第7話 魔法付与


「ふんふんふんふふ~ん♪」


 さってさてさって~♪ 今日は何を作ろうかしら~♪


 私は錬金術大全を開いて、書かれているレシピを確認します。


 昨日はマナポーションを作り終わったあとも師匠に素材を貰いながら、そこそこの数の錬金術をこなし終えました。


 魔法薬ポーションだと、最初に作ったマナポーション、怪我を治すヒールポーション。


 この二つの上位互換である、ハイマナポーションとハイヒールポーション。


 それからその二つの効果を合わせたダブルポーションと、ハイダブルポーション。


 あとは体力を回復するスタミナポーション、毒の効果を治す解毒ポーション、不眠症にどうぞ睡眠ポーション。一時的に筋力が増加するムキムキポーション。


 等々、作り方も元となる水を蒸留したり、魔力を含ませたりとそんなに難しくなかったため、師匠に教えてもらいながらほいほい進めることができましたわ。


 魔道具アーティファクトの方はあんまり時間が無くて、小さな種火を起こせる”火起こしの魔道具”という一番最初に書かれていたやつしか作れてないですわね。


 だから今日は魔道具の方を進めていきたいところだけど‥‥‥。


「えーっと、まずはこのただ光る魔道具を作って‥‥‥」


「アリシア」


「次は少量の水を出す魔道具ですわね」


「ちょっと、アリシア?」


「やっぱり最初は単純に魔法付与の練習って感じのやつばかりなのねぇ‥‥‥」


「アリシア! いい加減にしなさい!」


「——ぴひゃいっ!?」


 大きな声で名前を呼ばれてびっくりしました。


 慌てて顔を上げると、鬼の形相になってるお母様が目の前に。


「ご飯を食べてる時は本を置きなさい。はしたないわよ」


「ご、ごめんなさい、つい」


 慌てて謝れば、お母様はため息をついてムスッとして朝食を食べる手を再開する。


 うぅ、今日のお母様ご機嫌斜めですわ‥‥‥ついに更年期かしら?


