第17話

次の日


心地よい気怠さで俺は目覚め、ベッドの上に転がったまま横に眠るジレンを見つめる。


時計をチラッと確認すればまだ、仕事まで少し時間があった。


ジレンに朝ごはんでもと思った俺がゆっくりと起き上がると、寝ていたはずのジレンに手首をグイッと引かれまた、ジレンの胸の上に横になる。


J「勝手に俺から離れないで。」


T「朝ごはん作ってあげようと思っただけなのに……」


そう言うとジレンは俺を抱きしめたまま腹筋を使って「よいしょ…」と言いながら起き上がりベッドの上に座る。


J「タケルくん…俺さ…やっぱ回復治療受けてみようと思う。」


ジレンは突然そう言うが、俺にはその回復治療というものが何なのかイマイチ分からない。


確か昨日、ジレンを助けたおじさんもジレンに回復治療を勧めていた。


T「ウサギにならない為の回復治療?」


J「うん………」


そう返事したジレンの顔は今までに見たことのないような深刻な顔をしている。


俺はなぜかその横顔をみて不安になり、ジレンの手をギュッと握るとジレンはハッとしいつもの笑顔に戻って俺の唇に可愛いキスをチュウっと落とす。


J「さぁ!!朝ごはん食べてバイト行きますか!!」


T「え…ちょっと待って!!ちゃんと話し……」


J「大丈夫だから。ほら、行くよ。」


ジレンは俺の言葉を遮るようにそう言うとキッチンの方に向かった。


そのあとも俺は朝ごはんを食べる時や、バイトの出勤の時にそれとなく聞いて見ても、ジレンは話をはぐらかし俺の話を聞こうとはしなかった。


不思議に思いながらもあまり問い詰めるのもよくないのかなと思い、俺はペットショップを訪れたお客様の接客をこなしていく。


ジレンも無邪気な笑顔でお客様をお見送りをして店内に戻るとたまたま、店先に出てきたニチカさんと何やら話している。


N「まさか本当にウサギだったとはね?」


J「えへへばれちゃいましたね?実は…あの…」


俺は接客しながらニチカさんとジレンの会話に耳を傾け微かに聞こえた言葉…


J「……明日……お休みください……」


え…ジレンが俺に何も言わずに休みを取るの?


まかさ、朝言っていた回復治療をするため?


心配になった俺はお客様の接客が終わると慌ててジレンの元に飛んでいく。


T「明日休むのか?そんなの俺聞いてないんだけど。」


J「ちょっと行くところがあるだけ。家出じゃないから。」


T「もしかして本当に回復治療するの?」


恐る恐るそう聞くとジレンは俺の手をギュッと握った。


J「俺の飼い主がそんな顔するなって。なんなら首輪付ける?」


ジレンはそう言ってふざけるとまた、仕事に戻り…


ジレンは回復治療について詳しく教えてくれる事はなかった。


次の日


朝目覚めるともう、既にジレンはいなくてベッドがやたらと広く感じた。


ひとり寂しく朝ごはんを食べてバイトに向かうと、何故かニチカさんがシャッターの降りたままの店の前で立っている。


T「おはようございます。何やってるんですか?」


N「実はシャッター壊れちゃって開かないんだよ。タケルに電話したけど繋がらなかったから。」


そう言われて俺はいつもスマホを入れているポケットを触るとそこには何もなく、スマホを家に忘れている事を今、ようやく気づいた。


T「家に忘れたっぽいです。」


N「やっぱりwさっき、業者に頼んだら数日は掛かるって言われてね。だから、タケルには申し訳ないけどシャッターも直りそうにないし、しばらく休みってジレンにも伝言お願いできる?」


ニチカさんは困り果てた顔をしてため息を落としながらそう言った。


T「分かりました…でも動物たちのお世話だけでもしましょうか?」


N「大丈夫大丈夫。それは俺ひとりでなんとかするから。」


そう言われた俺は仕方なくまた、来た道を戻りゆっくりと歩いていく。


今日はジレンもお出掛けでいないし、なにしよう。


突然、仕事が休みとなった俺はする事がなくてただフラフラと街を歩く。


するとたまたまた目についたのはスマホショップ。


そうだ…首輪の代わりにジレンにスマホを持たせよう。


スマホを持ってないジレンだから、お出掛けしたら連絡が取れなくて不安になるんだ。


そう思った俺はジレンのためにスマホを購入し、ニヤニヤしながら袋をぶら下げて店から出てくる。


早くジレン帰って来ないかな〜絶対喜ぶ。


なんてそう思っている俺が1番喜んでいて頬が緩んだ。


家に帰ると部屋の掃除と洗濯をしてジレンが着そうな黒い服たちをクローゼットから引っ張り出してきた。


夜には帰ってくるよね?


そう思った俺はジレンのために夜ご飯の準備を鼻歌まじりでする。


よーし!出来た!あとはジレンの帰りを待つだけ。


夕方には夜ご飯の支度を終えて、俺はチラチラと雪が舞うベランダを覗いてみてはジレンの帰り待ってみたり、ジレンのスマホの設定などをして時間を過ごしていた。


チラッと時計を見れば、いつの間にか時間は過ぎていて時計の針は9時を示している。


遅いな…夜ご飯食べてくるのかな…?


せっかく作ったのに…夜ご飯いらないならいらないって言ってよ。


ってスマホがないから連絡出来ないのか。


なんてまるで新妻みたいな事を思いながら、俺は少し不貞腐れて頬を膨らませていた。


つづく

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