第20話 疾電と電流のペンダント

 さすがにその日のうちに私の刀も師匠のペンダントも完成はできなかったので、それから数日後。


 何度か作り直したりして試行錯誤し、ついに完成したのでリールラに改めて工房に来てもらいました。


「アリシア、レティシア様」


「リールラ! いらっしゃい!」


 工房の扉が開いてさっそくリールラが入ってきます。


 ちなみに、刀とペンダントができるまでの当座の凌ぎとしてリールラには電気を通さないゴムのような素材でできたグローブを渡していますわ。あとはリールラの身体に溜まる電気を逃がすための試作で作った刀たちも。戦闘に使うならともかく、電気を溜めるだけの一時的な対処であればあれでも十分機能しますから。


 そうしないとリールラはお風呂にも入れないですし、人に触れる触れられることもできませんでしたから。


「あれからそれを使った感じはどうですか? 日常生活に支障はありませんの?」


「うん。お陰様でほとんど前と同じ感じでね。それにアリシアが電気を通さない道具を色々作ってくれたから」


 そう、いくら事前に電気を逃がしていたとしても、つねにリールラの身体から発電されてるのだから、どこかに触ればピリピリとした感覚はするわけで。それについうっかり電気を逃がし忘れるなんてこともあるかもしれない。


 そんな時に静電気なんかでパチッとしないように、リールラ用に絶縁グローブと同じ素材で取っ手を作った魔導ランプやシャワーなんかを渡していました。それが役に立ったのならよかったですわ。


「それで、あれからどんな感じになったの?」


 リールラが期待に瞳を輝かせてそう言う姿に、私と師匠は顔を見合わせてにんまりと笑む。まぁ、師匠の表情は全く変わらないけれど‥‥‥目がそんな感じがしましたわ。


「ここに完成したものがありますわ」


 黒い布を被せた机を指し示します。


「取って良いかな?」


「もちろんですわ!」


 そうしてリールラが布を取ると、そこには一振りの小太刀と中心に雷が奔るペンダントが現れました。


「これが‥‥‥」


「そうですわ。小太刀の方は銘を『疾電』、ペンダントの方は師匠が作った電流のペンダントですわ。ぜひ、手に持って使ってみてくださいな」


 私がそう言うと、リールラはまずは電流のペンダントの方を手に取って身に着けた。


「あっ‥‥‥」


「どう? カミナリ石の効果だけじゃなくて、アリシアから電気の流れを整えるコンデンサーっていう仕組みを付与してみたんだけど、整ってる感じ、する?」


「はい。なんだかすごく落ち着いた感じがします」


「ん、それなら効果ありだね」


「さすがですわ! 師匠!」


 カミナリ石は本来、電撃系の魔法使いの杖の触媒なんかに使わることが多く、その用途は電撃魔法の操作補助なんかを担当することです。


 今回、師匠がカミナリ石を素材に選択したのもそうした効果を狙ってのことでした。


 しかしここで問題になったのはリーシアの発する電気が、スキル由来ではあるものの魔法ではないということで、あくまで【発電】の効果は電気を作り出すのみで、電気そのものの操作はリールラの任意ではできないということでした。


 師匠はそのことに随分と悩んでいたようで。そんな時に前世にあった電気を溜めたり、電圧を調整したりして電流を安定させる仕組みについて話してみたら、なんと師匠はその仕組みを魔法陣にして組みこんでしまったのです。


 その結果、今まで無作為に放電していたリールラの電気を安定させることができ、更には魔力の流れそのものを整える効果も発現させることになりました。


 うん、師匠はやっぱりすごいですわ。


 元々ある魔法陣を描き替えて効果を追加したりするのに比べて、新しい魔法陣を作るのは魔導ドライヤーの時にそれがどんなに難しいことなのか、文字通り身を持って思い知りましたから。


