第10話 シャワーを作る
さて、うまくお湯を沸かす魔法陣もできたことですし、今度こそ本来の目的であるシャワーを作りましょうか。
といってもシャワー自体はシンプルな構造ですわ。単純に容器に小さな複数の穴を開けて高いところに吊るせば本体になりますもの。あとはその容器に水を入れればパスカルの原理でシャワーの完成ですわね。
でも、正直それじゃあ味気ないですわね。せっかくの錬金術、せっかくの魔法なんですものもっと使いやすくできるはず‥‥‥。
「師匠、さっそく素材を貰っていいですか?」
「いいよ。どんなの?」
「そうですわね‥‥‥軽くて丈夫、あとは腐りにくいのがいいですわ」
「ん~、なかなか難しい注文。軽くて丈夫な木材ならいくつかあるけど、木材は腐るし‥‥‥かといって鉱物だと重いし‥‥‥」
そうやってぶつぶつ呟きながら、四次元ポケットならぬ時空袋からポイポイと色んな素材を取り出してく師匠。
やっぱり結構な無茶ぶりでしたかしら? プラスチックなんてまだこの世界には無いですし‥‥‥あら?
「こ、これは!」
「どうしたの?」
「師匠! これ! これと銅をください!」
「うん? 別にいいけど、それは岩山で拾ったただの岩だよ?」
「とんでもない! これは鉱石ですわよ!」
見つけたのはボーキサイトと呼ばれる赤褐色の鉱石。ボーキサイトの主成分は水酸化アルミニウムで、要はアルミ二ウムの素となる鉱石ですわ。
アルミニウムなら軽くて丈夫ですし、金属だから腐らない。なんなら錆びにくいですわ。
さっそくボーキサイトに錬成魔法をかけて銀色のアルミニウムに変えていきます。純アルミだと傷つきやすいですので、銅と混ぜて合金にし丈夫にするのも忘れずに。
その後も師匠に持っているボーキサイトを出してもらって、どんどんアルミニウムに変えていきます。
「ほんとに金属なんだ‥‥‥しかもとっても軽いし‥‥‥」
アルミニウムの塊を手に取って色々確かめている師匠。手が光ってるのを見ると、たぶん【素材鑑定】を使ってるのかしら。
そして、その顔が私の方を向いた時、自分の迂闊さに気がつきましたわ。
「アリシア。なんであの岩があるみにうむ?になることを知ってるの?」
「え? あっ‥‥‥」
そ、そうですわ! こんなこの世界では未知の金属を知ってるなんて普通に考えたらおかしい!
これが師匠じゃなかったら「錬金術大全に~」が使えましたけど、同じ錬金術師で、しかも私より進んでる師匠にそうやって誤魔化してもすぐに嘘だってバレますわ!
「ぁ、う‥‥‥」
「ん?」
前世の記憶を思い出したことは今のところ誰にも言ってません。別に隠すことでもないのかもしれませんけど‥‥‥ちょっとだけ怖いのですわ。
私自信、前世の記憶を思い出した前と後で変わったことは無いと思ってますわ。私は私、アリシアですもの。でも、客観的に変に思われてて悪魔付きだなんて思われたら嫌ですわ。
だから、まだ誰かにお話する勇気は‥‥‥湧きませんわ。
「えーっと‥‥‥な、なんとなく‥‥‥?」
自分でも苦しい言い訳だってわかりますけど、何とかそう言って恐る恐る師匠を伺えば。
「そっか。私もたまにそういうことあるからわかる」
「え?」
「研究で息つまった時にパッと思い浮かんだりね」
「そ、そうですわよね! そんな感じですわ、はい!」
気を使われた? うーん、やっぱり師匠の表情は読みずらいですわ。
この場はなんとか取り繕えましたけど、いつか師匠には打ち明けないといけないですわね。家族とはまた違った師弟としての関係なら、きっと‥‥‥。
そしてしばらく、そこそこの数のアルミニウム合金が出来上がりました。これなら数個分のシャワーができますわね。
ということで、さっそく錬成開始~!
「どうやって作るの?」
「構造自体は簡単ですわ」
まずは素材に魔力を流しつつ【錬成魔法】で加工をしますわ。しゃもじ型って言えばいいかしら? ヘッドの部分を平らな丸い形にして、そこから棒をのばして持ちやすい形に変えていきますわ。あとはヘッドに針で刺したような細かい穴を無数に空けていけば。
「これで本体は完成ですわ!」
「穴を開けるのはちょっと疲れるけど、本当に簡単だね」
「はい! あとは【魔法付与】でどこに魔法陣を刻むかですけど‥‥‥」
それについてはヘッドの部分にそのまま刻み、持ち手のところから魔力回路を伸ばして繋げればどうかなと考えてますわ。
ちょっと刻む場所が小さいから難しくなりますけど、そこに付ければなんと給湯器とホースが必要なくなるというメリットがありますわ。
皆さまも経験ありませんか? 水を出しっぱなしでうっかり手放してしまい、水の出る勢いで暴れるシャワーのアレ。
捕まえにくいし、足に突撃してきたら痛いし、腹立ちますわよね!?
前世時代、私は散々アレに弄ばれてきましたわ!
でも大丈夫。ホースさえなければあんなグニョングニョンした動きはできなくなりますし、水を出したり止めたりするのは使用者の魔力でできるようになりますわ。
さらにさらに、シャワー自体が独立してるのでどこにでも持ち運びができるという優れもの! 皆様もシャワーの魔道具をいかが?
「ということでできましたわ! シャワーの魔道具~!」
「「おお~~~」」
「どうもどうも、私が開発者ですわ」
師匠とリシアがノリよく拍手してくれるのにお答えしながら、さっそく試そうとしたその時。
「あれ? 声が聞こえると思ったらアリシアたちか、お風呂場でどうしたの?」
そう言ってちょうど学園から帰って来たのか、カイルお兄さまが顔を出しました。
「カイルお兄さま! これを作っていたのですわ!」
「また何か新しいのを作ってのかい? これは?」
「シャワーの魔道具ですわ! 魔力を流すことでこの細かい穴からお湯が霧状に出てくるのですわ。これなら立ったまま髪の毛を洗うことができますし、簡単に泡を流すことができますの」
「へぇ~、それは便利そうだ。試しに使ってみてもいいかい?」
「どうぞどうぞですわ!」
「じゃあさっそく」
カイルお兄さまがシャワーの魔道具を手に持ち魔力を流していく様子を見守ります。
上手くいくといいけれど‥‥‥。
そう思っていると、シャワーの魔道具からジョ~っと水が出てきました。
「やった!」
「おぉ、本当にお湯になってる‥‥‥ん?」
が、成功を確信したその時でした。
シャワーの勢いがどんどん強くなっていって——。
——ブッシュゥゥゥゥウウッ!!
まるで高圧洗浄機のような威力になったそれは、ちょうどシャワーを自分の方に向けていたカイルお兄さまのお股にダイレクトヒット!
「——あひぃっ!?」
「きゃあっ!? カイルお兄さまのリトルお兄さまがお姉さまになってしまいますわぁ~~!」
お股を抑えたカイル兄さまはその場で崩れ落ちるのでした。
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