第15話


どうしよう…まさか誰かにもう拾われてしまった?


それとも事故に巻き込まれた?


嫌なことばかりが頭の中に浮かび、不安に押しつぶされそうになりながら涙を堪えジレンを探していると…


カサカサ…


草むらの奥から音が聞こえて俺は慌てて植木を掻き分け覗く。


T「ジレン!!ジレン!!!!」


するとそこにいたのは…


俺を見て威嚇する白ウサギ姿のジレンだった。


T「ジレンごめん…」


俺がそう言って手を伸ばすとジレンは俺の指に噛みつきさらに威嚇する。


ジレン、俺のこと怒ってるんだ…


そりゃそうか…


話も聞かず一方的に責めてジレンのこと殴ったりしたんだもん。


最低な飼い主だよね。


嫌われても仕方ないか。


T「ジレンごめんね…ホントごめん……俺が悪かったよ…ジレンのこと叩いたりして…。でもね…これだけは信じて欲しい…俺があんなに怒ったのは…ジレンのことが好きだからなんだ…彼女の事よりもジレンが誰かに触れたのかもって思ったらもう耐えられなくて…苦しくて悲しくて…だから怒ったんだ…ジレンのこと…気付いたら大好きになっちゃってたから…だから許して俺のとこに帰ってきて?お願い…俺のそばにずっといてよ…ジレン………」


俺の言葉を理解してるのか、してないのか分からないウサギ姿のジレンに必死でそう言っても、ジレンは俺の顔を見ては威嚇をし触れさせてくれない。


その現実があまりにも悲しく辛く、自分がジレンに取ってしまった態度を激しく後悔し、俺はしゃがんだまま顔を膝に伏せ涙を流した。


泣けば泣くほどたった3日でジレンのこと好きになってたんだなって実感して胸が苦しくて寂しかった。


すると後ろから声が聞こえた…


「大好きって言いながらそれが俺かどうかも分かんなぇのかよ。このバカ飼い主。」


大好きな声と共に俺は優しく後ろから抱きしめらるように引き寄せられ、ゆっくりと顔をあげるとそこにはジレンが少し怒った顔をして俺を見つめていた。


T「え…えぇ!!!?な…なんで…!?どういうこと!?この子は誰!!!?」


涙をポロポロとこぼしながら目の前にいる白ウサギとジレンを交互に見つめて俺がパニックになっていると、ジレンは俺を解放しニコッとそのウサギに優しく微笑み掛けて手を伸ばす。


すると、そのウサギは俺には威嚇していたのに不思議とジレンの指の匂いを嗅ぐとピョンピョンと跳ねて近づいて懐き、ジレンはそのウサギを抱き上げた。


J「このウサギの模様は左足にあるだろ?俺のは右足!!ほんと…自分のペットと他所のウサギの見分け付かないなんて飼い主失格だからな。」


ジレンは俺に冷たくそう言い放つとウサギをあやしながら頭を撫でている。


ふと、ジレンの後ろを見るとそこには1人のおじさんが立っていた。


J「博士〜ありがと助かった。」


「動画見て飛んできて良かったな。ジレン…一度ちゃんと回復治療を受けてみないか?」


J「うーん。でも副作用あるじゃん?急にウサギにでもなったら困るしな〜まぁ考えとくわ。」


「少しの我慢で済むんだがな…気持ちが決まったら連絡しろ。」


J「うん。」


そして、ジレンに博士と呼ばれていたおじさんは俺に軽く頭を下げて歩いて帰って行った。


T「あの人…誰…?」


J「俺とこの子の見分けも付かない飼い主には教えてあげなーい。」


ジレンはベーッと舌をだして意地悪な顔をして俺に背中を向ける。


すると…


「ぴょん太郎!ぴょん太郎!」


小学生くらいの女の子が泣きそうな顔をして、母親と一緒にジレンが抱っこしているウサギの元に走ってきた。


J「このウサギ…キミの家の子?」


「うん…ぴょん太郎……っていうの…」


J「もう目離したらダメだよ?きっとぴょん太郎もキミがいなくて寂しかっただろうから。」


「ごめんなさい…お兄ちゃんありがとう…」


女の子はウサギをギュッと抱きしめ涙を流しながら帰って行った。


そんな様子を見届けているとジレンはチラッと冷たい視線を俺に向けた。


T「ごめん……話しも聞かず叩いたりして……」


J「ねぇ…ひとつ聞いていい?」


T「なに?」


J「あの女相手で勃った?」


公園のど真ん中で平然とそんな事を聞いてくるジレンに俺は戸惑い焦り目が泳ぎまくる。


T「こ…こんなとこでなに聞いてんだよ!とりあえず家に帰ろ!」


J「それ聞くまで帰らねぇから。ねぇ、本当にあの女とヤって気持ちよかった?俺とあの女…どっちが気持ち良かった?」


俺に詰め寄り畳み掛けるように問い詰めるジレンは眉間にシワを寄せて口を尖らせている。


T「そ…それは……」


J「それは?」


T「ジ…ジレン……」


絞り出すように愛しくなってしまったその名前を口にするとジレンは小さなため息を落として言った。


J「だろな…ほら帰るよ。」


そして、ジレンは俺の手を握り歩きだした。

不思議と数時間しか離れてなかったのにも関わらずそのジレンの手が愛しくてホッとしたらまた、自然と涙が溢れた。



つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る