 やっぱり師匠にはまだまだかないませんわね。


 続きまして、私の作った疾電ですわ。


「‥‥‥って、リールラ?」


 ワクワクしながらリールラが疾電を手に取るのを待ちますが、しかしリールラは一向に手を伸ばしません。


 もしや何か気に入らなかったのかしら?と思い始めて‥‥‥。


「あの、アリシア‥‥‥よければ、誓いの儀式をしてくれないかな?」


「誓いの儀式って、あれですか? 肩を剣で叩く、あの?」


「うん。せっかく我が主君から授かる剣だからね。非公式ではあるけど、正式に受け取りたいんだ」


 誓いの儀式とは、主に騎士たちが騎士たる称号を受け取る時に、これから仕える国や王に対して忠誠の誓いを立てる神聖な儀式のことです。


 きっと将来、リールラも成人を迎えるころにすることになるのでしょうけど。


「そう言うことなら、分かりましたわ」


「ありがとう」


 リールラはそう言うと、私の目の前で片膝をついて跪く。そうして身じろぎ一つせず俯きました。


 私はそっと鞘から小太刀を抜きます。そのままそっと、リールラの肩に刃の側面を当てて。


「汝、リールラ=ブラダンテを私の騎士に任命す」


「我が剣はこの国のため、アリシア様のために振るわれん」


 お互いに宣誓を終えた後、肩から話した刃にリールラがそっと口づけたのを最後に、誓いの儀式は終了しました。


 顔を上げたリールラと目が合って、思わず数秒見つめ合う。


「「——ぷっ! あははははっ!」」


 そうして我慢できずに噴き出しました。


「あ~あ、久しぶりにやったけど、結構恥ずかしいねこれ」


「本当ですわ! いつまでも子供じゃありないんですし、さっさと受け取ってください」


 昔はよく、騎士とお姫様ごっこをして、こうして誓いの儀式のまねっこなんかをしてましたけど、いい加減こういうのは気恥ずかしいですわね。


 そう思いながら、鞘に納めた疾電を押し付けるようにリールラに手渡します。


「少しだけ抜いてみていいかい?」


「もちろんですわ。握り心地とか、どんな感じか確かめてみてくださいな」


 リールラがそっと鞘から刃を少しだけ引き抜きます。


 この疾電は正真正銘、錬成魔法を使うことなくしっかりと私が打った一振りで、その雷の疾る刃紋はランプの灯りに照らされて、鋭く刃を煌めかせる。


 その様子を見た瞬間、リールラが「ほぅ‥‥‥」とため息をついたのがよく聞こえました。


「この前渡されたやつもそうだけどさ。この剣って反りがあるし普通のやつとは全然違うよね」


「これは刀と呼ばれる剣ですわ。騎士剣とは違い、反りを活かすことで斬ることに特化してるのです。騎士剣のように扱うと折れやすくなりますので、今度仕え方を教えますわね。それよりも電池の機能はどうですか?」


「ん~‥‥‥刀に向かって何か流れてる感じがするかも」


「それなら大丈夫そうですわね」


 試作品で作った者と違って、疾電は師匠の電流のペンダントと連動してリールラから電気が流れて溜められるようになってるのですわ。


 それから敵制圧用のスタンガンなんかの説明も一通りして、改めてリールラが私と師匠に向かって頭を下げて来ました。


「アリシア、レティシア様、ボクのためにありがとう!」


「ん、どういたしまして」


「リールラの為ならこれくらい当然ですわ!」


 一時は私の護衛が勤められないなんて悲観に暮れてたリールラだけど、しっかりと立ち直ったようでよかったですわ。


「そういえばアリシア、ここに来る前にアマンダ様に会ったんだけど、中庭で何かやらかしてたの? というか数日前くらいから森が出来てたけどあれって」


「「‥‥‥‥‥‥あっ」」


 や、やばばば! 中庭のあと始末の事、すっかり忘れてましたわぁぁぁっ! ひぃっ! お母様にどやされる!?

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