遭遇

目が覚めると玉座のような場所にいた。先刻の魔法の影響だろうか?少し頭痛がする。


「ねえ、ここはど…」


ユリースに口を押さえられ、肩を抑えられながらも耳元に囁いてきた。


「静かに!頼むから飲み込んでくれ」


声の小ささとは裏腹に事の重大さは大いに察する事ができた。


「先生。お望み通り連れて参りました。」


先生、と呼ばれるものは、液体が満ちているカプセルの中に入っていて、人の形は保っているものの、目や皮膚といったものは爛れて、呼吸器で辛うじて命を繋ぎ止めているような状態であった。


呼吸器を通じた呼吸音は玉座の間にゆっくりと響き渡っていた。


ここはイルムの地下奥深くの祭壇である。イルムには奴隷や下位身分が暮らす地下空洞があり、そこにある古代遺跡とされる跡地をずっと潜って行った先である。あの後3人は地下へと連れていかれ、リアン達が率いる学園の暴徒達が屯しており、それとは別に軍服のような格好の連中もいた。


「…よくやったぞリアン。それでこそ我が弟子よ」


「いえ。先生の教えあってこそです。」


カプセルの中から呼吸器を通じて声が聞こえた。


「神子様よ。もっと近う寄ってくだされ」


カプセルがそう言うとカリーナは玉座のすぐ側まで魔法で引っ張られた。


「誰!?私は何も…」


魔法で面前に浮かされていたが、必死に足掻こうと力んでいた。


「器に要はない。神子様を出せ」


次の瞬間、私の脳裏、あの時夢に見た湖のような場所に意識が映り、湖は波打ち、やがて波は大きな津波となって私自身を飲み込み、私は湖の中に沈んでいった。


現実の私は、気絶したように力は抜け、玉座の前で倒れ込んでしまった。


「カリーナ!」


「貴様らあ!まだ諦めておらんかったのか!!この外道め!」


ディネルは何か知ってるのか?確かにリアンの闇魔法を見た時の反応は…声こそ出していなかったがゾッとするような反応だったし、リアンと戦った時も、凄く嫌そうな顔をしていた…


「そいつが廻った者だとしても!器たる彼女はそいつとお前らは無関係じゃ!ぐ!うう……」


ディネルも同じく意識を失った。魔法によるもの?


「ディネル!…さっきから…話の流れが分からねえよ…何がどうやってやがる!?」


「ユリース…と言ったか」


「!?」


「哀れだな…この宿命に交わった事が運の尽きよ。真実を見たものは残らず殺せ。リアン、殺るのだ。」


「…お待ちを。彼は魔法の才に乏しい者です。」


「ユリース、これが我が先生の力だ!先生が俺に分け与えてくれた力だ!」


「…見てくれ。」


リアンは転移魔法で自分の身丈よりも小さい人間を2人召喚した。


「俺はな、もう力無き者が不条理に踏み潰されるのを見たく無いんだ。」


「リアン兄…あの人…誰?」


「……!!??」


俺の脳裏に、あの時微かに聞いていた眼鏡生徒の話がよぎってきた。


〜彼は戦争孤児で〜〜兄弟と3人で過ごしてきた〜奴隷として買われてしまった〜


魔道の才を持たぬ者への扱い、そんな中で奴隷として買われた下の兄弟達…そして怪しい術…


「ま、まさか…お前…」


点と点で仮説を導き出すには充分すぎる情報だ。


魔法の光の槍がリアンの兄弟の胸元を突き刺した。魔法を振り解き意識を取り戻したディネルから放たれたものであった。


貫かれた胸元には風穴が開いていたが、気の根っこのようなものが風穴を瞬く間に埋めていき、再生していった。


兄弟達はもう死んでるんだ…こいつ…


「闇魔法は現代魔法では届かぬ事を可能にする力さ!才能も何も必要ないのさ!どうだユリース!この力があれば、お前を見下してた奴よりも強くなれるんだぞ!お前でもだ!」


「ダメだ貧民!話を聞くな!!」


「うるさいな…」


「ぐう!」


リアンは指先から伸びる闇魔法でディネルを貫いた。


「先生、どうします?殺しますか?」


「ぐぬう…この器…中々生きる意志が強い…私では…」


カリーナも魔法に抗っているようで、頭を抱えて痛がっていた。


「共に先生に忠誠を捧げ、腐った魔法の世界を正そうじゃないか!なあユリース!」


「ひ、ひぃ…」


俺はこの状況にたじろぐ事しか出来ず、問い詰めてきたリアンに対して曖昧な返事しか出来ずにいた。


だが気がつけば自分の足元には金色の魔法陣が煌めき始めた。ふとディネルの方を見ると、腹を貫かれつつも最後の力を使って俺に魔法を使おうとしていた。


「!!逃すな!殺せ!」


片腕からディネルを貫いた魔法と同じものを俺の方に放った。反射で目を瞑った時、転移魔法が発動し、俺は光に包まれたのであった。

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