門出③
「ねえ〜!?ま〜だ〜?」
カンカン照りの真昼間の中でディネルが駄々をこねる。これだけは見かけの年相応の言動だった。
「んー、やっと折り返しってとこかなー?」
「…つか、暑くて死にそう。どっか川でもないのか?」
草原とは言え、ずっと日差しが照っている状態でもう半日は休憩なしで歩きっぱなしだ。カリーナ以外、皆多少なり疲れが表情に現れていた。
「あるにはあるだろうね。…でも、大概外での水辺は魔族か外の生き物が牛耳ってるはずだよ?」
「…水…あっち!」
カリーナが進行方向とは垂直方向へ指を向ける。
「なんで分かるんだい?」
「水の匂いがする!」
えーまじ?すごくね?
カリーナが向かうがままに皆はついていくと、確かに湖が見えてきた。先刻ルイスが言っていたように、大きな水辺には大きな主が居座っていた。全身が灰色の鱗に覆われた、我々の背丈の何十倍はあろうドラゴンが湖にはいた。湖を守るように中央の離島で眠っていた。
「…マジで言ってるかい?」
「俺は戻る!無理無理無理!」
我々の背丈ではドラゴンにすぐにパクッと食べられてしまう程のサイズ差だ。
「…つか!四牙様だろ!?強いんだろ!?あんなのヨユーなんだろ!?」
「…一個大隊で相手するような獲物だよアレ?」
とは言っているものの、表情と物言いに迷いは無く、実力的にはあのドラゴンを倒す事が出来るのだろう。
「…そもそもさ、僕君らとは協力関係なのであって完全な仲間ではないワケよ。余計な寄り道までお世話はしたくないかなー」
「はー!!つまんな!!」
「分かりましたよ!黙って歩きます!」
「やれやれ。これだから貧民は。」
「ほんとにお前ぶっ殺すぞ?」
カリーナはじっと湖、即ちドラゴンの方を見つめて立ちすくんでいた。
「…お嬢さんはやる気みたいだけど」
「ディ…ディネルは…?」
カリーナの脚元に隠れながら、同じくドラゴンの方を見ていた。
ルイスはそんな二人の姿を確認すると、湖の畔に目をやった。そこには騎士の甲冑と武具が散乱していた。
「……なるほど。」
「やる気なら止めないよ。僕もあまりこいつには生きて欲しくないし。でも僕は戦力的に干渉しない。それで良いね?」
(このお嬢さんの力の底を確かめておかないとね…向かうところ敵なしでは、物差しにならないし。)
カリーナは返事はせずに、ゆっくりと湖に向けて歩き出した。
「頼むぞ!バカ女!」
「へえええ!?まーじで!?」
「どうするの?」
「どうすんのって…」
刀を抱えているユリースの腕が震えていたが、すぐにしゃがみ込んで震えていた。
甲冑が散乱している畔の辺りまで来ると、ドラゴンはこちらに気付き、目を覚ました。
ドラゴンの雄叫びと共に、カリーナも腰を入れて構え、表情も今までの呑気なものではなく、キリッとした表情に替わり、戦闘態勢に移ったことが遠目でも分かった。纏っているものが違う。
ドラゴンは湖の中央にある離島から飛び立ち、上空から光線を放ってきた。彼女が拳に力を込め、拳を前に出したと思ったから、すぐさま光線の軌道は逸れて、他の三人が待機している場所に飛んできた。
「うわー!!!」
ユリースはディネルをおぶり岩陰に隠れた。光線が過ぎた後、気づけばルイスは二人が隠れている岩の上に移動しており、彼女の戦闘を腕を組んで傍観していた。
光線を吐き終わると彼女に向かって飛びかかってきたドラゴンに合わせ、一瞬のうちに上空へと飛び上がり、蹴りをドラゴンの頭上へ蹴り下ろしてドラゴンを地上へと落下させた。
その様子を見て慌てふためき、震えることしかできない二人。
それからはしばらく一方的に彼女の打撃が続いていたのだが、ディネルが駆け寄ってきて彼女を止めた。
