魔法のクニ編

イルム公国①

「お…おおお!すげーーーーー!!!!」


三人は初めて見るイルム公国の街並みに驚いていた。それもそのはず。イルムは魔法の国と称される魔道の先進国であり、街のあらゆるところに魔法が行き届いていて、大変便利な国である。キタニスでは考えられない高層ビルが立ち並び、町中が人工的な光源でキラキラしていてとても眩しい国だ。


一歩歩き出すと、床が自動的に動き出した。読者的には、エレベーターというやつである。


「え!?えええ!?凄え!床が動いてる!歩かなくて良いんだ?」


「イルムってのはこういう国だよ?大体全部全部魔法で実現してる事なんだよね」


エレベーターで下まで降りた。


「へいタクシー。」


ルイスがそう言いながら片腕を上げると、飛行型のオープンカーのようなものがすぐ反応して一行の隣に止まった。


「ほれ乗りなよ。代金僕が奢るから。」


「おわあ…すげー…」


他の三人もタクシーに乗り込んだ。


「イルム魔導学院っと…捕まっててね。これ結構飛ばすから。」


行き先を指定すると、タクシーは目にも止まらぬ速さで魔導学院に向かっていった。


「早えええええ!!!!!!!」




四人がタクシーへ乗り込む様を、イルムの高層ビルの上から見張っている人影がいた。


「やはり目覚めたか…神継ぎの件、出し抜くのは我々、"五つの陰"だ」


「皆に連絡を。プランCだ」


イルムの高層ビルを、人陰は駆け抜けて、街ビルに消えていった。




一方勇者御一行は


10分程でイルム魔導学院という場所に着いたらしく、一行はタクシーを降りた。


周りの先進的な施設とは異質で、まさに学院!という感じの厳かで古典的な建物が目の前にあった。


「ほら行くよ?」


厳かな門構えに反してやたらと先進的な衛兵がいたが、やはりルイスの胸元のバッジを見せるとすぐ通してくれるようだ。


「え!?階段多くない!?」


無駄に長い階段があり、足腰に負担が生じるやつだ。三人はチマチマと一段づつ上がっていったが、ルイスは飛行魔法を使ってふわっと一番上に登ってしまった。ずるい。


三人は階段を上がりきる頃にはすっかり息が上がっていた。


「この階段をどうやって楽に登るかは、ここの学生なら誰だって考えてる。最初の関門ってやつかな」


「ちょ…ちょっと休憩…。ゼェゼェゼェ。」


複数の一般の学生が門から階段を登ってきたが、どれも魔法を駆使して楽して上がってきていた。


「ほらね?まあ、頭の硬い古典的なバカは真面目に登るけどね…」


「あ!ルイス先輩じゃないすか!?」


登校中の学生の一人がルイスに声をかけた。ルイスよりもずっと歳上…カリーナやユリースと歳は変わらなかった。


「おー元気か?ちょっと用事があってね?」


「マジすか?終わったら稽古つけてくれません?ルイス先輩いなくなってから退屈っすよ!」


「あー…考えとくよ。もうすぐ三限だろ?遅刻すんなよー?」


「うっす!」


学生はカバンを持って正面の玄関へ走っていった。


「もう休憩は済んだろ?ほれ歩くぞー」


四人は学院の玄関をくぐり、長い廊下の一番奥、学院長の部屋に連れられた。


「要件は全部僕が言うから、君らは大人しくしとくんだよ?くれぐれも、余計な事言わないように。」


ここまでまっすぐ歩いてきたはずなのに、カリーナはどこからかパクって来た揚げパンを頬張っていた。


「えー!!!!誰のおおおおおお!!!???どっからとってきたのよおおおお!!!???」


「おいこらあ!俺の揚げパン返せええええ!」


一行の後ろから揚げパンを取られた学生が追いかけて来ていた。相当怒っているようで、魔法学生なのにも関わらず殴りかかって来た。カリーナはすっと拳を躱し、裏拳1発で学生は撃沈した。


