イルム公国③

放送で呼び出されて、再び学園長の部屋に案内された。


部屋の扉が開いた途端、身体の自由とは別に学院長の魔法で一気に部屋まで引き込まれ、気がつけば正座させられていた。


学院長は随分焦っているのか落ち着きのない様子で、カリーナを座らせるとすぐに口を開いた。


「急に呼び出した事は謝ろう。ルイス君から任された君の処理に関してだが…」


「許可しようと思う」


「………はい!!!」


「なんだね?」


「何のことなのかさっぱり分かりません!!」


「ふああああ!?」


「あ?えっと?何も聞いてないのかな?ルイス君から?」


「はい!!!!」


「君を研究対象として学院で保護観察してくないか、とルイス君には言われているんだ。…あ、なら被験体である君が知らないのは当然なのか…?」


カリーナは話が分かっていないようでぼーっとしていた。


「だ!か!ら!ここに住んで良いよって事!」


「住む?」


「そこから分からんのお!?」


この子文明的な生き方をしてこなかったのか…?でも言葉は話せるし…身の回りの手入れなどは出来るみたいだし…


「寝泊まりして良いよって事」


「……いらないです!」


話通じねえええええ!!!???


「君が要らなくても他は要るの!!!」


状況と今後の事について彼女に理解させるのに小一時間ほど騒ぎながら問答を繰り返していたが、途中から呆れて魔法で筆を動かし手紙を書き始めた。


「…もう君では埒が開かないから、ルイス君に向けて手紙を書くね。君はこれをルイス君に渡してくれれば良いよ。わ!か!る?ルイス君には正門前に待ち合わせさせろって言われてるから……それと、居候先のシュナイザー先生にも挨拶しておくんだよ?」


手紙を持たされて扉から魔法で飛び出されたカリーナ。


ひとまず言われた通り地獄階段を下った正門前で待っていた。ただ、ルイス達はいつまでも来なかった。学生皆が授業が終わり、出入りする学生の山を見続ける事しかやる事は無かった。


皆を待つ事数刻。先程からの視線の主に対して威嚇も兼ねて少々殺気をこめて挨拶した。


「……あのさ。気づいてないとでも思ってるの?」


「……へへ。まあ流石にバレてるか…」


物陰から姿を現した彼に視線を向けると、彼は午前中ルイスに挨拶していて、私にご飯を奢ってくれた奴だ。


「どしたの?さっきからずっとそこから見てるよね?」


「ルイス先輩!」


「……は?」


「今日こそはルイス先輩捕まえて稽古つけてもらうんだ!君ってルイス先輩の回し者でしょ?だったらついていけば会えるかなって…?」


凄い早口で言ってくる。必死そうで嘘ではなさそうだ。こいつはルイスオタクなのかも知れない。


「あー。私も…今ルイスの事待ってるんだよねー。ここで待てって言われたから」


「なるほど!!!じゃあ僕も!」


綺麗に僕の隣に正座した。私は適当に正門の壁に寄りかかりつつ、こいつと共に時間を潰すことにした。


しばらく経って、こいつの異常なまでのルイスへの熱意がどうにも引っかかり、質問してみることにした。


「……あのさ、ルイスとはどういう付き合いなの?」


「そりゃあもう!!推し!!!!!」


「は?」


「忘れもしませんよ僕が入学した時の学院魔導大会で数多もの学生をバッサバッサと薙ぎ倒して優勝もぎ取った様おおおお!!ルイス先輩他の学生よりも一回り二回りも背丈も歳も低いのにそれを感じさせないはおろかむしろ低い事によってルイス先輩の天才じみた魔法の才能が際立ってるように見えますよねほんと凄いですよ先輩わあ!」


「…おう、そうだな」


「あの歳の割に高圧的な態度も最高ですよね!!!もう既に周りとも違う感じ!!!俺最強お前ら雑魚みたいな思考回路が分かりやすくて良いですよねええええええ!!!!」


「おうおうおうおう」


「僕ルイス先輩みたいな強くてカッコいい魔導士になろうって改めて思ったんですううう!!そんであれから早4年!僕ルイス先輩に認められたくて学院一の模範生に選ばれるくらいにまで勉強頑張ってるんですうううう!!!」


「へ、へー。」


聞いて後悔した。適当に聞き流すことにした。


皆んなが私を迎えに来たのは日が暮れてずっと経った後。もう周りの店も閉まり静かになった真夜中だった。


「あ!ちゃんと正門前に待ってたぞ!おっし!僕の勝ちだな!」


ルイスとディネルとユリースと、なんか知らん中年男性が一人混じっているぞ?


「ちぇ…カリーナの事だからどっかにいくと思ってたのに…偉いぞカリーナ。偉い偉い」


ユリースは犬みたいに頭を撫でてきた。


「……やめてくんない?」


ムカついたのでガチトーンで殺気を飛ばした。


「げっ…こっわ…」


「ルイスセンパーイ!今日という今日こそは逃しませんよお!絶対稽古つけてもらいますから!」


「げ!ルーファ!もうとっくに帰ってると思ったんだけどな…」


「何言ってるんですか!僕ルイス先輩に憧れてガクガクシカジカ〜〜………」


「キッモ……」


ルイスはルーファに対し本気の軽蔑を向けた


「それはおろかですねえ?皆様に先輩の魅力を伝えたくて、僕のご意向で学院中にルイス先輩の推しポスターを設置してます!」


「マジキッモ………」


はあ…扱い方を間違えたか?凄く拗れてるぞこいつ。


「だ!か!ら!お願いしますよお〜〜!!!」


凄くキラキラした視線を浴びせてくる。


「困ったな……」


見込みないんだよなあ…コイツ。ガッコの成績良いのと実戦は全然違うからなあ……誠意の指標にならないというか……


「…あシュナイザー先生!お疲れ様です!」


ルーファはシュナイザー先生の気配に気づき挨拶をした。


「おう…お疲れ…」


何やら元気がない。何かあったのだろうか。


「…あ、そうだルイス。これ」


カリーナは学院長から預かった手紙を渡した。封を開けて中身を読むルイスだった。だがほんの数秒の後、視線を私に向けて口を開いた。


「承諾していただけたのなら良かったよ。ひとまず君らに拠点ができた。」


「おい、貧民とエルフ」


「なんすかー?」


「君らも、シュナイザー先生の研究室及び書斎で寝泊まりして良い。及び居候3名は、学院の一時的な在籍を認める。……つまり、この人の部屋で寝て良いし、好きに授業受けて良いってさ」


「…え!?よっしゃあ!」


「あくまで、彼女の研究対象としての保護観察が目的だけどね。月に一回ほど、シュナイザー先生の実験に付き合ってもらう事が条件だけどね」


二人とも仮の拠点ができたことに喜んでいた。まあ、これまで野宿続きだったから無理もない。


「やったなカリーナ!明日から暖かい布団だぞ?」


「そーだね。…私はあんまり気にしないけど」


「……あそうだ。言わなきゃいけない事があるんだ」


「……?」


「ごめん。お金全部使っちゃった。だから…当分おやつ無し。ご飯も我慢して欲しい」


「…………!!!!」


驚愕の告白にしばらく声が出せないカリーナ


「……ッッッ…な、何してんのおおおおおおおお!!!!????」


彼女から出た魂の叫びが、真夜中に鳴り響いた。

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