第14話 トイレ完成
「‥‥‥ゴクリ」
私がそれにそっと手をかざした瞬間、魔導線で繋がれたランプの魔道具がひとりでにパッと光り輝く。
「で、で、できましたわ~~~~~~っ!」
長い、長い苦行の時間でしたわ‥‥‥。
お母様に魔力のことを聞きに行ったあの日から、私の日課に魔法訓練が追加され。
来る日も来る日も訓練場の周りを走り回る日々。
——ぜぇ‥‥‥ぜぇ‥‥‥魔法の訓練なら、せめて魔法を使わせて欲しいですわ‥‥‥!
——いいわよ。そしたらまずは無意識でも咄嗟に魔法を使えるように。連続魔法訓練開始! はい、錬成、錬成、錬成、錬成。
——う、おぉぉぉぉぉおおおおっ! 魔力がゴリゴリ削れますわぁぁぁあぁあぁっ!。
あぁ‥‥‥思い出すだけで身体が震えてくるくらい、お母様の訓練はスパルタでしたわ‥‥‥。
お陰様で私、あの有名な錬金術師さんみたいに手を付いた地面から柱を伸ばせるようになりましたもの。そのうちド三流に格の違いを見せることになるかもしれませんわね。
「アリシア、大きな声出してどうしたの?」
と、その時、私の声を聞きつけたのか、師匠がやってきました。
「師匠、師匠! ついにできましたわ! 魔導センサー!」
「ほんと? 見せて」
「はい! このレンズのところに手をかざすとランプの魔道具が光るようになってますわ」
「やってみるね」
そう言って師匠が手をかざすと、今度も間違いなく起動したランプの魔道具。
その様子に師匠は本当に驚いているようで、耳をピクピクしながらランプを消したりつけたりと何度もセンサーを試しています。
「す、すごい、すごいよアリシア。一応構造は聞いてるけど‥‥‥うん、もう一回教えて?」
「もちろんですわ! この魔導センサーはお母様の言っていた魔力の波動を感知することで魔導信号を発信、この魔導コードを伝い魔道具に信号が送られ起動させる仕組みですわ」
仕組み自体は前世の人感センサーと同じで、電子信号の代わりに魔力の信号‥‥‥名付けて魔導信号が流れるようになっている。
この魔導信号も魔力の波動に気が付いたことで出来たものですわね。
説明するとすごく簡単に聞こえるけれど、この魔力の波動を感知させるのに本当に苦労しましたわ。
そもそも本当に魔力の波動とやらがあるのかどうかの証明から始めないといけませんでしたし。
その方法は凪いでいる水面に向かってギリギリ触れさせないようにしながら、魔力だけを強く押し付けるようにして分かったのですけど‥‥‥ここでお母様との魔法訓練が活きたのは皮肉でしたわね。
本当に波動が出てると分かれば、あとは赤外線センサーと似たような仕組みで出来ましたわ。これも何度も試行錯誤しましたから、言うほど簡単じゃなかったですが。
しかし、そうして完成した魔導センサーは、自分で言うのもなんですけどとっても素晴らしいですわ! 自動化ができるということは魔道具界に新風を巻き起こすに違いありません!
それに、これができたことで一気に作れるものの幅が増えましたわ! 例えば自動ドア、例えば監視カメラ‥‥‥う~~~っ、夢が広がリング!
今後の課題は有線を無線にすることですわ。それと、魔力の波動の方も今はまだ波動があることが分かっただけですし、これはお母様が言うには一人ひとり違うようですから、今後もっと研究して個人識別ができるくらいにはしたいですわね。
でも、今はまず、最初の目的だった水洗トイレを完成させましょう!
