第2話 師匠


 な、ななな、なんてこと!


 こんなに‥‥‥もう手が震えちゃうくらいものづくりに飢えてるというのに『錬金術』のスキルを使っちゃいけないだなんて! 禁断症状になっちゃいますわ!


 そう言って散々駄々をこねたのだけれど、結局許されることはなかったですわ‥‥‥。


 けれど詳しく話を聞いてみると、どうも慣れないうちにスキルを使うのは危険らしい。場合によっては魔力暴走を起こして大爆発し、命を落とすこともあるのだとか。


 つまりは自爆ですわね。あれ? どこかで聞いたことが‥‥‥?


 ということで流石に自重して、ここ数日はこの国を改めて識るために城下町を駆けまわったり、図書館の蔵書を読み漁ったり、私の誕生日会で貴族たちの挨拶をぼや~っと聞いたりして、大人しく(?)過ごしていましたわ。


 そうして今日は待ちに待った私の師匠になってくれる人がやって来る日。


 その人は森林族エルフだそうで、わざわざエルフ領から来てくれるらしいですわ。


 多民族国家であるサンライト王国では、エルフも城下町で普通に暮らしているため初めて見るわけじゃないですけど、どんな人が来てくれるかはとても気になりますわね。


 この国に多い職人気質な人かしら? それともエルフには学者も多いと聞くしインテリ系? 前世のお祖父ちゃんは厳格な人だったから厳しくても大丈夫ですけど、できたら優しい人が良いですわぁ‥‥‥。


 なんて思っていると、お城で働く執事が来客が来たことを伝えに来ました。どうやら師匠(仮)がついにお見えになったみたい。


「お母様! さっそく行きましょう!」


「そうね」


 待ちきれない私はお母様の手を引いて応接室の方へ。


 ちなみにお父様は政務をしていて、アレクお兄さまは城下町へ大工仕事、カイルお兄さまは学園でお勉強中ですわね。


 カイルお兄さまはいいとして、アレクお兄さまが大工?って思うかもしれませんけど、この国のモットーは”国民みな職人”。


 それは当然、王族にも言えることで。王太子でいるあいだ、力の強いアレクお兄さまは度々家づくりの陣頭指揮を取りに行くことがあますわ。


 そんなわけでお母様と二人、師匠(仮)が待つ応接室にやって来ました。


 メイドさんがドアを開けてくれて中に入ると、ウェーブのかかった柔らかい若草色髪をして尖った耳を持つ細身な女性がソファーに腰かけていました。


「レティシア、よく来てくれたわね」


「うん、来た。サマンサ、久しぶり」


 レティシア、それが彼女の名前みたいですわ。なんだか独特な雰囲気を持っていて、感情の起伏が乏しい表情は美形な顔立ちと相まって静謐で神秘的な印象を受けます。


 と、レティシアさんの視線が私の方を向きました。


「その子?」


「ええ、そうよ。アリシア、挨拶をしなさい」


「はい、お母様」


 お母様に背中を押されて一歩前に出ます。それからスカートの裾をちょこんと持ち上げて、小さく膝を曲げる。


「初めまして。アリシア=サンライトですわ!」


「ん、初めまして。私はハイエルフのレティシア。よろしく」


「——っ!?」


 ハイエルフ! 驚きましたわ! どうりでお母様にも気安い言葉遣いだったのですわね。


 ハイエルフとは森林族の上位種族であり、人間族で言う所の王家に当たる人たちですわ。


 さっきも言った通りサンライト王国は多民族国家になります。人間族、森林族エルフ山岳族ドワーフ獣人族ビースト人魚族マーメイド竜鱗族リザードの主要六種族がそれぞれの役割を担いこの国を支えていて、代表民主制というようなこの世界では珍しい政治体系をしていますわ。


 どうしてこうなったのかと言えば建国の話になるので割愛しますけれど、つまりサンライト王国の外交を担う役割の人間族である私たちが対外的にサンライト王家を名乗っているものの、それぞれの種族は平等な関係であり、種族ごとに代表者となる王のような存在がいるということ。


 そしてレティシアさんはそんなエルフの代表者の一人ということですわ。


 この国のエルフは北西にあるマニアレ大森林に住んでおり、その近辺はエルフ領としてハイエルフが統治していますわ。


 エルフは主に自然植物の扱いに長けていて、木工関連の職人になる者が多いですわね。また長命種族ゆえに様々な知識を持っており、学問への造詣も深いのが特徴になりますわ。


「これからよろしくお願いします! 師匠!」


 改めて、今度は職人風に頭を下げると、レティシアさんは嬉しそうに小さく微笑みました。


「ふふっ、師匠。なかなかいい響き。いいよ、私が今日からアリシアの師匠。なんでも教えてあげる」


「やった!」


「はぁー、レティシアもあまりアリシアを甘やかしちゃだめよ」


 お母様のお小言は無視して、私は師匠に満面の笑みを向けました。

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