それを見かねたルイスは学生に治癒の白魔法を施し、揚げパン分の小銭を置いてあげた。


「………心配だなあ。怒られるの僕なんだからね…頼むよ?」


学院長の部屋の大きな扉をノックし、部屋に入っていった。部屋の中には長い白髭を生やした怖そうな爺さんが座っていた。巨人族のため、とても背丈は大きかった。基本的に呑気な三人も、この怖そうな雰囲気を察知して背筋を伸ばす程だった。


「失礼します。……急な申し付けでしたが、お時間を頂き光栄です。例の勇者達をお連れ致しました。」


「……君だから時間を取った。彼女が例の勇者であるな?」


「はい。」


「……と、その仲間…か」


「成程…確かに、君が紹介するだけのことはありそうだ。ルイス、他の二人を連れて下がっておれ。二人で話をしたい」


「…失礼します。シュナイザー先生への挨拶がてら、二人に学校を案内します。」


「うむ。」


再び扉を開け、二人を部屋の外に出すルイス。


「…ルイス、一つ確認がしたい」


「なんでしょうか」


「この件はキタニスへの忠義か?」


「……いいえ。魔道への忠義です」


「………下がれ」


学院長の部屋の扉は閉められ、三人は部屋を後にした。


「怖かったあ…」


「下手言うと殺されるからねー」


「学校の校長なのに人殺しをするのか!?」


「この国は、魔法が上手い人間が偉いんだ。大して魔法を使えない、君らはこの国じゃハエかなんかだよ」


「私は魔法使って戦えるぞ!この貧民とは違って!」


「学院卒業レベル…ってとこかな。就活頑張れば、拾ってもらえるってとこかな。あーでも、魔法応用が出来てないからどこも取ってくれないかもなー。」


「はあ!?なんだそれは!?しゅーかつ?何のことじゃ!」


「まあいいや。とりあえず、シュナイザー先生のとこに行くよー」


三人は研究室が並ぶ学院の二階へ上がって行った。廊下を歩くだけでもあちらこちらから魔法の実験の異質な音が聞こえてきたり、不良品の不始末が廊下まで飛んできたりと、学院一治安の悪い廊下だ。そんな2階廊下のシュナイザーと書かれた部屋のドアをノックした。


「…あれ。シュナイザー先生留守だな。…どうせあそこだろうな。」


「……まあ良いや。シュナイザー先生のところ行くから着いてきて?」


「ドッフウウウウ!!!???」


ユリースは向かいの研究室から出てきた変なかぼちゃの頭をした犬のような生き物に背中をド突かれた。まるでおもちゃのように、ユリースをド突いた後は電池切れのように静止していた。


「な、何じゃこの犬!?」


「あらやだ♡ごめんなさあい♡」


この犬は向かいの研究室で研究をしている、熟年のオカマ教授の実験体のようだ。


「あら〜♡ルイス君ったらお友達連れてきたの?」


「いいえ。任務です。シュナイザー先生は…」


「"熱"を感じに行ってるわ♡」


「やはり…」


ド突かれた衝撃からユリースが復帰した。すると、ユリースを見たオカマ教授はユリースを一目見ると


「あら♡良く見るとイイオトコ♡」


「ええ!?」


「興味あったら、夜にここに来なさい?」


その場で住所と思しきものが書いてある紙を渡された。


「は…はあ。」


「良い返事、期待してるわ♡じゃあねルイス君。ワタクシ、研究に戻るから」


「はい。お疲れ様です。」


オカマの教授はそう言うと実験体を引っ張り、ぶつぶつ言いながら研究室に戻っていった。


「…あの人は、キャンメル先生。ああ見えて、傀儡魔法の第一人者なんだよ」


「はえー。化粧クソ濃いし横に太いし誰かと思ったぜ」


「それじゃ、シュナイザー先生のとこいくよ?」


というと学校から出て、再びタクシーを使い、たくさんの高層ビルが立ち並ぶ中心街へ飛んでいった。沢山ある高層ビルのうち、やたら七色の蛍光色で光り輝く変な建物の前でタクシーは止まった。