「バカ女!もうやめろ!降参だと言っておるぞ!」
振り上げた拳の力を緩め、ディネルの方を見る。
「どうして分かるの?」
「んー?分からんか?そいつが降参だと言っておるんだが」
「言ってる事が分かるの?」
「うむ。」
ディネルはドラゴンに治癒の白魔法を使ってあげながらドラゴンと会話をしていた。
「痛かったじゃろ。このバカが加減を知らなくての」
「喧嘩売ってごめんなさい。最近赤ちゃんが出来たのでセンサイなの…だとよ」
「あ!そうなんだ!ごめんね!」
「ほら?一応謝ったから仲直りじゃな」
「なになに?仲直りの証に何かお返しがしたい?」
「うーんそうじゃのー。とりあえず水を少しだけで良いから飲ませて欲しいのと、私らをイルム公国ってところまで送ってくれないかの?」
「…へえ。すごいな」
「もう…何が何だか…」
「わっほーーーーい!!!!」
ドラゴンの背中に乗せられて上空を飛んでいた。これでイルム公国へショートカットできる。カリーナとディネルは上機嫌ではしゃいでいた。
(…単純な戦闘力自体も我々四牙と遜色はない…か。まあそれに伴って、彼女の能力を解析できれば僕の手柄も増えるって訳だけど…でも彼女、さっきの戦闘では一度も能力を使ってないんじゃないか?)
「悪巧みかい?」
「え?いやあ、仕事の考え事だよ。重役は考える事が多いの。それだけ。」
はしゃいでいるレディーズの後ろでじっと座っている二人。
「ほーんっと!仕事が多くて困っちゃうなー!でも全部僕にしか出来ない仕事なんだよねー!!!」
物凄く嫌みそうに隣のユーリスにも聴こえるように大声で言い放ってきた。
しばらく飛行していると、魔法結界に囲まれた街が見えてきた。これがお目当てのイルム公国だ。
「ちょっと止まれる?ドラゴンに乗ってくる奴を関所が通す訳ない。関所の衛兵に撃ち落とされたくなかったら、ここで降ろしてくれないか?もう道案内は充分。」
四人はドラゴンに礼を言って別れを告げた。思わぬショートカットだったが、もう関所は目の前。四人は歩きながら、ディネルの能力について問い詰めていた。
「エルフ族だから…かな?そんな話聞かないけど」
「私もよく分からん。」
「他の動物とも話せるのか?」
「分からん。ただ、あの時は、心に直接声が聞こえていたんじゃ」
「へー。」
関所に近づくと、衛兵に身元の確認を行われた。
「パスポート?」
「パスポート?」
「ぱすぽーと?」
三人は初めて聞く単語に困惑している様子。
「やれやれ。良くそんな事も知らないで外に出ようと思ったね。」
ルイスが呆れていた。
「王様がやれって!」
「はいはい。あ、衛兵さん、この三人は大丈夫な人達だから、通してあげて?」
「そう言われてもね…」
衛兵は困惑していたが、ルイスが胸元からバッジのようなものを取り出して見せたら、納得してくれたようで、言う通りに通してくれた。
「おれキタニス以外の国に来るの初めてなんだよな!どんな国なんだろうな!カリーナは他の国…パスポート知らないなら行ったことないか」
「ん?私…おじいちゃんの家から追い出されて、そこから王様のところまで来たよ?」
「え?おじいさんの家?どこの国?他所から来たのに良くキタニス入れたね」
「えーーっと…分かんないや」
「キタニスはパスポート…というか国境の警備緩いからねえ。」
「それは認める。結構緩い。抜け出せたのも警備がガバガバだからだし。」
関所の門をくぐり、イルム公国の全容が見えた瞬間、三人は立ちすくんで驚愕していた。
「お…おおお!すげーーーーー!!!!」
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