第15話 ドライヤーを作るはずが
「殿下~? どこですか~?」
「リシア? どうしたんですの?」
今日は天気がいいので中庭で新しい魔道具を作っていると、どこからかリシアの声が聞こえてきました。
「アリシア殿下、ここにいらしたんですね! ‥‥‥また何か作ってたんですか?」
「そうですわ! これができたらリシアたちの仕事がとってもやりやすくなりますわ!」
「それは嬉しいです! どういう物なんです?」
「よくぞ聞いてくれました! これはドライヤーと言って髪を乾かす魔道具ですわ!」
「髪を乾かすですか! 確かに便利ですね! どうやって使うんですか?」
「ちょっと待ってくださいな。最後にここの回路を調整して‥‥‥できましたわ!」
「おぉ~っ!」
「なかなか手こずりましたわね。これができるまでどんな苦労があったか聞いてくださる?」
「え? まぁ、いいですけど」
今回作ったのは魔道具のドライアー。水洗トイレほどではないけど、そこそこ手こずりましたわね。
というのも家電のドライヤーの温風を生み出す構造は、筒状の本体にファン、モーター、ヒーターが内蔵されていて、ファンが回転することにより取り入れられた空気がヒーター部分を通る際に温められて温風となるのです。
そしてこの構造は風の魔法陣を少し改良し、シャワーの時のように温度の条件を追加すれば簡単に再現はできましたわ。
しかし、そこにさらに風量の条件を付け加えると、これもシャワーの時と同じように魔法陣の起動が不安定になりました。
ここまでは予想通りでしたわね。
苦戦したのは、この風量の問題をシャワーの時のように本体の改良では解決できなかったことですわ。
一応、シャワーノズルみたくドライヤーの吹き出し口を回転させることで風量を絞るのはやってみましたけど、そうすると思うような威力にならかったのです。
「私は悩みましたわ! どうすれば温度調整と風量調整を両立できるのか、と」
「は、はぁ‥‥‥?」
「それは、倣うことでしたわ!」
確かに温風の魔法陣一つで出来たなら言うこと無しでしたわ。しかし結果は今は不可能。
私個人であればお母様のスパルタ魔法訓練のおかげもあってかなりの魔力制御を身に着けたので使いこなせますが、普通の人では無理でしょう。
そこで家電のドライヤーの構造をそのまま再現することにしたのです。
つまり、ヒーターになる電熱線には火の魔法陣を、ファン当たる部分には風の魔法陣をといったようにそれぞれわけたのですわ。
あとは取っ手のところに風量調整と温度調整ができるスイッチを追加すれば‥‥‥。
「魔導ドライヤーの完成というわけですわ!」
「う~、アリシア殿下が何言ってるのかさっぱりわからかったです‥‥‥」
「まぁ、うまくできたってことですわ。ということでさっそく試してみましょう! リシア、ここを握って魔力を流してみて」
「わかりました!」
私からドライヤーを受け取ったリシアがさっそく魔力を流していくのを感じますわね。
‥‥‥私、魔法使いじゃないですのに、いつの間にか他人が魔力を使ったら感じるようになってるのよね‥‥‥お母様のスパルタ魔法訓練、いつまで続くのかしら‥‥‥。
と、そんな風に少し遠い目をしていたその時でした。
——ブゴォオオオオォォオォッッ!
ドライヤーから勢いよく炎が飛び出して、中庭の草花を一気に燃やしていく。
リシアが慌てて魔力を流すのを止めていた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥アリシア殿下、中庭が焼け野原になりましたけど‥‥‥」
「‥‥‥すぅ~、ふぅ~」
「殿下! ちゃんとこっち見てください! どうするんですかこれ!? というか、髪の毛を乾かす魔道具なんですよね!? 乾かすどころか燃えカスになっちゃいますよ!」
「うぬぬぬぬぬ‥‥‥」
おかしい! おかしいですわ! 私はちゃんと設計したのに、どうしてドライヤーが火炎放射器になるんですの!?
それにまたお母様に怒られますわああぁぁあぁあああぁ~~~~。
こ、こうなったらもう、何としてでもドライヤーを完成させないといけませんわ!
私より髪の長いお母様の方がドライヤーを必要としてますもの。
だから完璧なものを仕上げて怒りを鎮めなければ、本当に今度こそ錬金術禁止令が発動されてもおかしくないですわ!
「それだけは絶対に回避しなければ‥‥‥っ! リシア、それを貸してください!」
「ま、まだやるのですか!?」
「当り前ですわ! 私の進む道にはそれしかありません!」
「これ以上はもうやめときましょうよぉ~~」
そんな泣き言を言ってる場合じゃないのですわ!
私はリシアの手からから奪い取るようにドライヤー(火炎放射器)を受け取って、さっそくどこがダメだったのかを調べ始める。
といっても、大体の予想は付いてますわ。炎が噴き出すなんて、どう考えても火の魔法陣の不備に違いありません。
いえ、もしかしたら火の魔法陣そのものがいけないのかも?
今思えばお湯の魔法陣も温風の魔法陣もベースとなった魔法陣は水と風の魔法陣で、それに温度調整の魔法文字を書き加えただけでしたわね。
熱するからと言って安易に火の魔法陣を使ったのがそもそも失敗でしたわ。
しかし、私の錬金術大全にはもちろん、師匠からも熱の魔法陣なんて聞いたことがありませんわね‥‥‥。
「ええい! まどろっこしいですわ! わからないのなら、私が一から作るだけです!」
ということで、パパパパッとプログラムを組んでいきます。
あとはさっきのせいで焦げ付いてしまった噴出口を錬成魔法で綺麗にして。
「完成ですわ! さっそくもう一度‥‥‥リシア?」
「ど、どうぞ‥‥‥」
「そんな離れてなくても大丈夫ですわ!」
どうやらまたさっきみたいに火を噴き出すのかと警戒してるようですわね。しかしもう、大丈夫ですわ! それを今から証明してあげましょう!
さっそくドライヤーに魔力を流して、スイッチを使って温度や風量を調整してみる。
すると、今度はしっかりと温かい風が程よい勢いでドライヤーから流れてきて、私の髪を程よくたなびかせます。
「ほらどうですの? これが魔導ドライヤーですわ!」
「確かに凄いです! けど‥‥‥なんだかそれ、変な音してませんか‥‥‥?」
「‥‥‥え?」
リシアに指摘されて手に持つドライヤーを見てみれば、『キュイイイィィンッ!』とどこか既視感のある音を出しています。しかも心なしか膨張してるような‥‥‥。
「——えいっ!」
「殿下‥‥‥?」
「リシア、今すぐ逃げますわよ!」
「殿下ッ!?」
ドライヤーを投げ捨てた私は一目散にその場から離れます。
だってあの感じ、前世で大爆発した時と同じ挙動で‥‥‥くっ、間に合いませんわ!
「【錬金術大全】! リシア! こっちですわ!」
「きゃあっ!?」
——ドッゴォオオオオオォォォンッ!!!
リシアの手を引いて錬金術大全を掲げたその瞬間、中庭のど真ん中で大爆発するドライヤー。
ものの見事に噴水が吹き飛びましたわね‥‥‥。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥殿下、もう潔く諦めましょう」
「ガックリ‥‥‥」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます