第12話 行き詰まり
「アリシア、下水道工事の件だがな、この前会議をして正式に決定事項となった」
「本当ですか!? よかったですわ!」
朝食時、お父様がそう言ってわたしが提案した下水道工事の計画のことを教えてくれました。
この前洗面台を作った時に話したことを真面目に考えてくれたみたいですわね。まだ十歳の小娘なのに信じてもらえてホッとしましたわ。
下水道が出来れば町の景観は良くなって、さらに住民が疫病や肺炎になる確率が下がると言ったことが効果的だったのかしら?
実は洗面所を作った時、洗面台自体は鏡やシャワーノズルなど、既に出来てるものを組み立てたり、少し応用すればすぐに出来たのだけど、問題は排水の方法でした。
調べてみるとお風呂の場合はそのまま外に垂れ流しのようでしたけど、さすがにそれは環境的に良くないと思い、城に穴を開ける許可を取るついでに前から考えていた下水道工事についてお父様に直訴しましたの。
直訴とは身分の低い者が身分の高い者に命をかけて訴え出ること。娘の私がそんなことをしたからか、お父様は目を白黒させていましたわね。
まぁ、それくらい真面目なことだって受け止めて欲しかったからそうしたのですが、ちゃんと意見が通ったのならその甲斐もありましたわ。
「主だったことはアレクに任せることにした。やり遂げてくれるな?」
「おうよ! これから忙しくなりそうだ!」
なるほど。アレクお兄さまが王位を継ぐための箔付けにするということですわね。
「発案者のアリシアにも意見も聞くこともあるだろう。協力してやってくれ」
「わかりましたわ!」
せっかくだから穴掘りに便利な魔道具をいくつか作りましょう!
前世では親戚に土工事職人や配管工の親戚もいて、土木工事に使う機械とかも良く見せてくれましたし。さすがにショベルカーとかはまだ無理でしょうけど、ドリルや転圧機とかなら作れそうですわ。
「しかしアリシアは凄いね。どんどん新しいものを作ってるし、下水道の知識も錬金術のスキルかい?」
「前世の知——あっ」
「うん?」
「そ、そそ、そうですわ~! 錬金術の秘術ってやつですのよ~! おほほほほ~!」
あ、あっぶね~ですわ!? つい口走るところでしたわ! というかほとんど言ってましたわ!
カイルお兄さま、変に思ってないですわよね‥‥‥?
「アレン兄さん、僕も何かあれば手伝うからね」
「おう! カイルのことも頼りにしてるぞ」
ほっ‥‥‥どうやら誤魔化せたようですわね。
これ以上ここにいたらボロがでそうですわね。今日も水洗トイレを作る予定ですし、ササッと工房にに行っちゃいましょう。
「そ、それでは私は師匠のところに行ってきますわね」
そう言って部屋からフェードアウトしようとした、その時。
「アリシア」
「は、はいっ! お母様、なんですの‥‥‥?」
「ものづくりするのはいいですが、しっかりと王族らしい振る舞いを心がけるように。この前のお風呂場の時のようなことになってれば当分錬金術は禁止しますよ」
「も、もも、もちろんですわ! お母様との約束、忘れておりませんわ!」
「ならいいです。レティシアにも言っておきなさい」
「わ、わかりましたわ!」
ひぃ~‥‥‥やっぱりお母様はおっかないですわぁ‥‥‥。
■■
「むむむむむ‥‥‥はぁ~、分かっていましたが、やはり水洗トイレはシャワーとは比べ物にならないぐらい難しいですわね」
ここはお城の工房。その机の上で、私は水洗トイレの設計図を前に唸ってました。
水洗トイレ。作る前から予想はできてましたが、思ったよりも難しいですわ。
ただ用を足したあと綺麗にするだけなら簡単ですけれど、そこにあれもこれもと便利な機能を付けるのが不可能なんですわ。
理由はシャワーの時と同じ。魔法陣の多機能化による処理不足。
かといって既に頭の中に見本の完成形があるのに、それを妥協して劣ってると分かってるものを作るのは私の職人魂が許せません。
「うむむむむむぅ~‥‥‥こういう時こそトイレに籠ればなにかアイデアがひらめきそうですのに、そのトイレを今作ってるというジレンマ。何とも言えないですわぁ‥‥‥」
仕方ないですわ。こういう時は一度考えたことをまとめ直しましょう。
まずはどんなトイレを作りたいか、どんな機能を付けたいかですわ。
・オート水洗機能
・ウォシュレット(ビデ・おしりの使い分け機能、位置調整機能)
・温水(温度調整機能)
・洗浄力(強弱調整機能)
・暖房便座(温度調整機能)
・夜間照明機能
・便座きれい機能
・乾燥機能
・(オート開閉機能)
と、こんなものですわね。
上の五つは絶対付けたい機能、下の三つはできたら付けたい機能、最後のは付けるか悩んでる機能ですわ。
ちなみになどうしてオート開閉機能を付けるのか迷っているのかというと、前世でびっくりすることが多かったからですわ。
なんかトイレに入ったら勝手に便座が動くの、ちょっと怖くありません? 夜にトイレに行った時、いつも入った瞬間びくってしてましたわ。
閑話休題。それでは次は、それぞれの問題点を挙げましょう。
1.オート機能を実現させるセンサーが無い
2.機能が多すぎて魔法陣に収まらない
3.そもそも機能が多すぎて魔法陣が発動できない
4.魔力消費量が多くてコスパが悪い
こんなところでしょうか。
簡単に解決できるのは2番と4番ですわ。これは一つ一つの機能の魔法陣を分離させそれぞれの機能を別にしつつ、無駄が無くなるように魔法陣を精錬させればなんとかなりますわね。
次に3番ですが、前世と同じようにリモコン操作ができるようにすれば解決できると思いますわ。その為の構想は既にできてるので、あとは部品になる素材があるかどうか。
そして最後に1番ですけれど、これが致命的なんですわ。行き詰ってる原因ですわね。
1番はそのまんま、センサーが無いんですわ。むろん普通のセンサーであれば前世で何度も電子機器を分解してきたので作れますわ。
けれど、それは電子信号を受信するセンサー。家電のトイレならともかく、動力が魔力である魔道具のトイレでは意味ありません。つまり、魔力的なセンサーが必要ということですわ。
しかしそんなもの聞いたことがありません。師匠も知らないようでした。
なら作るしかないのですが、というか作ったのですが、できた魔力センサーはずっと反応しっぱなしで使えなのです‥‥‥。
魔力というのはこの世界に満ちています。生き物はもちろん、物質や土地、そして空気中にまでありますわ。
だからそのセンサーは空気中の魔力に反応してずっと反応しっぱなしなってしまったのです。これを付けたら便座がずっとパカパカすることになりますわ。
人とそれ以外の魔力の区別する方法を編み出さないと魔力センサーはできないでしょう。リモコンもこれが解決しないと作れませんね。
「うぬぬぬぬぬぬ! 解決策がぜんっぜん出て来ませんわ!」
それこそまるで便秘のごとく、トイレだけに。
「って、やかましいですわ! もう! 行き詰りすぎて変なこと考え始めてしまいましたわ」
はぁ~、ここはいったん原点に還る必要がありますわね。魔力についてもっと知る必要がありますわ。
あまり気は進みませんけど、ものづくりのためには仕方ありません。
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