花桜の逢期─貴方との約束─
ことは
第1話 プロローグ 遠い昔の約束
──約束です。私は生まれ変わって貴方に必ずまた
私は彼にそう約束し、ゆびきりをした。
平安時代後期
桜が咲く暖かい春、神社へ1人の幼い少年が来た。
頭に狐耳があり、狩衣のような着物を来た人間ではない少年が巫女の元へ駆け寄る。
膝丈くらいの袴からのぞく白い尻尾を嬉しそうに振り、後ろに結った白髪と赤い髪紐が少し揺れる。
「
春子と呼ばれた巫女が振り向く。
彼女の長く結った茶色の髪と左側につけている桃色の髪紐が揺れた。
今日は彼女だけ神社にいるみたいだ。
「
白火と呼ばれた少年は春子に抱きつき嬉しそうに目を細める。
「オレ、春子に会いたくて早く来たんだ!」
「そうなのですね、嬉しいです。
──白火、今日で貴方と会うのが最後になります
…あの事は本当に宜しいのですか…?」
「何度も言ってるだろ。オレの気持ちは変わらないって!」
「…そうですか。できれば貴方を巻き込ませたくはなかったのですが…白火の強い意思に負けました」
春子は悲しそうに目を伏せる。
「…そんな顔するなよ!オレは春子の事が大好きだし、この神社も好きなんだ!だから、ここを守りたい気持ちは変わらねぇんだ!!…それに春子がもう長くないのは分かってる」
最後、震える声で白火は言った。
私の身体が長くはない事に気づかれ辛くなる。
──白火はもう分かっていたのですね。
「ありがとうございます。白火の気持ちは充分伝わりました。私はもう長くは生きられません
…ですが、寂しくはありませんよ」
「…なんでそう言えるんだよ?オレを悲しませたくないためか?」
「いいえ、そうではありません。
──約束です。私は生まれ変わって貴方に必ずまた逢いにいきます。私の姿は変わりますけど、白火にきっと逢いにいきます…それまでこの神社を頼みます。
そして私の厚かましいお願いですが、生まれ変わった私と
私を慕ってくれた白火。幼い彼にこんな事を頼むのは厚かましいとは分かってる。
それに、彼の願い「神社を守る」ということは「私」が再び来るまでずっとこの地に縛られることになる。
──貴方には何も縛られず自由にいてほしかった。
「オレ、もう一度春子に逢えるんだな!
いいぜ、その頼みきいてやる!それに、オレの願いも聞いてくれたし。春子には恩があるから少しでも役に立ちたいんだ!
ようは、夜行とかいう悪い妖怪をぶっ倒せばいいんだろ?…姿は見たことねぇけど、噂はくらいなら聞いてるぜ」
白火が顔上げ、私の願いを聞き入れてくれて申し訳なかった。
人々を苦しめた凶悪な妖怪─夜行を力づくで封印した私にはもう残された時間はなかった。
元々、身体が弱く長く生きる事はできないと分かっていたけど自分の不甲斐なさを感じた。
封印したとはいえ、いつ破られるかも分からない。
「…ごめんなさい、ありがとうございます。
夜行は封印しましたが、いつ破られるかわかりません。その時「私」と戦いましょう。私と白火の約束です」
「ああ…約束な!オレは春子の生まれ変わりが来るまでこの神社を守る──そんで、夜行をぶっ飛ばしてやるぜ!春子の生まれ変わりと一緒にな!!忘れないようにゆびきりしようぜ!」
白火は明るく笑い、私とゆびきりをした。
──ごめんなさい、白火。
貴方を戦わせることになってしまって。
約束通り、神社を守りたい願った白火を私は祠に封印した。
「私」が来るまで、これから何千年、何百年と待ち続けることに胸を痛める。
白火、寂しくはありませんからね。
私が生まれ変わって違う姿になり貴方ともう一度逢う夢を見たのです。
それまで、待っていてください。
白火を封じた祠の前で、私は強く願った。
私が望んだ姿に生まれ変われますようにと──
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