「うお!なんだここ?めっちゃギラギラだぞ」


ギラギラとした光とギュインギュインとした音が鳴り響く魔法装置の列が続く店内。この列の一番奥。装置の前で釘付けになっている中年の男。どうやらこの人がシュナイザー先生のようだ。


「シュナイザー先生!例の勇者の仲間、お連れしましたよ!」


そうルイスが呼びかけても、彼は装置に浮かび出されている映像に夢中で、全くルイス達に気づかなかった。浮かび出されている映像はグルグルと回り、なにやら凄そうな色がギラギラと発されている。


「……いいよ、いいよ確変くるよ…来い来い来い…」


なにやらぶつぶつと言っている。きっとこの装置の話だろう。


「…はあ。」


「シュナイザー先生!!!お連れしましたあああ!!!」


ルイスはその様に呆れつつも、先ほどの何倍も大きな声量で叫んだ。


「わあ!なんだよ!…ああルイスか、何だよ脅かさないでくれよ…」


「反応してないのそっちですよね?」


「大丈夫なのかこいつで」


ディネルが心配そうに言った。周りにも似たように装置に釘付けになり、人ではない形相で装置を動かしている人達がいた。


「あ、これが言ってた例の…なるほど。分かった。」


「協力してくださる…という事ですか?」


「条件がある。」


「………一万ゼニーだけ貸してくれない?負けちゃってさー」


(ダメだこいつ〜〜〜〜〜!!!!!!)


その返答にルイスも頭を抱えることしか出来なかった。だが幸い、一万ゼニーは割とすぐにだせる金額ではあった。


「ふざけんなよおっさん!」


「お?なんだよ。隣座って、とりあえず一万入れてみろって」


やめておけというルイスの静止を振り切り、シュナイザー先生の隣の魔法装置に座るユリース。


魔法装置にお金を入れ、しばらく魔法によって流れる映像を眺めていた。


「いつまで見てりゃいいんだよ」


「もうちょい。もうちょい。」


「〜〜〜?」


とりあえず言われた通りに映像を続けた。映像の中の主人公が、一定の動作を繰り返していた。すると、ある時主人公の行動に変化が現れ、装置が光り始めた。


「!!!???」


光り輝く装置と同時に、全身にワクワクした感覚が冴え渡った。恐らく魔法によってワクワクしているのだろうが、最高にたまらない。


さらにずっと演出を見続けると、どうやら当たったようで、音に加えて、以前よりも激しく装置がギラギラとした光を発した。


(なんだこれ…クッソ気持ちいい…魔法なのか知らんけど、脳内に快楽の感情が溢れてくる…!!!)


気がつけば1万ゼニー分の演出は終わった。だが、当たりの演出分のお金は帰ってきた。


「…え、一万がこんな簡単に無くなるの…?」


どの道カリーナのおやつ代にしかならないのだが。


「え!え!もう一回やろう!」


もう一回一万ゼニーを入れ、映像を見続けたが、今回は演出こそあったものの、外れたらしく、気持ちよくなる魔法は発してこなかった。お金も戻ってこなかった。


「当たれば元金が戻ってきて、ハズレれば戻ってこない仕組みなのさ」


「こ、こりゃあ…たまんねえなあ!!!!」


気がつけば先生と一緒にずっとこの装置で遊んでいた。


「やれやれ。やはり貧民だね。アホだ。」


「私らはどうすれば良いのだ?」


「店の外で待っていようか。」


先生とユリースが店から出てくる頃には、折角王から貰った露銀はすっかり無くなっていた。


「大負けだあ…金ないよ…」


「だから、やめとけって言ったのに。」

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