第8話
焦る指先でオートロックを開けリビングに入ると…
T「な…なんだこれ…」
部屋中が服やらティッシュやらクッションのワタやらで荒らされ放題になっていた。
まるで空き巣が入ったかのような部屋の中に、微かな恐怖を覚えながら恐る恐る中へ入るとジレンはカーテンにくるまって部屋の隅っこで丸まって小さくなっていた。
まさか…これ…ジレンがやったのか…?
T「ジレン…?」
俺がそう声を掛けるとジレンは俺から視線を逸らし背中を向ける。
ゆっくりと俺はジレンに近づきしゃがみ込む。
T「もしかしてこれ…ジレンがやったのか?」
俺がジレンの目を見るように目線をむけても、絶対に目を合わせようとしないジレンに俺は腹が立ち、ジレンがくるまるカーテンの裾を荒っぽく持ち上げた。
T「これジレンがやったのかって聞いてんだろ!!どうなのか答えろ!!」
俺がそう怒りと共に叫ぶと、ジレンは口を尖らせて俺をチラッと見つめる。
J「した…俺がした…」
T「はぁ…なんで?なんでこんなことするんだよ!?良い子にしててって言ったじゃん!!なんで言うこと聞かないんだよ!!」
俺がそう言うとジレンは立ち上がり、俺をよけるようにして歩いていくので俺はジレンの腕を掴んだ。
T「こら!!逃げるな!!なんでこんな事したのか聞いてんだろ!!」
俺の言葉を聞いたジレンは俺に背中を向けたままボソっと呟く。
J「寂しいから。それだけじゃダメ?それだけじゃ暴れる理由にならない?」
その答えに俺は思わず言葉を失った。
しかしよく考えてみれば昔、子供の時に初めて飼った犬も来たばかりのとき寂しくて一人でお留守番ができなくてよく家の中が荒らされていた。
今の部屋の状況はあの時と全く同じ。
俺はジレンの腕から手を離すと、ジレンはまた不安そうな目をして振り返り俺を見つめる。
T「片付け…手伝えよ。俺一人じゃせっかくのお休み終わっちゃうだろ。早く片付けて一緒にお散歩行こう…」
俺の言葉を聞いたジレンはもっと怒られると思っていたのか、口をポカーンと開けてキョトンとした顔をしている。
ジレンが立ち尽くす中、俺は一人せっせと片付けているとジレンも申し訳なさそうに一緒に部屋を片付け始めた。
T「よーし終わった!!ジレンもお疲れ様!!」
なんだかんだ言いながら、たまにしか掃除しないから大掃除ができてちょうど良かった。
綺麗になった部屋を眺めて俺はジレンの頭をワシャワシャと撫でてやると、ジレンは気持ち良さそうに目を閉じて笑っている。
T「本当にやる事…動物と同じだね…本能で生きてるって感じ。」
俺の言葉が勘に触ったのかご機嫌だったその顔がまた不機嫌になっていく。
T「いや、そういう意味じゃなくて!!」
J「この身体になってからなんだ…人間の姿の時でも寂しくて耐えられなくなるとあぁいう事しちゃうし…ヤリたいって思ったら我慢できないし…俺の飼い主が他の人の匂いつけて帰ってきたらめちゃくちゃイライラする。」
ジレンはそう言って、さっき彼女のおデコにキスをした俺の唇にキスを落とし、俺の顔を覗き込むと彼女の手を握っていた俺の指を舐めた。
J「俺…匂いに敏感だから俺以外の人に触れたらすぐ分かるからね。誰の匂いも付けて帰ってこないでよ…俺だけの飼い主なんだから…」
そんな困ったことを言うジレンは甘えた目をして俺を抱きしめて首筋に顔を埋める。
T「彼女と別れろ…って事?」
J「あの女が好きなら俺よりあの女の事取ればいいだけじゃん…俺のことを捨てて…」
ジレンは胸の奥が締め付けられるようなことを平気で俺に言う。
その言葉は俺の心よりも自分の心を傷つける言葉なのに…
だから俺はそんな事を言う事でしか自分の居場所を守れないジレンをギュッと抱きしめ直した。
T「お散歩…行くんだろ?ほら、早く着替えてお散歩行こう。」
俺はそう言ってジレンのご機嫌を取りながら、ジレンに似合いそうな服を選んであげた。
しかし…
J「黒の服がいい!!」
せめて見た目だけでもあの白ウサギに近づけようとした俺が選んだ白のモコモコセーターが気に入らない様子で、ジレンはすぐに脱ぎ捨てる。
T「なんで?ほら、めちゃくちゃ似合ってて可愛いよ?これでお出かけしよ?」
そう言ってまた、バンザイをさせてジレンにそのセーターを着せるがジレンはガシガシとそのセーターの上から体を掻き毟る。
J「だってこのセーターチクチクして痒い。黒のパーカーがいい。」
ジレンはそう言ってクローゼットの横にあった俺のパジャマのパーカーを手に取り、勢いよくセーターを脱ぎ捨てるとそのパーカーに袖を通しフードを被る。
T「白ウサギだったのに…これじゃ黒ウサギだね…?」
俺がフードの上からジレンの頭を撫でると、ジレンはプッと頬を膨らませて俺を上目遣いで見つめる。
J「人間に変身して残念?」
T「え?」
J「タケルくん見てたら俺が白ウサギのままの方が良かったのかなって思って……背中ポチってする?」
ジレンはそう言って俺に背中を向け、寂しそうに俺の目を見つめた。
俺は一瞬、ジレンのその言葉にドキっとした。
確かに白ウサギだったジレンとの生活を楽しみにしていたから…
しかし、この胸の高鳴りは気まずさではなくジレンのこの潤んだ目を見つめれば見つめるほど早くなり愛おしい…そんな気持ちが溢れ出していた。
T「何言ってんだよ?ほら、お散歩行くぞ!!」
俺は薄々自分の気持ちに気付き始めているのにそれを誤魔化すように目を逸らし、ジレンの言葉に明確な答えを出すことなく…ジレンと公園へ向かった。
つづく
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