第18話 『発電』対策

 リールラの手を引いて師匠と私の錬金術工房までやって来た。


 扉を開けて中に入ると、私たち魔力の波動をセンサーが感知してひとりでに照明が灯る。


「わっ! えっ、勝手にランプがついた‥‥‥?」


「くふふっ、驚いたかしら? これは最近私が錬金術で開発した魔導センサーと魔導ランプを合わせた自動照明ですわ!」


「ん、これにしてからうっかりランプを消し忘れて寝落ちしても勝手に消えてくれるから便利」


「勝手に着いたり消えたりする魔道具なんて初めて見ました。アリシア様は凄いですね!」


 そう言ってキラキラした目を私に向けてくれるリールラ。


 けれどその態度はちょっと不満ですわ。


「む~~‥‥‥リールラ、ここはもう公式の場じゃないですわ! いつも通りにして?」


「あっ、うん。わかったよ、アリシア」


「それでいいですわ!」


 リールラの口調が崩れた言葉遣いになる。


 私たちは小さなころから一緒に育ってきた幼馴染でとても気心しれた仲だもの。さっきみたいな格式ばったところならともかく、プライベートでは王女と臣下じゃなくて親友の距離感が一番ですわ。


 そう思ってリールラに満面の笑みを向けると、リールラはキュッと眉根を寄せて気遣うような顔をする。


「さっきはごめんね。痛かったでしょ?」


「うん? あぁ、最初に抱き着いた時のことですか? あれは私の不注意ですしリールラの気にすることじゃないですわ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど‥‥‥って、今も手を繋いだままじゃん! 痛くないの?」


「大丈夫ですわ。ちょっとピリピリしてるくらいで、むしろちょっと気持ちいいですわね」


「えぇ‥‥‥」


 そんな引いた顔しなくても。


 感覚としては接骨院とかでやる電気治療とか、あとは電気風呂みたいなものですもの。


「まぁ、でもこうやって今の私が誰かに触れば‥‥‥」


 師匠の腕を人差し指でちょんと突いてみる。するとパチッて音がして静電気が起こった。


「~~っ!」


「‥‥‥いたい」


 け、結構痛かったですわね。師匠は相変わらずの無表情で本当に痛がってる感じがしませんけど。


「だ、大丈夫二人とも」


「大丈夫ですわ。それより、リールラのスキルについてもう少し詳しく教えて欲しいですわ」


「それはいいけど‥‥‥さっきも言ったけれどボクのスキルは『発電』。デンキとやらを生み出すみたい」


「そういえばリールラは電気について知ってますの?」


「えーっと、それが自分のスキルながらよくわかってなくて‥‥‥電撃魔法とは違うんだよね?」


「そうですわねぇ‥‥‥電撃魔法の元? 電撃魔法の威力をとても弱くしたもの? って言えばわかりやすいかしら。あとは雷とかも電気ですわ」


 さすがに科学の発達していないこの世界でプラス電子やらマイナス電子やら自由電子と言っても意味不明でしょうから、なるべくわかりやすく伝えようと思ったらこんな感じの説明になりますわね。


 それからもっと詳しく『発電』スキルについて聞いてみると、だいたいこんな感じの能力じゃないかなっと当たりを付けましたわ。


【発電】魔力がある限り常に電気を生み出し続ける。

【帯電】生み出した電気を帯びる。

【蓄電】生み出した電気を溜める。

【放電】生み出した電気を放出する。


 と、こんな感じですわ。やっぱり色々と応用が効くスキルじゃないかしら?


 そして普通のスキルならば発動するには効果を意識する必要があるのだけれど、『発電』はパッシブスキルのためリールラはこれを無意識でも発動してしまってるのですわ。


 でもそれは仕方ないかもしれませんわね。なぜならこの世界では電気と言うのは未だに未知のもの。リールラをバカにするわけじゃないけれど、理解しろって言う方が無理難題ですわ。


 まぁ、中にはスキルを使う天才みたいな人もいて、そういう人は感覚で使いこなすらしいですけど。


 しかしどちらかというとリールラは理詰め派でしょうし、当分はお母様の魔法訓練と並行して私が電気について教えてあげればいいですわね。


 最終的にはそれでリールラにスキルを制御できるようになってもらうことにして、あとは当面の対策ですわ。


「どう、かな? ボクのスキル、なんとかなりそう?」


 私が考え込んでいると、リールラが不安そうにそう伺ってくる。


「もちろんですわ! 今パッと思いついたのは三つくらいですわ!」


「も、もう三つも!? アリシアは前から頭良いとは思ってたけどすごいねぇ」


「ふふん! あ、でも師匠も何か思いついたのではないですか?」


「ん、私もアリシアと同じで三つくらい。カミナリ石を使った方法か、サンダーバードの素材か、プラズマ鉱石の武器を作るか‥‥‥今のところ三つ目が一番いいかな」


「あっ‥‥‥」


 確かにそうですわ。私が考えたのは電池を作ってそこに流すこと。コンデンサーのようなもの作って電気の流れを誘導して溜めること。ゴム素材を使ってライドスーツを着ることの三つ。


 だけど師匠の言う通り、ここには異世界の不思議素材があるのだからそっちを使う方が良いかもしれませんわね。前世の知識はとても有用ですけど、それに傾倒しすぎるのはダメですわ。


「さすがは師匠ですわ! 私が思いつかない事ばかり!」


「アリシアに負けてられないから。アリシアが思いついたことも教えて?」


「もちろんですわ!」


 それから師匠とリールラと話し合って、師匠がカミナリ石とコンデンサーの仕組みを合わせたペンダントを、私がプラズマ鉱石と電池の仕組みを合わせた武器を作ることになりました。ライドスーツについては保留ですわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る