第19話 接触

 古烏との戦いを一部始終眺めていた夜行は、古びいた屋敷に戻り身体を休めていた。


「…分かってはいたが、やはり古烏では駄目だったか。惜しくもないが、さて次はどうしたものか」


 悲しい感情も沸かず、淡々と次の計画を立て始める。


「まさか、あの小娘が春子の力に少し目覚めるとは予想外ではあったがな。次はあの邪魔な狐の少年をどうするか…」 


 ニヤリと笑い、計画の準備を進めた。




 ──5月に入り、さくらと白火はいつも通りに、慌ただしく学校へ向かい、隣の席の信也に話しかける。


「おっはよー!影里くん!」

「よお、信也!」


 2人の元気な声に読書をしていた手を止め、鬱陶しいそうに顔をしかめる。


「…朝からうるさい。静かにしてくれ」

「ごめんね。それより聞いてよ影里くん!私ね、少しだけど春子さんの力に目覚めたみたい!凄いでしょ!?」

「昨日、夜行の奴が襲ってきて、さくらが少し助けてくれたんだ。もちろんちゃんと倒したぜ!」


 得意気に言う2人を冷めた目で見て、ため息をつき、声を潜める。


「それがどうしたって言うんだ。完全に目覚めたわけじゃないだろ。それと、ここであまり夜行の話はするな。いつどこで聞かれてるか分からないのだから警戒心を持て」

「ごめんなさい…」


 信也にキツく言われてしまい、さくらは落ち込む。


「おい、信也!そんな言い方ねぇだろ!さくらだって少しは力使えたんだぜ!」

「お前こそ少しの油断で新山が危険な目になったどうする?」

「別にちゃんと倒したんだからいいだろ!?」 

「影里くん!私は無事なんだし大丈夫だよ!」


 ピリピリしそうな雰囲気だったのを遮り、ちょうどチャイムが鳴ったので、生徒はそれぞれ席につく。

 

 ──影里くん、少しは見直してくれてもいいじゃない!ケチ!白火と私で頑張って倒したんだから、仲間になってくれてもいいのに!


 苛立ちを覚え、さくらは席に着いた。




 昼休みになり、さくらと白火は空き教室で話していた。人通りが少ないため、ここで話すのはうってつけであった。


「もー!影里くんったら、なんで認めてくれないの!!」

「信也の言い方気に入らねぇよな!目的は同じなんだしよお!」

「なんでなのかな…夜行を倒すのは同じなのに!」

「こうなったら別の方法考えるしかねぇな…」

「方法って何?上手くいくの?」


 白火の言うことに半信半疑だが、聞いてみる。


「そんなの分かんねぇよ。夜行を倒すのに信也を仲間になってもらわなきゃいけねぇし。春子が力ずくで封印したんだから、そうとう強いだろ。悔しいけど、オレの力じゃ無理かもしれねぇし」


 顔をしかめながら辛く言い、少し不安になる。


「…そうだけどさ…!影里くんは関わるな、なんて言ったけど、どうするの?」

「そこなんだよ…」


 悩んでいる間にチャイムが鳴ってしまい、話しはそこで終わりになってしまった。


「あーも!チャイム鳴っちゃった!」

「教室ってとこに戻るんだろ?急がなくていいのか?」

「あっ!そうだった!…ってやば宿題やってない!!」

「オレは知らねぇーぞ」


 慌ただしく2人は戻り、教室へと向かって行った。




 ──学校の帰り道、さくらと白火は神社にいた。石段に座り、話していた。

 英語の授業で、宿題をやっていなかったのと小テストが返され赤点だったため、叱られがっくりと落ち込んでいた。


「先生に怒られるし、最悪だよ…」

「そんな落ち込むなよ。オレまで巻き込むな」

「帰りったから先に帰ればいいじゃない!今日はお母さんの仕事で早い日だから嫌なの!」

「オレはさくらを守んなきゃいけねぇんだ!

…しごとってなんだ?」

「もう、何よ!仕事は働いてお金稼ぐこと!

あーあ、嫌だな…」


 2人でうだうだ言い合いをして、人間は大変だなっという目で白火はさくらを見る。 


その時、数珠が鳴り、ふと視線を感じて白火は立ち上がり鳥居の方を見る。


「…なんで数珠が?ちょっと、どうしたの白火?」

「なーんか嫌な視線を感じたからよぉ…」


 そう言った矢先に、さくらの方へ黒い鳥のような物が目掛けて飛んでくる。

間一髪で、白火は左手で握りつぶし、さくらには当たらずに済んだ。


「…きゃあ!な、何、今の!?こっわ…」

「おい!!そこにいるのは分かってるんだ!出てこいよ!!」 


 白火が大声で叫んだ時、鳥井から1人の奇妙な男が姿を現す。

至極色の髪に、顔半分を隠したひし形に目の形をした紋様の布を着けていた。

黒のような紫色の着物はボロボロで、事を感じた。


「…惜しかったな、もう少しで小娘を殺せると思ったのだが」



 男はそう答え、物怖じせずにいた。始めから分かっていたように。さくらは立ち、白火の後ろに隠れる。


「てめェ、何もんだ?名乗りやがれ」

「まずは、そちらから名乗るべきだろ?…まあ、いい…小娘、私の事を覚えてるか?」


 さくらの方へ視線を向ける。


「知らない…!貴方こそ誰なの?なんで、こんな事する…」


 言いかけた時に、数珠が鳴り記憶を思い出せる。春子と男が一緒にいたところが流れ込む。


──私、この男の人を知ってる。


「あ…貴方は夜行やこう…?」

「…!!こいつが夜行なのか!?」 

「思い出しか私の事を…」


 夜行はニヤリと不気味に笑い、こちらへ近づく。


「さくらには手出しさせねぇ!!オレが相手だ!」


 夜行に飛びかかり、鋭い爪で引っ掻こうとするが、ひらりと簡単にけられてしまった。


「単純な攻撃だな。私の足元にも及ばない」

「なんだと!これでどうだ!!」


 続けて蹴りを入れるが、また避けられてしまった。


「白火!!」

「黙ってそこにいろ!!」


 攻撃が避けられてばかりで、苛立ちが増していく一方であった。


「クソ…!!なんで当たんねぇんだ!!」

「お前に付き合ってる暇はない。ここで終わりにするか」 


 夜行が素早く白火の後ろへ回り、首筋に手刀をくらわせた。その衝撃で白火は気絶してしまう。


「白火!!なんでこんな酷いことするの!?」

「お前の前世…春子に封印された恨みがあるからな。狐の少年は役に立ちそうだから、」 

「え、じゃあ、見逃してくれるの…?」


 夜行の足元に気絶している白火に何やらブツブツと呪文を唱え始める。 

さくらには状況が呑み込めず、ただじっと不安に白火を見ることしかできなかった。


「は、白火、大丈夫なの…?ねぇってば!!」


 呼びかけるが返事はなく、白火はふらっと立ち上がり、顔を上げずにいた。


 「狐の少年、そこの小娘を殺せ」



 夜行はさくらに指を差し、その口から発せられる恐ろしい言葉であった。



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