第17話 リールラのスキル

 あとからやってきた師匠のハイポーションを飲んで復活した私は、お母様と一緒にブランダンテ侯爵家の方々と向かい合って座る。


 お母様の前にはブランダンテ侯爵が、その隣には夫人がいて、私の正面にはリールラという席順ですわ。


 リールラはさっきのことに責任を感じてるのか申し訳なさそうに俯いている。それにさっきは気づかなかったけれど、なんだか少し元気が無さそう?


 目が合って小さく手を振ってみるけれど、やっぱりぎこちない感じですわね。さっきのは完全に私の不注意だから気にしなくていいですのに。


「ご機嫌麗しゅう、アマンダ様。本日は娘がスキルを授かった報告をしに参りました。それから先ほどのことは誠に申し訳ない」


 すると、私たちの微妙な空気を切り裂くようにブランダンテ侯爵が頭を下げた。


「気にしなくていいわ。だいたいこの子が飛び出したのがいけないのよ。もっと慎みを持ちなさい」


「あい~‥‥‥」


 慎みなんて私とはどこまでも程遠いものですのに。錬金術で慎みを補えないかしら?


「それで、リールラのスキルはどうだったのかしら? さっきの感じだと電撃系統だと思うのだけど」


 さっそく本題とばかりにお母様がそう切り出す。その瞳はどことなくキラキラしてる様子なのは『電撃魔法』だったら自分が指導したいと思ってるからですわね。お母様は魔法大好きだから。


「それについてアマンダ様にご相談があるんです。リールラ」


「はい、お父様」


 ブランダンテ侯爵がリールラに視線を向けると、リールラが真剣な顔でお母様を見つめる。


「私の授かったスキルは『発電』というものでした」


「発電‥‥‥それは『電撃魔法』とは違うのかしら?」


「どうも『発電』は生産系スキルのようで魔法のように術を発動できないんです。ただ勝手にどんどんデンキ?というものを生み出してるようで、それは私に溜まっているようなのです。それでその状態で誰かに触れたりすると先ほどのアリシア様のようになってしまうようで」


「なるほどパッシブスキルってことなのね。う~ん、また珍しいスキルを授かったわね」


 どうやらお母様も『発電』スキルと言うのは初耳みたいですわ。


 ちなみにパッシブスキルというのはいわゆる常時発動型のスキルのことで、その人の意思に関係なく常に発動しているスキルの事ですわ。


 普通のスキルと違って結構珍しいものみたいですわね。私が聞いたことがあるのは常に水中でも地上と同じように呼吸できるようになったり、息を止めても窒息することが無くなる『無限呼吸』のスキルや、道に迷わなくなる『道案内』なんてスキルがあるらしいですわ。


 にしても、常に電気を生み出すなんてリールラは凄いですわね。人間発電機の誕生ですわ。パッと思いつくだけでも前世で使ってた家電製品の全てをリールラはそのまま動かせるのだから、応用性はバッチリですもの。


 しかし、この世界ではまだ電気は一般的なエネルギーじゃないためか、この場にいる全員がその有用性を理解できてない様子。師匠は電気の事は知ってるみたいだけれど。


 まぁ、この世界では魔力がありますし、前世と比べてそこまで電気は重要で無いのかも。


 それでも今後魔力の代わりになるかもしれないエネルギー源であることを知ればしっかりと確保したいと思うでしょう。魔力だって無限にあるように見えていつか無くなってしまうかもですし。


 私がそんなことを考えている間にもリールラからお母様への相談は続いている。


「このスキルを授かってから誰かに気軽に触れたり、触られたりすることができなくなってしまって‥‥‥」


「なるほど。一応パッシブスキルも魔力制御である程度コントロールすることもできるわ。今アリシアも訓練してるところだから、明日からはリールラも一緒にやりましょうか」


「はい‥‥‥」


「その様子だと、まだ聞きたいことがあるみたいね?」


「はい、その‥‥‥」


 一瞬言いよどんだリールラは、チラリと私の方を見ると恐る恐るといった様子で口を開く。


「私、武術系スキルではありませんでした‥‥‥なのに、このままアリシア様の専属護衛になってもいいのでしょうか?」


 あぁ、そういうことでしたの。元気が無かったのは武術系スキルを授けられなかったのにこのまま私の護衛でいていいのか不安に感じていたってことですのね。


「それに関しては決めるのはアリシアよ。アリシアはどうしたいかしら?」


「愚問ですわ! 私の騎士はリールラじゃなきゃ嫌です!」


「アリシア様‥‥‥」


 私がそう宣言したのを聞いて、リールラが瞳を潤ませて見つめてくる。


 私はそんなリールラに身を乗り出して、触れた瞬間バチッと弾ける痛みを無視して彼女の手を握る。


「あ、アリシア様!? 手がっ!」


「リールラ聞いて、たとえ武術系スキルじゃなくたって私にとってあなた以上の騎士なんていないですわ!」


「アリシア様‥‥‥はいっ!」


 パッと笑顔に戻ったリールラ。元気が戻ってきてよかったですわ。


 お母様もブランダンテ侯爵夫妻もそんなリールラの笑顔を見て微笑ましそうな顔をしている。


「それにリールラのスキル、使いようによっては武術系スキルよりも戦闘力はあると思いますわ!」


「え‥‥‥? そうなんですか?」


「えぇ! それに、常時発動してしまう電気の対策も錬金術でなんとかしますわ! 私に任せてくださいな! ということでお母様、ちょっくら工房に行ってきますわ! 師匠も来てください! リールラも行くわよ!」


「わっ! ちょっ、アリシア様!」


「ん、アリシアの作る新しい物、面白そう」


「あっ! こら二人とも!」


 お母様の静止を振り切って、私はリールラの手を握ったまま応接室を後にします。ごめんあそばせっ!

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