イルム公国⑪
一方その頃、散策チームの3人は崖寄りのひっそりとした岩場に商人を見つけた。商人は二人組で火を焚き、てなづけたロバと一緒に火を囲っていた。
「いらっしゃい。ゆっくり見てってくれ」
「外での商いとは、中々に危険な事をするのじゃな」
「あんたらみたいな冒険者相手に、ちまちま銭稼いでんだ。」
「…話がある。修繕魔法の類は使えるか?」
「…もっと詳しく」
商人もまた魔法を使える輩である。それは魔力量を見れば分かる。昨日の学園で魔法に触れて以降、これまでなんとなくオーラとしか分からなかったそれが、魔力だと分かった。……最も、そんなものは魔道において非常に初歩的なものなのだが。
我々は荷車が壊れて困っている事、賞金首の剣士を捉えているため、それを報酬金として山分けしようという旨を伝えた。
「…そうか。話は分かった。」
「頼む!お願いだ!ここには魔力と無縁のおじさんもいるんだ!」
「言い方よ」
「…そいつの面見て決めようじゃねえか。案内してくれ」
商人二人を連れ、壊れた荷馬車の場所まで戻ってきた。
「ふうん…お前出る前に手配書見かけたなあ。」
衰弱し拘束魔法もかけられている剣士の顔を確認し、貰える金額に粗方の目星がついた商人二人。
「誰ですか?」
「……!!…商い人だよ。」
カリーナの溢れ出る魔力量に驚いた商人だった。
「お嬢ちゃん、そんなに魔力見せびらかして何がしたい?」
「え?なんのこと?」
「ちと隠す事覚えた方が良いぜ。その量を常に見せてたら人によっては煽りとおんなじだ」
「交渉成立といこう。こっちの奴が修復魔法を使える。荷馬車直してやるよ」
横棒を空に書くようにピシッと指を払い、斬撃魔法で剣士の首を刎ねた。
「…え!?なんで殺したの!?」
この人は悪い人じゃないのに…
怒りで拳が力んだのをユリースと商人が気づいた。
「…そういう話で決まったんだ。そうじゃねえと帰れねえ。我慢してくれ」
小声で耳打ちをして宥めてきた。
「…長生きしたきゃ覚えときな?魔法を使える奴との借りは慎重にしろよ?こんな感じで、殺しや騙しなんて当たり前だからな。」
魔法で荷馬車を直し、商人も連れてイルムまで戻る事にした。商人は刎ねた生首を持ちながらも、話に付き合ってくれていた。
「店、畳んじまって良かったのか?」
「いいさ。最近この辺は全く冒険者が通らなくなってな。そろそろズラかろうと思ってたんだ。」
「最近、魔族が統率を持った動きをし始めてね。黒夜だっけ?」
「そうなのか?俺は良く知らないが…」
「それ以降、この辺にある聖戦時代からの砦跡を魔族が牛耳り初めてね。」
「魔人を筆頭に軍隊ごっこみたいなのも初めてさ?お陰様でこの辺一帯は野良の冒険者は殆ど彷徨かなくなったね。こんなの初めてさ」
「魔族の動きが活性化してる。フリーでやってる冒険者パーティは厳しいはずだ。」
「確かに最近、美味しい魔族増えたよね!」
「はあ!?」
「…おかしいじゃろう?こいつ魔族食えるんじゃとよ」
「ま、マジ?」
暫しの沈黙が流れてしまった。??と皆の顔を見渡すカリーナ。
「ま!!そういう人もいるということで!えへへ!」
「話が本当ならお嬢ちゃん、それはあまり口外しない方が良いな。」
イルムの結界が見えてきた頃、商人達が自分の事を話し始めた。
「イルムは何度見てもくだらねえ国だよなあ。昔の仲間が今も暮らしてるらしいが…ろくな国じゃねえよ。」
やっぱりこの国も良くない国なんだ……
「じゃあやっぱり!こんな事してる場合じゃないよ!魔王倒すしかないって!!」
「魔王ねえ。みんなそれ言うけど」
「魔王…倒せねえよ?」
「昔は俺らも冒険者やっててさ。まあ結局食えなくなって、商いみたいな事もやってるけど、その時の魔法使いの元仲間がいたんだ。でももう別れて10年になるかなあ」
「しょうがない奴でさ?せっかく貰った金全部使っちまうんだよ。」
「…ふーん。それで、なんで魔王は倒せないの?」
「魔王城に入れないという方が正しいかな。俺らもよく分からんが、結界みたいなもので守られていて入れないんだ。冒険者同士でその事実は共有されてて、皆入るための方法を探してる。」
「…誰かが流したデマって可能性は?流した人が勝ち抜きたいだけとじゃないのか?」
