第17話 夜行の企み
古びいた木造の屋敷に1人の男がいた。
障子の破れた戸から、小さい影がトントンと叩き男は戸を開ける。
そこには夜行の紋様が額にあり、烏に似た両目が赤く足が1本の妖怪がいた。
「…ご苦労、
「夜行サマ!ゴ報告デス!」
古烏は男─夜行の肩に飛び乗り、指先で頭を撫でられ嬉しそうに羽を広げる。夜行は戸を閉め、もといた場所に戻り床に座る。
「あの小娘はどうだ?」
「ハイ、マダ目覚メテナイ様子デス」
「…春子の力には目覚めてはいないのなら、今が絶好の機会だと言うのに…私の身体は言うことをきかない」
忌々しそうに胸元を手でおさえ、苦しそうな顔をする。古烏は肩から降り、心配そうに見つめる。
「夜行サマ?大丈夫デスカ?」
「あの女…春子の封印を解き、昔の傷は癒えたというのに時折だが身体が痛む…早く生まれ変わりの小娘を私の手で殺してしまいたい…!」
顔半分は紋様の布があり目元は見えないが、痛みと憎しみで口元は歪んでいた。
少し経ったら痛みが治まり、夜行は胸元から手を下ろす。
「…その前に小娘といるあの狐の少年が邪魔だな。さて、どう始末してやろうか…古烏、もうさがってよい」
「承知シマシタ!」
古烏が去った後、夜行は1人になる。
「古烏、お前は小娘に送った奴らとは力が弱いが忠誠心が強い。どう利用するか」
夜行はニヤリと笑い悪巧みをする。
──翌朝、さくらと白火は学校に着くと隣の席の信也に声をかける。
「おはよー!影里くん!聞いて気になることがあるの!」
「よお、信也!」
読書をしていたが、2人の元気な声が無視できない声量だったためか嫌々ながらめんどくさそうに挨拶を返す。
「…おはよう。朝からやかましいくらい元気だな。聞きたいことってなんだ?」
「それが昨日ね、神社に行ったら白火の祠がなかったの!不思議でしょ?」
「なーんだ、まだそんな事気にしてたのかよ」
白火は興味がなさげだが、信也は本を閉じて答える。
「妖狐の祠を片付けたのは俺だ。あのままにしておいたら危ないだろ」
「そうだったんだ!ありがとう影里くん!」
「やっぱり信也だったか!匂いが少し残ってたから分かっていたぜ!さんきゅーな!」
「えー!影里くんって分かってたんなら教えてよ!」
「一応聞きたかったんだよ!それより信也、今日もオレがさくらを起こしてやったんだぜ!世話が焼けるだろ?」
「…うるさい。静かにしてくれ」
隣でさくらと白火が騒いでいるから、信也の苛立ちが増してくるが、ちょうどチャイムが鳴り、一斉に生徒達は席に着く。教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。
「おはよう、皆。朝のHRを始めるぞ。終わったら先週の小テストを返す。赤点を取ったものは放課後補習をするから残るように。今日の連絡事項は…」
先生は話を続け、補習で文句を言う生徒もいれば、テストの結果をそわそわと待つ生徒のいるなか、さくらは1人顔を青ざめていた。
「や、やばっ…!私、補習かも…」
「さくら、ほしゅうってなんだ?なんか、顔色悪りぃけぞ。大丈夫か?」
「…ううっ、大丈夫ジャナイ…」
「おい、本当に大丈夫か?しっかりしろよ!」
白火に肩を揺すぶられるが、さくらは魂が抜けたような顔をしていた。慌てて隣の信也に声をかける。
「信也!さくらが調子悪りぃみたいなんだ!どうしたらいいんだ?」
「放っておけ。新山の自業自得だ」
「…影里くん、冷たい!小テスト受けてないからっていい気にならないで!」
「だったらちゃんと勉強しろ。俺に当たるな」
「おい、さくら大丈夫なのか?」
信也を睨み付け言ったが、その直後、先生に叱られる。
「新山、静かにしなさい!小テストは影里が転校してくる前にしたのだから仕方がないだろ!新山は今回の小テスト赤点だから放課後残るように!」
「そ、そんなあ…!」
皆に笑われるなか、しょんぼりしていた。
「…ひどいよ、先生…」
「それじゃあ、小テスト返していくぞー。番号順から呼ぶから来るように」
小テストが返され生徒達は次々へ席に戻る。
やがて、さくらの番になりテストが返される。
「新山、ちゃんと勉強しなさい。いつも赤点ばかりだぞ。少しは影里を見習ったほうがいい。授業態度も良くて頭が良いのだから」
「…はーい、すみませーん…」
落ち込みながら席に着き、テストの点数を見てため息をつく。
(影里くんのこと見習え~とか言うけど、無理だよ!補習もあるし嫌になっちゃう!)
「さくら、さっきより顔色悪りぃぞ」
「…白火、今日、補習だよ…」
「気になっていたけど、ほしゅうってなんだ?
そんなに嫌なもんなのか?」
「残って勉強することよ…もーやだ!!」
テスト用紙をぐしゃりと握り、白火を恨めしそうに見る。
「…?よく分かんねぇーけど、頑張れよ」
「白火、変わってよ!私に化けられるでしょ?」
「冗談じゃねぇよ!嫌だぜ!」
「新山、騒がない!静かにしなさい!」
先生に再度注意されてしまい、静かにする。
(白火はいいな~妖怪だし、人には見えないし勉強しなくていいし!羨ましい!私も妖怪になれたなー!あっでも人に見えないの嫌だし、補習やだな…)
「小テスト返し終わったし授業始めるぞ!赤点は30点以下だからそれ以下の者はちゃんと放課後残りなさい!今回の数学の小テストのところは中間テストで出すから、よく復習しておくように!」
生徒達が返事をしている中、さくらは落ち込んでいて話を聞いてなかった。
「もお…テストなんていやだ…」
うわ言でそういいながら、授業は始まっていった。
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