イルム公国②

一方、学院長の部屋に残されたカリーナは、厳格な雰囲気の沈黙の中にいた。


「勇者カリーナよ。せこい問答はせぬ。その方がお主も楽だろう」


学院長は背丈ほどある魔道杖で床を叩いた。音と同時に、学院長の隣に同じく背丈程の骸骨がふっと現れた。禍々しい気を纏っていた。


「戦う様を見れば信念と覚悟は透けて見えてくるものだ。」


骸骨は大剣を構え、部屋の中央で一人で立っているカリーナに殺意を向けた。


「……美味しくなさそう…」


「…関係ある????」


仕方なく学院長はもう一度床を叩いき、音に応じて骸骨には肉が付与されて、人っぽくなった。


「…やっぱり美味しくなさそー…」


「なんなんだよ!!」


呆れた学院長は彼女への配慮をやめ、骸骨をカリーナへ差し向けた。"美味しそう"ではない相手に対してやる気の出ないカリーナ。のらりくらりと攻撃を避けてばかりで一向に骸骨を仕留めようとしなかった。


(なんだ…?話に聞くような凶暴性がないぞ?)


戦闘の様子をまじまじと見つめながら頭に疑問符が浮かんでいるようだ。


(んー。なんか全然やる気出ないなー)


カリーナは戦闘中にちらっと学院長の方を見て思いついた事があるらしく、骸骨を学院長の方に蹴り飛ばした。2名の周囲に張り巡らされた結界防御魔法によってすぐ骸骨は跳ね返されたが、その際のゴタゴタで学院長はカリーナを見失ってしまった。


(まった!どこに行った!?)


ふと周りに意識をやると、巨人族である学院長に合わせて作られた、特注の机の上にあった茶菓子が無くなっていた。そして次の瞬間には衝撃と共に魔道杖が破壊され、骸骨も結界も消えてなくなっていた。魔法使い本体を攻撃したことによって魔法が解けたのだ。


(そうくる〜!!??色々突っ込みたいとこあるけど、こーゆーのって戦いの中で覚悟とか見定めてって流れだよねー!?)


いつの間にか初期位置に戻って何事もなかったかのように呑気に菓子類を頬張っていた。


「………」


気まずい沈黙が数秒続いた。


「帰ってよろしい」


沈黙を学院長が破り、声と同時に部屋の大扉が開いた。


呑気に部屋を出て行く彼女を見ながら思考に耽る学院長だったが、扉は彼の魔法によって閉められた。


結局どうしろとか言われていないので、しばらく学院を徘徊することにした。


とはいえ学院というものを初めて見る。右を見ても左を見ても何が何だかわからないため、大廊下の真ん中で呆然としていた。


その場で突っ立っていても歩いている学生達に突っぱねられる一方で、みるみる講堂の端に追いやられていった。


歩く学生と肩がぶつかりそうになったので一歩後ろに引いたが、不幸にもその一歩は階段を踏み外してしまった。


「あっ…わわっ!!」


学院の中でも端の、物置のような部屋にまで転がっていってしまった。


「いてて……」


衝撃に応じて落ちてきた荷物を掻き分けて起き上がった。埃が落ちてきて咳き込んでしまったが、背後に人影を感じた。その人影から感じたのは警戒と殺意だった。中々に運が悪いが、見てはいけない場面を見てしまったのだろう。


「誰だお前。見た事ないし、制服も着てないからここの学生じゃないのか」


背後から語りかけてきた人影は、年は一回り上だが筋肉質な男性だった。妙なフードを被っていて詳しい姿形はよく分からないが、何やら顔に民族的な入れ墨のような黒い線が入っていた。


「……つかそれ、ずっと前の学生が寝かせてたカビパンだぞ!!!!」


つい衝動的に口元の食材は口に入れてしまうため、荷物の落下に乗じてずっと昔のカビパンを口に入れてしまったようだ。咀嚼しながら話を聞いていたのでツッコミが飛んできてしまった。


「……美味しくないと思った……」


「カビ剥がして食おうな…まあいいや。」


「成程、全くの無知か。学院のセキュリティもガバガバだな。……ここで俺を見た事含めて口外禁止。分かったな?」


全く状況が飲み込めぬままとりあえず了承した。男が私の足元に手をかざすと、魔法陣のようなものが出現すると同時に光に包まれ、次の瞬間にはもといた大廊下に戻っていた。


魔法陣が光る一瞬で男の姿がよく見えたが、上はフードを被っていたが下半身はここの学生と同じものを着ていた。きっとここの学生ではあるのだろうか?でも反応を見るにきっと良くないことをしている人だし…


一悶着あったので身体のエネルギーが入ってきたので、勇気を出して学院を捜索してみた。


しばらく捜索してみた結果、どうやら学院というものは魔法の授業をするもののようで、たくさんの教室の中で色んな授業をやっていて、話をしている内容は教室によって違う 以上が私が理解できた事だ。大半の授業は言っている意味が分からなかった。


「あ!この前のやつじゃん」


理解不能な情報の羅列に悶絶して白目を剥いていた最中に、隣の席の奴が話しかけてきた。階段登った後ルイスに話しかけていた後輩だ。


「転入でもしてきたの?つうかルイス先輩どこにいるかわかる?」


てんで分からないのでその旨と、学院長の部屋に連れられて試練?を与えられた事を伝えた


「えー!学院長の部屋に行ったんだ!?よっぽどの事やらかさないといかないよ」


「それで…学生としてここで授業受けてるって事?ルイス先輩が連れてきたんだし、それくらいの措置は納得だけど!」


「い、いや…そういうわけでもない」


「え!!??」


学生でもないのに授業を受けているという衝撃で一瞬声が詰まっていた。


「ええ〜〜〜〜!!??」


「そこ!うるさいぞ!講義の邪魔だ!」


結局講義どころではなく、学生食堂で落ち着いて話をすることにした。


「なるほど…?学院長の魔法で産み出した骸骨と闘うのが面倒だったから、簡易結界を破って学院長本人の杖を攻撃したら試練が終わった…?」


「全然ワカラーン!」


「少なくとも君が話した情報だと、学院長の狙いも、退室の理由も謎だ。でもまあ、一般常識的に言うと…」


「君はダメだったんじゃないかな?」


カリーナは全然話を聞いておらず、学院の学食を一心不乱に頬張っていた。


(奢るとは言ったけど…この娘めっちゃ食うじゃん…え?なにこれ?飯が…溶けるみたいに無くなってくぞ…?)


このままでは飯代はかさむし話は出来ないしでキリがないので、ひたすらに飯にかぶりつくカリーナを無理矢理学生課の応接室まで引っ張っていった。


学院の事務員が対応のため部屋に入ってきた。ひとまず訳を話した。


「ええっと…つまりこの人は…」


「迷子です」


「待ち合わせの場所とか、聞かされてないの?」


「なにも…」


「でもルイス先輩の事ですから、多分考えがあってのことでしょう。」


「そうだよね…」


「どうしましょうか。放っておいても学食全部食べそうなので…」


二人が悩んでいると、魔法による校内放送がかかった。


カリーナさん!カリーナさん!至急学院長室にお越しになってください!


「……呼ばれた」


「僕が案内しますね?」


「え?私場所覚えてるよ?」


「とにかく!一緒に行きましょ!一緒に!」

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