「師匠! 手伝ってください!」
「もちろん、弟子がこんなすごいのを発明したんだから、師匠の私が負けてられない」
それから私たちは二人で意見を出し合いながら水洗トイレを完成させましたわ。
‥‥‥本当に今更ですけど、これだけがんばって作ってるのってトイレなんですわよね。
こんなにトイレに夢中になってる王女さま、きっと世の中探しても絶対私だけですわ‥‥‥。そのうち、おトイレプリンセスとかお便所姫とか呼ばれたらどうしましょう‥‥‥。
■■
「それで、これがアリシアの言っていた水洗トイレとやらか?」
「そうですわ! こっちのタンクにドラゴンの装飾をさせたほうが国王専用モデルで、こっちの普通のやつがノーマルモデルですわ。まぁ、変わってるのは見た目だけで性能は同じですけど」
「また変なものを作って‥‥‥」
「お母様、変なものじゃないですわ!」
「アリシア、今度は大丈夫なんだよね‥‥‥?」
「カイルお兄さま、シャワーの時はたまたま失敗しちゃっただけですわ」
ついに水洗トイレを完成させた私は、これがどれだけ素晴らしいものなのかを見てもらい、使い方を説明するために設置する前に応接間で家族みんなに紹介していた。
チラリとみんなの反応を伺えば、どうやら困惑してるみたい。まぁ、従来のものとはかけ離れてますものね。
「とりあえず使ってみてください! あそこに座って用を足し、横にあるボタンでおしりを洗うことができますわ!」
「そこまで言うならわかった。アリシアが必死で作ったものだからな、まずは俺が行こう」
そう言ってアレクお兄さまが即席で作られた衝立の中に入っていく。私は説明するために衝立のすぐそばに。
そして次の瞬間、アレクお兄さまの声が聞こえてきた。
「おぉ!? 蓋が勝手に開いたぞ! この穴が開いてるところに座ればいいんだな?」
「そうですわ! あとはそのまま用を足し、大きい方であれば横にある『おしり』のボタンを押せば温水で洗浄できますわ! 強さ調整や温度調整もボタンでできますわ」
「ほう? これか。どれ、試しに押してみよう——おぉぉおぉおぉっ!」
「ど、どうしたのアレク兄さん!? すごい声がでてるよ!? やっぱりアリシアの発明はキケンだった!?」
「もう! カイルお兄さまの時みたいな失敗はしませんわ!」
失礼しちゃいますわ! 何度もウォシュレットの調整をしましたもの、おかげでちょっとお尻が痛いですわ。
やがて、流す音が聞こえると、衝立から悟りを開いたような顔をしたアレク兄上が出てきた。
「ふぅぅ~~~~」
「アレク、アリシアの水洗トイレとやらはどうだった?」
「親父、あれは凄いものだ。トイレの常識が覆される。気を付けないといつまでも座っていたくなるぞ」
「それほどまでか‥‥‥どれ、それなら私も一度試してみよう」
そう言って今度はお父様がドラゴンモデルの方に入っていく。
「しかしアリシア、穴の開いてるところに水があって、流したら吸い込まれていったがあの水はどうなったんだ? あそこに用を足すってことは処理をしないといけないだろう?」
「あぁ、それはあのタンクの中ですわ」
トイレの汚水の処理については結構悩みましたわね。
洗面台設置の時もそうでしたけど、まだ下水工事はまだできてないから、外に垂れ流すか、今まで通り回収して処理をするか。
しかしそれは師匠の教えてくれた、まだ私の錬金術大全には載っていない魔法陣でなんどかなりましたわ。
その名も浄化の魔法陣。タンクの中にはこの魔法陣の効果があって、流れた汚水は一度タンクに戻って浄化される仕組みになってますわ。
そうしてできたのが、まさに完結型と言ってもいい新たなトイレ。これでもう使用人たちが臭い匂いを我慢しながら糞尿を処理する必要もありません。
これなら私も自分が出したものを他人にあと始末させる必要も無くなりましたわ。いつも恥ずかしかったですもの。
そうしっかりと説明すると、お兄様たちだけでなくお母様も関心してくれて、そして集まっていた使用人の人たちからは歓声が響いていた。
と、その時でした。
——ボオォォォオォオォォッ!!
「のわぁぁぁああぁぁああっ!? ——あべぎゃッ!」
ドラゴンモデルトイレから飛び出す水。真っ赤になったお尻丸出しで落ちてきたお父様。衝立が崩れ、見えた光景は噴水のようなウォシュレット。
「お、お父様!? えぇっ!? なんかウォシュレットがドラゴンブレス並の威力になってますわぁぁぁ!?」
急いでウォシュレットを止めて原因を調べれば、どうやら強さ調整の設定ミスでしたわ。
そんなことがありながらも、水洗トイレお披露目会は終了。
しっかりとその有用性は分かってもらえたようで、お父様直々の命令でお城中のトイレを水洗トイレに変えることになったのでした。
‥‥‥カイルお兄さまだけは頑なにウォシュレットを使ってくれなかったけれどね。
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