すると背後から嘲笑が聞こえてきた。きっと何かおかしなことをしたんだろう。
「……あはは…魔王は将来冒険者の皆様が倒されるはずですので、ここであえでご依頼を受ける必要はありませんよ?こちらのギルドは一般階級の依頼を取り扱っております。なので、普通のお仕事しかございません」
「皆様…?倒される…?魔王って何人もいるんですか?」
は、話が通じないぞこの人〜〜〜〜!!!
受付嬢は困惑の感情を押し殺しながら、なんとか最後まで接客をやり通した。(偉い!)
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