第14話

静まり返る部屋の中で俺は1人…なぜかとてつもない虚しさに襲われた。


俺がジレンに向かって吐き出した言葉の全てには「彼女」という言葉が付いていたのに、なぜか心の中で繰り返された言葉は…


ジレンが俺以外の奴と?


ジレンは誰でもいいの?


ジレンはヤレたらそれで満足?


ジレンにとってやっぱり俺との行為はただの欲を満たすためだけ?


そんな言葉がこだまして。


俺は自分の彼女に手を出し、ジレンに自分の彼女を奪われそうになった現実よりも、ジレンが俺ではない彼女に手を出そうとし、俺じゃない女を抱こうとた事実に腹が立ち、胸が押しつぶされそうになった。


T「んだよ俺…あいつに惚れてんじゃん……」


自分の気持ちに確信を得た俺は立ち上がり、彼女ではなくジレンを探すために家を出て後を追いかける。


どこに行ったかも分からない。


出会ったばかりのジレンの行くあてなんて見当もつかない。


俺はただ…


街の中を夢中で走るしかなかった。


すると見覚えある後ろ姿が見えて思わず俺の足が止まる。


そこにはさっきまで俺の前で涙を流し、震えていたはずの彼女が綺麗なブラウスに着替えて、俺の知らない男に笑顔を向けて楽しそうに車に乗り込んでいた。


え…どういうこと…?


思わずその車に駆け寄ると彼女は俺に気づき顔色が変わった。


運転席にいる男は俺の顔を見て不審そうな顔をしている。


俺が車の窓を叩くと彼女は下を向いたままゆっくりと扉を開けて車から降りてきた。


T「誰…?あの男の人…」


「え…あぁうん…お兄ちゃん。服が破れてたから迎えに来てもらったの…」


T「一人っ子って言ってなかった?」


「親戚のお兄ちゃん……」


彼女がそう言うと男が車から降りてきた。


*「誰?」


「うん。ただの友達…すぐ戻るから車で待ってて…」


*「分かった。」


男はそう言って車に乗り込む。


T「俺はただの友達?あの人はお兄さんじゃないよね?」


「…だったら…なに…」


T「…なにって…ジレンになにしたの?」


俺の口からジレンの名前が出ると彼女は弱気な顔から突然…苛立つ顔に豹変した。


「それどう意味?私があの子に襲われそうになったのに…私のこと疑ってるの……?」


T「平気で二股して俺のことただの友達だなんて嘘つくような女のこと信じろって方が無理。」


「あっそ……べつに別れたいなら別れてあげる。あんたみたいな使いもんにならない男…一緒にいてもつまんないもし。あんたはただのキープくんなのにそっちも私のことキープして、あんな男と公園でイチャイチャしてキスするなんて頭おかしいんじゃない?ゲイならはじめっからそう言えば良かったじゃない!?ゲイのくせに私を騙してムカついたから少し揶揄っただけ。ホントだるい。じゃね?バイバイ。」


彼女はそう俺に言い残すと車に乗り込み、俺の前から消えていった。


まさか…


俺とジレンの公園での様子を全て彼女は見ていたんだ…


俺は今まで彼女の何を見てきたんだろう…?


俺の知っている彼女とはまるで別人で俺は言葉も見つからない。


正直、こんな女のせいでジレンを傷つけて、ジレンの言葉も聞かずに一方的に責めて殴ってしまったことの後悔に襲われながら、俺は必死になってジレンを探す。


息を切らし探し回ってもジレンの姿はなく、俺はジレンと出会った公園に向かう。


すると、そこには俺が買ってあげたはずのジレンの服が落ちていて、昨日付けてあげたネックレスもそこに落ちていた。


もしかして…ジレン…ウサギに変身したのか?


そう思った俺は草むらや木の影を必死で探した。


誰かとぶつかった拍子に背中のホクロを押されてウサギの姿になってしまったのだろうか?


それとも何か事件にでも巻き込まれた?


公園のあらゆる所を探しても見つからず、俺はため息を落としベンチに座る。


何時だろ…?


何気なくスマホを見てみると時間はもう既に夜の9時になっていた。


ジレンどこに行ったんだろう…?


そんなことを月を見上げながら考えているとニチカさんから電話がかかって来た。


T「もしもし?どうしたんですか?」


N「今、SNSですごい騒ぎになってるけど!!ジレン大丈夫なのか!!」


T「え?ジレンが?」


N「今すぐSNS見ろ!!」


ニチカさんはそう言って電話を切り、俺は焦りながらSNSを開くと沢山の動画が出てきた。


その動画にはジレンが複数の男に絡まれていて、イラついた顔をしたジレンもその男達に殴りかかっていた。


その動画を見ているとジレンは複数の男達に羽交い締めにされ、殴り蹴られていた。


思わず目を背けたくなるその動画…


画面は荒々しく揺れると、1人の男が意識が朦朧としフラついて跪いたジレンの背中を思いっきり蹴り飛ばした。


…や…やばい…


俺の心臓が早く動きだし、焦りながら動画を食い入るように見つめると、ジレンは震えながらウサギの姿になり、それに驚いた男たちは慌てて逃げていき、動画は途切れた。


動画の撮影主はたまたま通りかかっただけのようで、ジレンのその変身を偶然、捉えてしまったばかりにSNSに投稿したようだ。


ヤバイ…


騒ぎがこれ以上大きくなる前にジレンを見つけないと…


確か、ジレンはウサギの姿になると白い毛並みに足には2つの黒い模様があった。


大丈夫…見つかる。


すぐに見つかるよ…


そう自分で自分を言い聞かし公園内の至る所を探し回ったが…


ジレンらしき白ウサギは…


見つからなかった。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る