「‥‥‥何か失礼なこと考えてない?」


「な、ないですぜんぜん!」


 ギロリと睨まれて必死に否定する。


 やばい、あれは何人かヤッてる人の目ですわ‥‥‥ぶるぶる。


 そうやって慄いていると、同じテーブルに座っているお父様と兄上たちがお母様をとりなしてくれます。


「まぁまぁ、そのくらいにしておきなさい」


「ちなみにアリシアは何読んでたんだ? ずいぶん夢中になってたみたいだが」


「錬金術全書ですわ! アレクお兄さま!」


「へぇ、それが噂に名高い錬金術全書なんだ。アリシア、あとで僕にも見せてくれない?」


「カイルお兄さま、それがこの本は『錬金術』スキル保持者にしか読めないみたいなんです」


「そうなのかい? それは残念だ」


 本当に残念そうにしょぼんとするカイルお兄さま。


 アレクお兄さまも興味があったのか少し残念そうにしていた。


 それから朝食を食べ終わって、今日のみんなの予定を確認することになりました。


 といっても平和が続いてる毎日だから特に変わり映えすることはなく。


 お父様は執務。お母様は魔法師団の訓練。アレクお兄さまはお父様の補佐をして、カイルお兄さまはいつも通り学園に登校といった感じ。


「私は今日も師匠と錬金術を‥‥‥」


「待ちなさいアリシア」


「お母様?」


「あなた、昨日あれからレティシアとあの部屋に籠りっぱなしで稽古をさぼったでしょう」


「うっ‥‥‥」


「昨日は初めてスキルを使うってことで目を瞑りったけれど、今日はちゃんとしなさい」


「は、はい‥‥‥」


 ということで、錬金術をできるのは午後からになりそうです。



 ■■



「はふぅ~‥‥‥やっと終わりましたわ‥‥‥」


 ダンスホールから出た私はちょっと大きなため息をつく。


 今日のお稽古はダンスの練習でした。


 別に運動は苦手じゃないですけど、練習中は常にピンと背筋を伸ばしていないといけないからちょっと疲れますわ。


 明日は確かマナーの練習だったし、王女っていうのも楽じゃないですわね。


 そんなことを思いながらお昼ご飯を食べて、工房に行く頃には足取りも軽やかになっていた。


「師匠! お待たせしましたわ!」


「アリシア、お疲れさま」


 工房のドアを開けると師匠が出迎えてくれる。


 きっと私がお稽古をしてる時も錬金術をしていたのでしょう。羨ましいですわ‥‥‥。


「今日はどうする?」


「錬金術全書を進めようとおもいますわ」


「ん、わかった。素材は好きに使っていいよ」


「ありがとうございます!」


 師匠にお礼を言って必要になるモノを机に置く。


 と言っても、朝思った通り最初は【魔法付与】の練習のような感じだから鉄板だけなのですけど。


『錬金術』スキルの【魔法付与】は魔法陣を魔力で刻むことで付与することができる効果ですわ。


 魔法陣は魔力を魔法陣に供給するための魔導文様、魔法陣本体で魔力を循環させる円や六芒星、魔法陣の効果を決定する魔法文字で作られる不思議な文様の事ですわね。魔法士が魔法を使う時にも表れますわ。


 さっそく鉄板に手を置いて、錬金術全書に書かれていた魔法陣を思い浮かべながら刻んでいきます。


 私が触れた手のひらを中心にして、七色に光る魔力のラインが鉄板に広がっていった。この魔力のラインはある程度自分の意思で動かしたり消したりできますのね。


 昨日師匠に教えられたのは、この時に大事なのがしっかりと【魔法付与】を発動しつつ鉄板にも魔力を込めること。そしてミスなく魔法陣を刻むこと。


 ただ書き写すだけじゃ魔法は発動しないようですし、魔法陣がズレたり欠けたりしていてもダメ。この作業に魔力をゴリゴリ使うことになるのですわ。


 錬金術師が魔力喰いって言われる所以がこれってことですのね。


 魔力のラインを引いていくにつれて自分の中にある熱いものが手のひらを通して抜けていくのが分かりました。


 それにしても魔法陣の一部に書き込まれてる魔法文字、とても見覚えがあるのよねぇ‥‥‥私の前世の職業で慣れ親しんだ言語ですし。


 ぶっちゃけプログラミング言語でしょう、これ。


 さすがにまるっきり同じってわけでは無いですけれど、詳しく見ればどこがどういう意味を持つのかくらい推測できますわ。


 確か魔法系スキルを持っている人たちが新しい魔法を生み出すときは、この魔法文字を何十年も研究しているってお母様から聞いたことがあるけれど、私なら作ろうと思えば結構簡単なんじゃ‥‥‥。


 そんなことを考えながら順調に魔法陣を刻んでいると、師匠が後ろから覗き込んできました。


「アリシア、器用だね。綺麗に刻めてる」


「そうですか? よかったですわ!」


 これでも前世は陶芸家の娘だからね。何度かこういった模様の書き方を教わったことがあるんですわ。その時のことを手が覚えているのでしょう。


 そして最後に最初に刻んだところに繋げると、数秒だけ魔法陣が光ったかと思えば、スッと消えるように板に吸い込まれていきました。


「ん、完成した。ちゃんとできてるか魔力を流して確認してみて」


「はい!」


 板に手を置いて魔力を流してみます。


 すると、再び魔法陣が浮かび上がったと思ったら、工房全体を照らすように光り輝く。


「うわっ! まぶし!」


「これだけ強く光るのはよくできてる証拠。アリシアは魔法薬だけじゃなくて魔道具も作るのがうまいね」


「えへへっ、ありがとうございます!」


 やった! 師匠に褒められましたわ!

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