第22話

数ヶ月後


街の雪が溶け始め、小さな紫色の花が咲き始めたいつもの散歩コースでは春の匂いが俺たちを包み込む。


ジレンの副作用も少しずつなくなり、ウサギである印が減っていき内心、少し寂しくもあった。


しかしその分、ジレンは男らしくなっていきいつの間にかお散歩でも俺と手を繋いで、男の俺を守るようにして歩いてくれるほどに成長していた。


そんなジレンが俺にしてみればまた、可愛くて頼り甲斐が出て、その大きな背中を微笑ましく見つめていた。


ウサギに変身することがなくなった今でも、お互いの耳にはGPSの入ったお揃いのピアスを付けスマホで管理しているのはこの嫉妬ウサギからの提案。


今では1人でお留守番も店番も任せられるようになったジレンは、俺が友人と出かけるたびにそのGPSで俺をバイト中でも見張っているとニチカさんが笑っていた。


そんなジレンと仲良く手を繋いでお店に出勤すると、店の中でニチカさんがデレっとした顔をして小さな箱を覗いている。


T「おはようございます。ニチカさんその箱なんですか?」


N「おはよう。実はさ?そこの公園で捨てられてたみたいなんだよ。」


J「捨てられた?」


俺とジレンはその言葉に目を合わせ、その箱の中を覗くとそこには真っ白な目つきの悪い猫が俺たちを睨みニャーとひと言鳴いた。


そして、その猫の首輪には「ソルト」と書かれてあった。


N「この子…ソルトっていうみたいなんだけど…めちゃくちゃ可愛いよね?」


ニチカさんはそう言ってデレデレな顔をしているが…


そこにいる白猫は決して可愛いとは言えず、どちからと言えば愛想はなく目つきも悪く仏頂面で撫でようと手でも出せばあの鋭い爪で引っ掻かれそうな雰囲気だった。


J「飼うことにしたんですか?」


N「うん。可哀想だからウチで面倒みてあげようと思ってね。なんか可愛いじゃん?俺のこと好きみたいだし。ん?なんだこのオデキは…」


ニチカさんは嬉しそうにそう言いながらその猫を抱き上げ、奥にあるトリミングルームへと向かう。


そして、2人っきりとなったジレンと俺は自分達が出会ったあの日のことを思い出す。


T「なんかさ…ニチカさんとあの白猫ちゃん見てたらジレンと出会った日のこと思い出しちゃった。可愛いかったな…真っ白なふわふわのウサギちゃん。」


J「人間の俺よりウサギの俺の方が良かった?」


ジレンは店内で2人っきりなのをいい事に俺のお尻をモミモミとする変態ウサギ。


T「そりゃ、ウサギの時はこうやってお尻触ったり変態なこと言ったりしないで可愛かったよな。」


J「でも俺がウサギだとあんな気持ちいいこと出来ないよ?」


ジレンはそう言いながら俺の首筋にチュウした。


T「っかささっきの猫にもさジレンと同じようなホクロあったよ。もし、あの目つきの悪い白猫ちゃんがさ?ジレンみたいにホクロをぷにぷに押したら人間になるとかだったら面白いよね?」


J「えへへwさすがにそれはありえ……」


N「ギャぁぁぁあぁぁあ!!なに!!!?」


俺たちの楽しい会話はニチカさんの叫び声でかき消され、俺たちの顔からは一瞬にして笑顔が消え、目を見合わせるとそのままダッシュで奥のトリミングルームに飛んで行った。


そして、2人で勢いよくトリミングルームを覗くと…


J.T「に…人間になってる!!!!!!」


俺がさっき冗談で言った通り、そこには人間の男性の姿になった白猫さんが真っ白な身体をして立っていた。


そして、真っ赤な顔をしたニチカさんはそっと白猫さんにバスタオルを肩から掛けてあげていて、俺とジレンはそんな2人をじっと見つめると白猫さんがボソッと言った。


「うるさい。」


N「ソ…ソルトも…まさか…人体実験…したの?」


ジレンのことを全て知っているニチカさんは驚きながらも落ち着いてそう問いかける。


S「まぁ……そんなとこ。俺の裸見たいくらいでそんな顔真っ赤にならなくても。ついてるモン同じでしょ?…で?猫の姿から人間にしてくれたってことは…俺の飼い主になってくれんの?」


白猫さん…いやソルトが濡れ髪を揺らしながらゆっくりとニチカさんに近づき、ニチカさんはゴクリと喉を鳴らす。


そんな2人の姿から目が離せない俺とジレンはなぜか気づけばジレンが後ろから俺をギュッと抱きしめていた。


N「いや…キ…キミは……ペットにはしないよ。」


ニチカさんの言葉に俺を抱きしめるジレンの力は強くなりさらにギュッと抱きしめ、俺はそんなジレンを落ち着かせるようにトントンとジレンの腕を撫でる。


ジレンはウサギだった頃を思い出し、俺に捨てられるかもと不安に思っていたあの頃を思い出したのか、俺の首筋に甘えて顔を埋めた。


すると、目の前にいたソルトはムスッとした顔をして言った。


S「なら服だけでも貸してもらえます?さすがに裸で出て行けって言われても無理だから。あ…それともまた、背中のホクロ押して……」


そう言ってニチカさんに背中を向けるとニチカさんはそっと包み込むようにソルトを抱きしめた。


N「ペットじゃなくてさ?恋人にならない?俺…ソルトに一目惚れしちゃったみたい…えへへ……」


照れ笑いをしたニチカさんの言葉を聞いてソルトは驚きながらもニチカさんのその手をギュッと握って満更でもない顔をしてハニカム。


そんな2人の様子をみて俺がホッとしていると、ジレンは自分のことのように喜んだ顔をして甘えて俺の頬にチュッとキスをした。


そして、照れくさそうな顔をしながらソルトを抱きしめるニチカさんとニヤニヤしながらも素直に甘えないソルト。


こうして俺たちの大切な仲間が1人、今日からこの店に加わった。


そして


さらに数ヶ月後


ニチカさんとソルトのツンデレな夫婦漫才と俺とジレンのイケメンコンビでこの店はインスタで有名となり…


このペットショップが全国で有名店となったのは…


言うまでもない。


おしまい

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【BL】僕のペットは白ウサギ? 樺純 @kasumi_sou_happiness

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