第20話 白火の暴走

 「え…?ど、どいうこと!?冗談だよね…?」 


 夜行の言葉に戸惑い、さくらは困惑する。


「嘘を言うとでも思ったか?私はお前を恨んでいるのだからな。狐の少年、娘を殺せ。喰い殺しても構わん」

「ちょっ、ちょっと…!!やめて!白火やめて!!」


 白火は顔を上げて、目は白目になり理性を失っていた。まるで飢えた獣のように。ただ、目の前の標的を殺すことしか考えていなかった。


「ヴゥ"…!!」

「白火…?」


 唸り声を上げ、喰い殺そうとした瞬間、後ろからぐっと力強く腕を引っ張られ助けられる。


「…いった!か、影里くん!?なんでここにいるの!?」


 さくらの腕を掴んだのは、妖怪の姿の信也であり驚いた。黒い着物に刀で白火の攻撃を受け止めていた。 


「下がってろ!!説明は後だ!」

「う、うん!」



とっさに近くの木に隠れて、様子を伺う。


「…チッ!邪魔物が来たか!これ以上は相手にはできない」


 夜行は舌打ちをし、姿を消そうとした瞬間、信也は見逃さなかった。


「お前が夜行だな…目的はなんだ?教えろ」

「ふっ…お前なんぞに教えるか。私は休ませてもらう」


 少し苦しそうな顔の夜行は、影のように消えていなくなってしまった。


「クソ…聞けなかったか」


 信也は顔をしかめて、なお白火の攻撃を受け止める。


「新山、妖狐を浄化することはできるか?」

「…分かんないよ!あの時はたまたまだったし…影里くんはなんで来てくれたの?」

「嫌な妖気を感じたら辿って来た。妖狐を浄化できなければ、最悪殺すしかないぞ!」


 刀で受け止めた白火の手に少し押されながらも、強い口調で答える。

 今の白火では飢えた獣も同前、気絶させるのも困難であった。


「そ、そんな…!!どうしたらいいの!?」

「少しは自分で考えろ!!俺だってこいつを殺したくはない」



 ──そんなこと、言われてもどうしらいいの!?浄化の力はあの時しか使えなかったし…何度もやってみたけど駄目っだんだよ…私はどうしたらいいの!?


 悩んで頭を抱えている時、ふと数珠についてる2つの鈴が目にはいる。


 ──もしかして、鈴の音を聞かせれば!

白火は元に戻るかもしれない!やって見なければ分からないじゃない!


「影里くん!!白火の動き止められる!?」

「止めてどうする?」

「白火に鈴の音を聴かせるの!」

「…上手く行くのか?」

「分からないけど、やってみる!!」


 白火に苦戦しながら、信也に答える。さくらの強い意思に信也も賭けてみることにしてみた。今はそれしか方法がないのだから。


 隙を見た瞬間、素早く右足で白火の腹を蹴り、木に打ちつけられ動きぐ鈍くなる。

その瞬間を影で動きを封じ、さくらに呼び掛ける。


「ヴァ"…」

「動きは止めた!頼むぞ、新山!!危なかったらすぐに離れろ!」

「ありがとう、影里くん!私、やってみるから!!」


信也に頷き、お礼を言った後、拘束され暴れまわる白火に向き直る。


「ヴゥ"…ア"ア"…!!」

「…ごめんね、白火…今、浄化するから」


 強く願いながらそっと目を閉じる。


──私、いつも白火に助けられてばかり、今度は私が助けるんだから!

春子さんの生まれ変わりだものきっと大丈夫!

お願い、春子さん、おばあちゃん、私に力を貸して──!


 目を開けて、白火の両頬にを両手でそっと触れる。


 ──その横顔は、春子によく似ていた。 


「春子…」


 思わず似ていたので、ポツリと信也は呟く。


 さくらが触れた瞬間、鈴が鳴り、白火から黒い邪気が祓われ、いつもの白火に戻る。


「…さくら…?オレ、どうしたんだ?何があったんだ?」

「…白火!元に戻って良かった!!」


 涙を流しながら白火に抱きつき、信也は影の妖術を解いた。


「…なっ!おい!!やめろって!って信也、なんでここにいるんだよ!?」 

「全く、世話をかけさせやがって。夜行の術で暴走したお前を止めるの大変だったんだぞ」

「そーだよ!!影里くんと2人で止めたんだから、感謝してよね?」

「…そうだったのか。悪りぃ、さくら、信也。

オレ、全然覚えてねぇんだ…ありがとうな」


 いつも強気な白火からは感じられないほど、素直ではあった。

そんな様子に2人は驚きながら、受け止めることにした。


「あっ…今って何時?もう暗いよね…」


 空を見上げたら、薄暗くなっていたので慌てて聞き出す。

信也がポケットから黒いスマホを取り出し、時間を確認する。


「18時半過ぎだ」

「ありがとう…やば、また遅いとお母さんに怒られる!!」 

「そんなん適当に理由つけときゃいいだろ?」 

「よくない!!だいたい白火のせいでしょ!」


 涙が引っ込み、いつものように喧嘩している

2人を見て、信也はため息をつく。


「…暗いし、俺も送っていく。また、妖狐が暴走したから困るしな。遅くなった理由は勉強していたとかでいいだろ?」

「オレは暴走しねぇよ!!妖力はいつも通りだし、もう邪気とかはねぇよ!」

「ありがとう、影里くん!!さっすが!白火も感謝するんだよ?」

「…へいへい」


 信也は制服姿に戻り、3人で家路に着きながら、帰っていった。幸いにも人通りが少ないため、他愛ない話をした。



 ──さくらの家へ到着し、信也にお礼を言う。


「ありがとう、影里くん!また、学校でね!」

「さんきゅーな、信也!」

「…ああ」



短い返事ではあったが、距離を縮められたと喜ぶ

2人であった。





 









 





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