第6話 マナポーション

 気を取り直して、改めて錬金釜と向き合う。


 とりあえず、今は応用とかは考えず錬金術全書に書いてあるレシピ通りに作ってみましょう。


 えーっと、まずは錬金釜に水を入れて、魔力草を入れて‥‥‥と。


「師匠、かき混ぜる棒ってどうすればいいですの?」


「魔力が伝わるやつならなんでもいい。魔法の杖とか」


「わかりましたわ!」


 師匠に教えてもらって、私は腰から下げていた小さなワンドを手に持つ。


 これは数年前、魔力を鍛え始めた時にお母様がくれた魔法の杖です。


 魔法使いじゃないのに魔法の杖?って思うかもしれません。


 けれどお母様が言うには、もしも魔法系ではないスキルを授かっても、スキルを使うには例外なく魔力を消費するのだから、魔力と操作技術は鍛えておくべしというのが持論らしいですわ。


 錬金術はとても多く魔力を使うみたいだし、細かい操作が必要なのは確かにその通り。お母様には感謝ですわね。


 ということで、さっそく錬金釜の中に杖を入れて魔力を流しながらかき混ぜてみる。


「んしょ‥‥‥よしょ‥‥‥」


 魔力を流す感覚は念を送るような感覚に似ていますわ。


 大事なのは意識して流れていくことをイメージすることで、私は血液に乗って流れるイメージをするとうまく流れるようになりました。


 少しすると中に入れた魔力草が溶け出して、水が虹色に光る不思議な液体に変わっていく。


「ん。そんな感じ。錬金釜に魔力を流す時は、とにかくたくさん流すんじゃなくて繊細なコントロールが必要。魔力量にかまけて無理やり魔力を押し込んでも失敗して爆発するだけだから」


「き、気を付けます‥‥‥」


 爆発はもういいのです。


 それから師匠に見てもらいながら、慎重に錬金釜をかき混ぜ続け‥‥‥ふと、疑問に思うことがあった。


「師匠師匠」


「なに?」


「思ったんですけど、このまま錬金釜の中に手とか入れたらどうなるんですの?」


「‥‥‥アリシアは恐ろしいことを考える」


「え?」


「錬金釜は錬成魔法を付与した魔道具アーティファクト。だから錬成中に手なんて入れたら、当然錬成されるから溶けてなくなるよ」


「うっ、落ちないように気を付けます‥‥‥」


「そうして。ほら、話してるうちにそろそろ」


 師匠にそう言われて錬金釜を注視しると、虹色の液体が徐々に輝き始める。


「あとちょっと。最後まで気を抜かずに」


「はい!」


 グルグルグルグル。


 焦らず、かといって魔力を流すのを途切れないように気を付けながらワンドを回し続け。


 やがて、錬金釜の中が溢れるようにひと際大きく輝きました。


「わぁっ!」


 あまりの眩しさに、思わず目を瞑ってしまって。


 次に目を開けた時、錬金釜の中には淡く発光する水色の液体が出来上がっています。


「おめでと。初めての錬金術、うまくいったね」


「ありがとうございます! でも、師匠の教えかたが上手かったからですわ!」


「そう言ってくれると私も嬉しい。とりあえず、はい。これにできたポーションを入れて」


「わかりました!」


 師匠にポーション瓶を渡される。これは中に入れたポーションが腐らないようになる特別な瓶ですわ。


 錬金釜の中に少し瓶の口を付けて中に入れれば、お店でも見たことがあるマナポーションが出来上がりました。


「やったっ!」


 途端に湧き上がる感動。


 これを自分で作ったんだと思うと、得も言われぬ達成感が感じられますわ。


 同時に強くこう思う。やっぱり私はものづくりが好きなんだって。


 この国の王女として、私が作ったものでサンライト王国をもっともっと住みやすい国に変えていきたい。


 それに、前世では夢半ばで終わってしまった目標を今度こそ叶えて見せますわ!


 神様が私に錬金術のスキルを授けてくださったのは、きっとそのためなんだから。


 今日のマナポーションはそれの第一歩。


「師匠! さっそく飲んでみてもいいですか!」


「もちろん。初めて自分で作ったものを試したい気持ちはよくわかる」


 ということで、マナポーションの瓶を片手に持ち、腰に手を当てながら一気にゴクリ。


「ごくごく‥‥‥うぷっ!?」


 私の伝説の始まりは、にが~い味から始まるのでした。

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