第9話 気の合わない二人

 白火は教室からでた後、あてもなく校内を散策していた。さくらのいる3階の教室から見て周り、1階に着いて見ていた。


「さくらの奴、いちいちうるせぇし腹立ってくるぜ!少しは自由にさせろよ!」


 自分の姿が見えない事をいいことに文句を言いながら歩く。


「なあーにが、住ませてあげてるだ!オレが守ってやんねぇと駄目なくせによお!」


 ふと校庭から体育の授業の声が聞こえ、気になって近くの空き教室に入る。男子がサッカーの試合をしているところだ。


「…なんだ、今の声?外から見てぇだけど。

ここ誰もいねぇし入ってみるか。何か外でやってんのか?」


 窓辺の方に行き様子を見る。


「…?なんだあれ?丸いもん蹴ってるけどあれなんだ?蹴鞠じゃ…ねぇよな?」


 ちょうどゴールを決めて試合が盛り上がったところでホイッスルが鳴った。


「よく分かんねぇけどなんか、楽しそうだな!

混ざってみてえ!…オレがもし、人間だったらあんな風に楽しめるんだろうな…ってなに考えてんだよ、オレは妖怪だし。早くさくらのとこ戻るか。あいつうるせぇし」

 


 少し寂しそうな顔をした後、空き教室から出ていった。





 教室は少し扉が開いていたのでこっそり戻って来られた。

授業中でさくらは居眠りをしていて、白火が戻ってきたことに気づいていない。


「…よく寝るなこいつ…おいって」


 呼び掛けたが返事はなく、呆れた目でため息をつく。授業をしている眼鏡をかけた女性の先生がさくらを呼ぶ。


「新山さん、ここ分かりますか?」


 先生の呼び声にも気がつかず起きる気配がない。席に行き起こす。


「新山さん!新山さくらさん!起きてください!授業中ですよ!!」

「…後、もうちょっと…」


 寝言を言って先生は呆れる。


「…仕方ねぇな、起こしてやるか」


 白火が「おい」と呼びかけ、肩を揺さぶるがいっこうに起きない。


「おい!!起きろって!!」


 苛立ちさくらの頭を軽くひっぱたき、目が覚める。


「いっっった!!何するのよ!?」

「お前がいつまでも起きねぇからだろ!!」


 頭をおさえ白火を睨み付ける。


「叩くことないじゃん!!バカ、最低!!」

「なんだよ、その言い方!あいつがさくらの事呼んでいたんだぜ!」

「…えっ?先生…?」


 白火が指を指した方向に先生の方を見ると顔がひきつっており、さくらは顔を青ざめる。


「…新山さん、元気そうね?誰に向かって話していたの?」

「あっ…えっとそれは…」


(白火の姿は見えないのにいつもの調子で話しちゃった!やっば!)


「新山さん!!授業中は寝ないこと!!いつも言ってるでしょ!この問題分かりますか?」

「分かんないです…すみません」

「放課後、反省文を書いて残りなさい!」

「はい…」



 クラスメイトには笑われ授業は続いた。




 ──夕方、下校して疲れた顔をしていた。住宅街だが、人はおらず2人で話していた。


「はあ…白火のせいですっごく疲れた!」

「なんだよ、オレが起こしてやんなきゃあのまま起きなかっただろ。少しは感謝して欲しいものだぜ!」

「だけど叩くことないじゃない、痛かったし!

先生や皆に変な目で見られたし!反省文は書かされたしで最悪!」

「はっ、そんなんしるかよ。自分のせいだろ」

「あのね!!ちょっとは私の事も…」


 白火が立ち止まり、周囲の様子を見る。

 

「ねぇ、立ち止まらないでよ!」

「分かんねぇか?近くに夜行の奴らがいる。匂いがするし近くにいるかもな…さくら、数珠つけとけ」

「…えっ?また来たの!?しつこすぎない?」


 数珠をつけた時、かすかだが鈴がなった。

 白火は周囲を警戒しつつ距離をとる。


「このへんで人目がつかねぇところはないか?」

「…えっとこのへんは住宅街だし人目がつかないところ…?白火と会った神社とか…あっ!後は公園くらいしかないよ!今はあんまり使われてないみたいだし」



 この前、母との会話で昔、遊んでいた公園が遊具の老朽化により使われていないと言っていたのを思い出した。



「…どっちが近いんだ?」

「えっと…公園の方!昔よく行っていたしここから真っ直ぐ行って右曲がったところ!…わあ!何するの!?」

 

 いきなりさくらの腕を掴み走り出す。


「夜行の奴らが近づいてるんだよ!急がないとまずいだろ!まだ人いねぇけど危ねぇし。走るぞ!」

「う、うん!」


(さっき少しだけ鈴が鳴ったけど大丈夫だよね?白火もいるし!)


