第3話 レティシアの錬金術講座


「とりあえず、手紙で言われた通り一室開けたけど、ここでいいかしら?」


「ん、ちょっと狭いけどこれくらいなら問題ない」


「そう。ならアリシアのことは任せるわ。私はちょっと用事があるから、何かあったら部屋の前にいるメイドに言ってちょうだい」


「任された」


「アリシアも、レティシアの言うことをしっかりと聞くように」


「わかりましたわ!」


 私が元気よく返事をすると、お母様は心配そうにしつつも部屋を出ていきました。


 ここは王宮にある部屋の一室。先日までサロンの一つだったのを家具を全部取り出して完全な空き部屋にしてありますわ。元は中庭にある花畑を見て寛ぐサロンだったため、一階にあり外に出るドアもついています。


「それじゃあさっそくここを錬金術師の工房に変えていく」


「工房!」


 師匠は背負っていた荷物を地面に置くと、そこから私の身体がすっぽり入るくらい大きな釜を取り出します。


「えぇっ!?」


 その光景を見て思わず驚いた声を上げてしまう私。


 だって明らかにその皮袋に入る量じゃありませんわ!?


「師匠! 師匠! なんですかこの袋!?」


「ん? これは時空龍の素材で作った容量無限袋。物の質量や大きさを関係なく吸い込むように入れられる」


 それってつまり、四次元ポケット‥‥‥?


「すごいすごい! これも錬金術で作ったのですの!?」


「そう。でも難点はたまに入れたものが時空の狭間に飛ばされて取り出せなくなる。そこが改善点」


「はえ~、これって人が入ったらどうなるのかしら?」


「中は時間が止まってるから生き物も時間が止まる。でも取り出した瞬間に何故か急激に風化して塵になる」


「えっ、こわっ!?」


「うん。錬金術は危ないことも多い。この袋を作った時も失敗して危うく時空間に引きずり込まれそうになった。だからアリシア、錬金術をするときは細心の注意を払うこと」


「わ、分かりましたわ!」


 さっそく師匠の教えを聞いたけど、想像以上に錬金術はキケンですわね‥‥‥。時空間に飛ばされるなんて、自爆なんかも目じゃないくらいですわ。


 最初は四次元ポケット欲しですわ~っ! このあと作りましょう! なんて思っていましたけど今の私じゃ早すぎるってことは分かりますわね。


 それからも次々と四次元ポケットならぬ四次元袋から色んなものを取り出していく師匠。


「師匠これは何ですか!?」


「魔力炉。魔力を別のエネルギーに変える魔道具」


「これは何ですか!?」


「抽出器。植物エキスなんかを取り出す魔道具」


「これは何ですか!?」


「ただの素材棚」


 こんな感じで、つい師匠が取り出す度に気になって聞いてしまいましたけれど、師匠は嫌な顔一つせず教えてくれました。


「最後にこれがアリシアの錬金釜」


 師匠はそう言うと師匠のよりも一回り小さい釜を私の前に置きます。


「私の‥‥‥? いいんですの!?」


「ん。錬金術師が弟子を取る時は最初に錬金釜を贈るのが習わし。もしアリシアが弟子を取る時があったら覚えておいて」


「ありがとうございます! でも、まだ師匠の弟子になったばかりなのに気が早いですわ」


「それもそっか。実はアリシアが初めての弟子だから色々教えたくてちょっと先走った」


「じゃあ私が師匠の一番弟子ですね! これからいっぱい教えてください!」


「ん。じゃあさっそく」


 一番弟子って言った時、師匠の耳がピクッと跳ねた気がしますけど、もしかして嬉しかったのかしら? 


 表情からは読み取りずらいけど、もしかしたらエルフの耳は感情を表しやすいのかもしれませんわね。


 そんなことを思っていると、さっそくレティシア師匠の錬金術講座が始まりました。


「アリシアは錬金術についてどういう認識をしてる?」


「えーっと、魔法薬を作ったり魔道具アーティファクトを作る技術でしょうか?」


「ん、概ね合ってる。それじゃあ錬金術師については?」


「ん~‥‥‥シンプルに『錬金術』スキルを持っている人の事でしょうか?」


「少し違う。実はスキルが無くても勉強すれば普通の人でも簡単な魔法薬や魔道具くらいなら作れる」


 確か魔法系スキルを持たなくても魔法が使える魔術という技術があったけど、それと同じことかしら。


「それに、逆に『錬金術』スキルを持ってるのに錬金術師になれない人も多い」


「そう言えば、アレク兄上がそんなことを言っていたような気が‥‥‥」


「理由はいくつかあって、まずは最初にしないといけない錬金釜の製作が難しいこと。ここで挫折する人はとても多い。だから師匠は弟子に錬金釜を贈ることが慣わしになってる」


「なるほど」


「次に錬金術は資金と魔力を湯水のごとく消費する。そのせいで貴族や大商人といった裕福な家でしか満足に錬金術ができない」


「ふむふむ」


「最後に錬金術は様々な分野の技術を必要とするため、学識がないとスキルをほとんど使いこなせない。この三つが錬金術師がほとんどいない理由」


「つまり、私には天職ってことですわね!」


 だってまず師匠に巡り合えましたし、それから王女様だからお金はありますし、実は私の魔力量は魔法使いであるお母様に匹敵してるらしいですわ。


 これに関しては遺伝なのか才能なのか、はたまた私が前世を思い出すような特殊な体質だからなのかはわかりませんけど。それはその内調べましょう。


 そして三つ目に関しては職人一家だった前世の知識が大いに役立ちますわね。というかこの世界で一番の頭脳を持っているのでは?


「天職なんてなかなか言う。師匠として期待してる。話を戻すけど、私が思うに錬金術師は探究者で夢を追う者だと思う」


「夢を追う者‥‥‥」


「そう。”あんなものがあったらいいな” ”こんなものが欲しいな”って夢を創造すること。それを実現するために何度も実験を繰り返す。それが錬金術師、だよ」


「お、おぉ‥‥‥っ! すごくかっこいいですわ!」


「でしょ? アリシアは錬金術師になったら何を作りたい?」


 そう聞かれてまず思い浮かぶのは決まってますわ。


「ガン〇ム!」


「がん‥‥‥ん? え?」


「それからやっぱりエ〇ァも再現したいし、ラン〇ロットsiNも乗ってみたいですわね! あっ、師匠とグレン〇ガンで宿命合体してもいいかもですわ! あとはあとは‥‥‥」


 気が付いたら私は、師匠に向かっていつか作りたいものを思いつく限り話していましたわ。

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