第11話

俺の勤めるペットショップは俺が学生の時からバイトとして働いていた場所。


俺が何度、ジレンに言い聞かせてもいい子にしてくれず、お留守番してくそうにないジレンを仕方なく店に連れて行く事にし、ダッシュで店を目指した。


さすがウサギの気質があるジレンは鬼のように足の速く、俺はそんなジレンに手を引っ張られ、引きずられるようにして走った。


ジレンに俺が後ろから道を教えたにも関わらず、いつもは徒歩で15分かかる場所が5分で到着し、俺の心臓は口から飛び出すかと思った。


すると、店先でオーナーであるニチカさんが窓ガラスに張り紙をしていた。


T「ニチカさんおはようございます!!遅刻してすいません!!」


N「タケルが遅刻って珍しいね?大丈夫だよ。今日、まだお客さんも入ってないし。あの子たちのお世話だけよろしくね。」


T「ほんとすいません…ところでその張り紙なんですか?」


N「あぁ…実はこの前入ったばかりのバイトの子…今朝やめるって電話あったからさ…バイトの求人。」


T「えぇぇぇ!!やめたんですかあの子!?」


N「あぁ…またタケル1人に負担かけちゃうけどよろしくね?あと…この子は…タケルのお友達?」


ニチカさんは俺の横に立っているジレンを見つめると不思議そうに微笑みながら言った。


ジレンはニコッとニチカさんに笑い愛想のいい顔をしてニチカさんの元に駆け寄る。


俺はそんなジレンに驚き、何をしでかすか心配になりジレンの腕を掴むと、動物の扱いに慣れているニチカさんはジレンの肩を優しく叩く。


N「この子ウサギみたな顔して可愛な…ウチでバイトしない?どこかで働いてるの?」


J「ウサギみたいじゃなくて俺ウサギなの。しかもタイミングよく無職。俺のこと雇ってくれる?」


一応、ニチカさんはこの店のオーナーであり年上でもある。


なのにジレンときたら敬語は使わないし、初対面なのにも関わらずニチカさんにピタッとくっ付き愛想を振り撒くしで…思わず俺はジレンのフードを引っ張り俺の横へと引き戻す。


N「あぁもちろんだよwタケルのお友達だし安心して雇うよ。じゃ、今日からよろしくね。」


ニチカさんはそう言うと俺に店を任せて店の奥にある自宅の方へと戻った。


ジレンは呑気な顔をしてニチカさんの背中に手を振っているが俺はそれどころじゃない。


T「ちょっと!!ジレンどういうつもりだよ!?」


J「バイトするつもり〜」


ジレンはそう言いながら鼻歌まじりに店へと入っていく。


そして、中にいる犬や猫…そしてウサギをみて目を輝かせてゲージにピタっと顔をくっ付けて嬉しそうに見てる。


まぁ…1人で営業するよりマシか…なんて思いながら俺はジレンのエプロンを準備する。


J「タケルくん見てみて!!俺の仲間がいる!!」


ジレンは興奮気味にウサギを指差しているが、俺はそんなジレンをスルーしてあのデカイ身体にエプロンを付ける。


T「ジレンはウサギじゃなくて人間だろ!!バイトするって言ったんだからちゃんとこの子たちのお世話しなきゃだよ?分かったのかよ?」


J「はぁ〜い。まじ可愛い〜。」


俺の言葉を聞いてるのか聞いてないのか半信半疑のまま、俺はジレンに動物たちのエサを渡す。


T「はいこれはウサギさんたちにあげ…こらぁ!!食べるな!!それはお前のエサじゃない!!待てぇーーーー!!」


ジレンはウサギたちにあげるニンジンとキャベツをむしゃむしゃと食べ散らかしたので、俺のカミナリが落ちた。


J「だって…朝起きてすぐ来たからお腹すいたんだもん…」


T「だからってウサギたちのご飯を横取りしていいと思ってんのかよ?自分だけお腹を満たせたらウサギたちはお腹ペコペコでもいいのか?そんな子…うちには置けない。言い訳する前にちゃんと言うこと…あるだろ?」


J「……ごめんなしゃい……」


T「俺にじゃなくてちゃんとウサギたちにごめんなさいしておいで。ウサギたちのご飯はまた準備しておくから。」


J「はい……」


ジレンはそう言ってシュンっと肩を落としながらペタペタと音がしそうに歩き出したものの、すぐに俺の元に戻り俺のエプロンをピコピコと引っ張った。


T「ん?1人じゃウサギたちにごめんなさいできないのか?」


J「そうじゃなくて……俺いい子じゃないから…タケルくんもういらない?俺のこと…捨てちゃう?」


ジレンは目を潤ませ俺をじーっと見つめる。


T「そんな簡単に捨てたりしないって言ってるだろ?大丈夫だから早くウサギたちにごめんなさいしておいで。」


俺がジレンの頭を撫でてやるとジレンは含み笑いをし、コクンと頷くとウサギの元へとちょこちょこと走って行った。


N「彼はタケルの友達というより…まるでペットだね?」


俺がウサギのためにニンジンをまな板で切っていると、いつの間かニチカさんが俺の後ろに立っていた。


俺は思わずニチカさんのその言葉にドキっとした。


N「なんだそんな顔して?ペットでもなかったら恋人か?」


T「ま…まさかw彼は僕の…弟みたいなもんですよ。」


N「そうか?朝飯まだなんだろ?これ食ってから仕事しろ。あとは頼んだよ〜」


ニチカさんは俺にドーナツと小さな牛乳パック2本を渡しまた、奥にある自宅へと戻って行った。


つづく

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