 2人は公園の方に走っていった。



 

 人気のない公園に着き、2人とも息を切らしていた。錆びついたブランコと汚れている滑り台、木製のベンチしかない寂しい公園であったが、人がいなく好都合であった。



「おい、そろそろ出てきてもいいんじゃねぇか?」


 木々の隙間から、犬に似たような妖怪が姿を現す。2匹いて、額には夜行の紋様があり、色は茶鼠色で中型犬くらいの大きさに、犬の身体には目玉があちらこちらついていて不気味な姿である。

唸り声をあげながら、こちらに飛びかかり噛みつこうとする。


「さくら!離れてろ!!」


 さくらを避難させ、反撃をするがすばしっこく交わされてしまう。


「白火!!大丈夫!?」


 とっさに近くの木に隠れ白火に呼びかける。


「さくらはそこにいろ!クソッ、こいつら夜行の奴らか!オレの祠を壊した奴と匂いが似てる…気のせいか?」


 もう1匹の方が白火に飛びかかろうと近づいてくる。


「白火!後ろ!!」


 さくらの声に後ろを振り向き、素早く左に避け距離をとる。


(さくらも守んなくちゃいけねぇし、オレだけでこいつらを倒せるのか?何、弱気なこと言ってんだよ!)


「…オレらしくねぇな…来いよ、化け犬ども。

相手になってやるぜ!」


 化け犬を睨み己を奮い立たせて、右手に白い火を出し走り出す。


「…ッ!!」


 一直線に走り出し交わされてしまうが、素早く後ろに回り、右手で化け犬の後頭部を殴り付けるようとするが、身体の目に反応され避けられてしまう。


「避けんなよ!目玉ばっかついて気持ち悪りぃな!」


 もう一度走り出そうとした時だった。


「きゃあ!!」


 さくらの悲鳴に気づき、後ろへ振り向く。

 もう1匹の方がさくらに向かって走り出している。


「さくら!!」


 (クソッ、間に合わねぇ…!どうしたらいいんだ!!)


 白火の動きが止まった隙に、化け犬に袖を噛みつかれた。


「てめぇと相手してる暇はねぇんだよ!離れろ!」


 左手で殴りつけ、化け犬の噛みつきがゆるんだ隙に右手に白い火を出した状態で掴み、おもいっきり投げ飛ばした。

化け犬は「キャン」と叫び、火に包まれ消えていいき、急いでさくらの元へ行く。



「や、やだあ!!こっち来ないでよ!」


 化け犬が近づき、さくらに噛みつこうとした時

動きが止まる。


「…え?動きが止まった?」


化け犬の体の回りにはが巻きついて動けなくなっていた。


「助かったのかな…?」


 安心していると白火がたどり着いた。


「さくら大丈夫か!?」

「うん!なんか、あの妖怪の動きが止まったみたいなんだよね」

「止まった…?どういうことだ?」


 白火が振り向いた時には、化け犬に巻きついていた黒い影は消えていた。


「ええっ!?消えてる!」

「それより、あいつ倒すからさくらはじっとしてろ」

「うん!」


(なんだったんだろ…さっきの影みたいなの?白火は知ってるのかな?)



 1匹目が倒され、2匹目はさっきの影のようなもの巻きつかれたせいか、少し動きが遅くなっていた。鈍くなった隙に、鋭い爪と白い火で、化け犬の体を引き裂き倒した。



「よっし…これで2匹とも倒したぞ!」

「白火、ありがとう!ねぇ、さっきの黒い影みたいのなの何か知ってる?」


 少し考えた後、口を開く。


「もしかして、かもな…」

「え?誰?」

「なんでもねぇよ。早く帰ろうぜ」

「知ってるなら教えてよー!!」

分かるかもしれないぜ」


 白火はいじわるそうに笑い、さくらは文句を言いながら2人は帰る。




 2人が帰った後の公園に木々の間から1人の少年が姿を現す。

黒い着物に帯に刀を差し、両方の手足に包帯をつけて、草履を履いた変わった格好の少年であった。


「…あの程度か、の実力は。俺がしなければどうなっていたことか」



 少年は影のようにその場を立ち去った。

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