「俺らもそう思って、イルムから遥か極東、聖戦跡の大平原を抜けて、魔王城がある場所まで行ってやったんだ。でも確かに、強力な結界によって閉ざされている状態だったな。」
公国につき、冒険者ギルドに賞金首の首を持っていき報酬金を貰い、ヘラジカは肉屋まで無事届けた。
「冒険者様、一時はどうなるかと思いましたがありがとうございました。お陰様で懇談会に間に合います。」
これにて冒険者としての仕事は完了した。懸賞金の分を含めてお金を結構な額貰えた。
「そんじゃあな。これで貸し借りはチャラ。またどっかで会うことがあるだろう。商い人としてか、冒険者としてかは分からんけどな。」
「…そうだ。なああんたら、もし暇なら、さっき言ってた聖戦跡の砦に牛耳る魔人達。奴らは俺ら商い人や交通人からしても脅威にしかなっていない。魔族達が砦の周りを軍隊じみた行軍をして近づけないし、何より奴らは人を襲って拉致したりする。」
「俺ら二人だとどうにもならんし、魔人相手にリスクを取りたくない。その辺で商いは続けるけど、冒険者の総意として、誰かしらが砦の魔族を蹂躙してくれたらなと思ってる。」
「放っておけば国が鎮圧に動くだろ。俺らに押し付けんな。数の面で相手にならんのは俺らも同じ。」
「だから暇ならって言ってんだ。…それに」
商い人の二人は袖口から明らかに価値のありそうな金銀の装飾品を取り出してみせた。
「少し潜伏しただけでこの成果よ!もっと凄い財宝が眠ってても何もおかしくないはずさ」
「お宝じゃああ!!!」
ディネルが突然目をキラキラさせながら会話に割り込んできた。
「ま、ここ以外にも3つ!聖戦時代の砦に魔人が牛耳り始めたってのは聞いてる。」
「こんな事もあろうかと!地図を買っておいたぞ!」
イルムを中心に抽象的に世界の全貌が描かれた地図だったが、粗方の場所を書き示すには充分であった。
イルムから見て西南。我々がヘラジカ狩に出かけたところからすぐ南下したところにある砦と、イルムから北西。ソルビアの雪原の外れである高原地帯にある砦と、イルムから見て南。大森林の奥地にある沼地に聳え立つとされる砦の3つ。3つの場所に宝箱のマークを書いていた。
「うへへへ。お宝お宝〜」
「じゃあな。また会う日まで。」
……あれ?貸しはチャラって言ってたのに、結局これで貸し作っちゃったんじゃ!?
「お宝!お宝じゃぞ!?ほれ早く行かんか!」
「待てよ…もう日が暮れそうだ。帰ろう。それに、今回の金で暫くの生活費は大丈夫なはずだ。無理する必要はない」
「ふうん…貧民!さてはビビっておるな!!」
「そうです!!今の俺だと魔人なんかに勝てません!!なので行きたくありません!!」
多数決だと腹を空かせた馬鹿女も同意してきて負ける気がしたのでやめた。
帰宅。するとすぐさま主に尋ねられた。
「この狙撃銃はなんだ」
「…暗殺者の落とし物。」
「つまり君ら5つの影に遭遇したって事だね?」
「しらーん」
「強かった!私久しぶりに死ぬかもしれない相手と戦った気がする!」
その答えを聞くと項垂れるように椅子に倒れ込む主。
「君らやっちまったな。追い出されないための約束が一つだけ増えちまったな。」
「がーん!!」
なに!?一体何!?このところおやつも抜きだし何もいい事ないよお!!!
「暫く学校しか行き来禁止!カリーナもだ!」
「おたからーーー!!??」
「……取りに…いけないじゃん……」
「がっこう!?あの訳わかんないところに!?」
「…訳を聞いても?そんな代物なんすか?」
その日は答えてくれなかった。
3人は今日もしょうもない布団で雑魚寝していた。目を閉じていたのだが、カリーナはペンダントに話さないといけない気がしたので、ペンダントを開けて小声で話しかけた。
「全く君は悪運が強いみたいだね。色んなことに巻き込まれてしまうようだね。」
「そうだね。数日前まで牢屋にいたっていうのにね」
「……ん、……ごめん。なんか僕眠いや」
「え!!眠いとかあるの?」
「分からないけど…凄く…眠い…」
「ふーん。おやすみ。」
ペンダントから返事は返ってこなかった。
ペンダントを閉じる。チラッと後ろに気をやると、まだシュナイザーさんはなにやら書き仕事をしている。一人でぶつくさ言いながら。二人はもう寝ているし、私も寝ることにした。
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