第16話 頭の痛い王妃様

 ——バコンッ!!


「あいた‥‥‥っ!?」


「まったく! あなたが作るものは便利なのは認めるけれど、どうしていつもこう‥‥‥はぁぁぁ」


「お母様、ものづくりに失敗は付き物ですわ! ——あいたっ!?」


「だとしても限度があるでしょう!」


「ひぃぃ~~~っ!」


 リシアにドナドナされてやって来たのはお母様の執務室。


 中庭の爆破は城中に響いていたみたいで一時的にパニックになったものの、それが私のせいだということが知れ渡ればすぐに落ち着きは取り戻しましたわ。


 そして私はお母様に二回も拳骨を落されました。


 うぅ~、ギャグマンガみたいなたんこぶか二個重なりそうですわぁ‥‥‥。


「それで、中庭は大丈夫なんでしょうね?」


「え~っとですね‥‥‥」


「どうなのリシア?」


「は、はい。中庭はアリシア殿下の作られたドライヤーという魔道具の事故により草花はだいたい焼け焦げて、噴水は爆発によって半壊してます」


 り、リシア~‥‥‥そんな正直にペラペラと‥‥‥っ!


「お、お母様! それは師匠に伝えたら直してくれると請け負ってくれましたわ! なんでも試してみたい植物育成薬があるとか‥‥‥」


「——失礼します!」


 と、その時でした。私の言葉を遮る勢いで執務室のドアが開け放たれると一人の騎士が入ってきました。


「どうしたの?」


「はっ! 王城の中庭にて突如樹海が発生! 城の一部を飲み込み増殖を続けております! 現在ハイエルフのレティシア様に協力してもらい対処中です!」


 え、樹海!? なんで!? ‥‥‥いや、もしかして師匠が言ってた植物育成薬が‥‥‥?


「はぁぁぁ‥‥‥もしかして錬金術師ってみんなこうなの‥‥‥?」


 お母様もすぐに私と同じことを思たのでしょう。頭が痛いとばかりに額に手を当ててさっきよりも大きなため息を一つ。


「わかったわ。騎士団はすぐに事態の鎮静に当たってちょうだい。それからレティシアをここに呼んで」


「はっ! 失礼します!」


 最後にピシッとした見事な敬礼をして騎士は執務室から出て行きました。


「お母様、それでは私も樹海の対処に‥‥‥」


「待ちなさい。アリシアはレティシアがくるまでそこで正座しなさい」


 くっ、このドサクサに紛れてお説教を終わらせようと思いましたのに!


 それから少しして師匠が執務室にやってきました。


「呼ばれたから来た」


「レティシア、あなたもアリシアの隣に正座なさい」


「え‥‥‥」


 師弟揃ってお母様にこってりと絞られたのは言うまでもありませんわね‥‥‥。


 ちなみに、師匠と必死に頭を下げてたおかげか、なんとか錬金術禁止令だけは回避することがきましたわ。



 ■■



「報告します! 中庭に現れた樹海は無事除去し終わりました。被害は城自体の被害は軽微です」


「そう、わかったわ」


「それからブラダンテ侯爵家の方々がお見えになってます」


「あぁ、もうそんな時間なのね。ありがとう、もう行っていいわ」


「はっ! 失礼します!」


 はて、ブランダンテ侯爵家と言ったらこのサンライト王国の中でも数少ない高位の貴族家ですわね。


 しかもサンライト王国では珍しく武術系スキルが発現しやすい家系で、代々騎士団長に就任することが多いらしいですわ。現騎士団長もブランダンテ侯爵当主ですし、次の騎士団長も既に次期当主である長男が有力視されているとか。


 もしかして私と師匠が城で色々やらかしたことに苦言を呈しに来たのかしら? 


 いや、でもそれなら騎士団長として執務室に直接告げて来ますわよね。


 さっきの騎士が言うにはブランダンテ侯爵家として来たようですし、それならどんな用なんでしょう?


 まぁ、どっちにしろ国内の政治については私にはあまり関係のないことですわね。さっさと工房に戻ってドライヤーが失敗した原因を探しましょうか。


「それではお母様、私はこれで失礼しますね」


「なに言ってるの? アリシアも行くわよ」


「え?」


「朝伝えたでしょう? 今日はリールラがスキルを授かった報告に来るからアリシアも出迎えるわよって」


「え~~‥‥‥」


「‥‥‥聞いてなかったのね」


「そ、そんなことないですわ‥‥‥? と、というかリールラが来てくれるんですの!? それならそうとさっそく行きましょう!」


「あっ、こら! ‥‥‥まったく、落ち着きがないんだから。レティシアはどうする?」


「ん、面白そうだからついてく」


「そう」


 お母様と師匠の会話を後にして、私は執務室の扉を勢いよく開けると執務室へ急いで向かいます。


 ブランダンテ侯爵家の長女、リールラは私と同い年の幼馴染ですわ。


 彼女もブランダンテ侯爵家らしく騎士に憧れを持っており、将来は私の専属護衛になることが決まっていて、そのため小さい頃から一緒に過ごしてきた気心しれた仲ですわね。


 最近は祝福の儀などがあってお互いに忙しく会えてませんでしたから、顔を合わせることになるのはひと月ぶりくらいかしら?


 リールラがどんなスキルを授かったのか、今から会うのが楽しみですわ!


 そんなことを思いながら廊下を走った勢いのままに応接室の扉をドパーン!と開く。


「リールラ!」


「アリシア様!?」


 私が入って来たことに驚いて立ち上がった彼女がリールラ。


 肩口で切り揃えられた青紫色の髪に同じ色の瞳。身長は私よりも高めで、成長すればスラッとした美人になること間違いなしですわ。


 久しぶりに会えたリールラの姿を見て嬉しさからパッと自分の表情が綻ぶのを感じる。


 だってたくさん話したいことがあるんですもの。錬金術のこととか、これまで作ったものとか。


 そんな溢れる気持ちのままに、まずは再会を喜ぼうと抱き着こうとして。


「アリシア様ダメ! 今の私は‥‥‥っ!」


「え?」


 ——バリバリバリバリッ!


「アババババババッ!」


 リールラに触れたその瞬間、冬のドアノブの静電気の比じゃない痺れが全身を巡って、私はバタリと倒れたのでした。


「——あへぇ‥‥‥」


「あ、アリシア様~~~!」


 うぅ‥‥‥なんだか最近、こんなのばっかりな気がしますわ‥‥‥。

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