第3話

「…お…お座り!!」


俺のその声を聞いたジレンの動きはピタっと止まり不満気に頬を舌でグリグリと押す。


「お座りって言ってんの!!飼い主の言うことが聞けない!?お座り!!」


するとジレンは仕方なさそうに全裸のまま、ちょこんと正座をした。


「お手!」


俺がそう言って手を出せば顔を横に向けたまま、ちょんっと俺の手のひらに手を乗せるジレン。


そして、ジレンが正座した事により俺はジレンの背中が目に入り、思わず息を飲みその背中にそっと手を伸ばす。


ジレンは驚いたのかビクッと身体を震わせ俺を怯えた目で見つめた。


J「あなたも…俺のこと叩くの?」


その言葉に俺の心臓はドキッ跳ねた。


その言葉の意味は聞かなくても、背中のぷっくりと膨らんだホクロの周りにある傷やアザをみれば薄々、察しがつく。


この動物好きの俺が叩く?


ジレンの目には俺がそんな人間に写ってしまうほど人間に対して信用をなくしてしまっているのだろうか?


そんなこと…俺が絶対にするはずないのに…


「俺は叩いたりなんかしないよ。背中…あとで手当てしてあげるね?」


ジレンの背中にあるあざや切り傷をそっと撫でると、胸が押し潰されそうになった俺はその背中から目を逸らした。


J「飼い主さん…名前なんていうの?」


「俺?タケルだよ。」


ジレンの傷が滲みないようにお湯をぬるめの温度に調整していると、ジレンは正座をしたまま俺の名を呼ぶ。


J「タケルはさ?」


T「タケルさんね?」


J「タケルは〜」


T「だからタケルさんだってば!!」


そう言った俺の言葉に筋肉ウサギは拗ねながら唇を尖らせている。


J「じゃ、間をとってタケルくん!タケルくんはなんで俺を拾ったの……?」


生意気な顔とは裏腹に不安気に揺れるジレンの瞳はあの白いモフモフのウサギと同じ目をしていて…


あぁ…この子は本当にあのウサギなんだと俺はその時やっとこの状況を飲み込めた。


それと同時に俺には複雑な感情が生まれ、生活のためとは言え自分の身体を犠牲にして生きてきたなんて何て不憫な子なんだろうとも思った。


その感情はただの同情なのかもしれない…


でも、使い物にならないという理由だけで前の飼い主に捨てられ、虐待まで受けていたのだと思うと俺はこの子を放ってはおけなかったんだ。


T「こんな寒い中あのまま放って置いたら死んじゃうかもって思ったからだよ…ウサギは1人だと寂しくて死んじゃうから……」


俺がそう言うとジレンは突然、プルプルと震えながらポロっと涙を流し、俺の腕の中に飛び込んできた。


思わず俺はそんなジレンを受け止めたものの、小さなウサギなら俺の腕の中に収まっただろう…


しかし、この大きな逞ましい体のウサギはどんなに手を伸ばしても俺の腕の中からはみ出てしまう。


だから俺はジレンをしっかりと抱きしめられるように腕を精一杯伸ばしてジレンを包み込む。


J「捨てないで…もう…1人はやだよ……」


潤んだ瞳でそんな可愛くて切ないことを言われてしまえば俺の良心が疼き、仕方ないな面倒みてやるかと思ってしまう俺はきっと世間でいうお人好し。


でも、なぜかこの寂しそうで不安気な彼を捨てて1人ぼっちにするなんてなんて俺には出来そうもなかった。


T「分かったよ…大丈夫、捨てたりしないから。」


俺がそう言ってジレンの背中をトントンとあやすように撫でると…


突然、ヒヤッとする独特な快感に襲われた俺は思わず自分の胸元に視線を落とす。


すると、さっきまで悲壮感溢れる顔でピーピー泣いていたジレンの表情は一変、ニヤっとイタズラに笑い俺の胸元の突起を咥え悪いイタズラをする。


T「ひぃぃぃぃ!!ちょ…!!ちょっと優しくしたらそうやってすぐ調子に乗る!!もうやめろ!!」


全身がゾワゾワと身震いし、ジレンから離れようとジレンを押すも、馬鹿力なのかビクッとも動かず、俺の背中に回した手を離すことなく、さらに舐め続ける。


T「んやぁぁやめろってば!!待て!!お座り!!伏せ!!」


思い当たることを全て言ってもジレンは俺の言うことなんて1つも聞かない。


そんな事をされてしまえば、それは男という生き物の自然現象で色んなモノが反応してしまう。


T「ホントにやめなさい!こら!!!!俺!!恋人いるんだから!!!!」


そう叫んだものの時すでに遅し…


ジレンの思い通りに事が進んでしまっているようで、俺はただ焦るが上手く体に力が入らない。


T「頼むよ…もう…本当にダメなんだって…!!俺には恋人が…!!」


ジレンに弄り倒され思うように力が入らない俺が、涙まじりにそう叫ぶとジレンの動きはピタッと止まり俺を見上げる。


T「もう気が済んだろ…離せってば…俺…恋人いるって言ってんじゃんか…」


J「んなの…知ったこっちゃねぇ…」


そう言ったジレンの目は野性味が溢れていて、ジレンが俺の身体から離れることはなく、俺の必死の抵抗も虚しく…


恥ずかしながら、俺は飼いウサギに見事にぺろりと最後まで食べられてしまった。


つづく


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