第八話 裏ボス? ぎゃるサキュバスが現れた!
声の方に振り向くと、日に焼けた褐色肌にプラチナブロンドの長い髪を揺らし、黒い巻き角を生やし、アクセサリーを全身に付けたギャルっぽい子が立っていた。
なんかとってもギャルっぽいし、なんでお腹やお尻が見えそうなJKの制服風の衣装と網タイツなんだろうか?
刺激的な服装デザインすぎないか? レーティングに引っかかるだろ、ソレ。
それにしても、受付嬢に増してリアルなキャラの作り込みしてある。
大きな胸とか、むっちりとした身体付きは、こっちの性癖を刺激されてしまうんだが。
ギャルっぽい子は、鼻を片手で摘まみながら、臭いを追い払おうと手を振る。
「へぇ、おじさんが魔王を裏切って大神バレンティヌスの下僕に成り下がった『
ほぅ、今、俺が倒したのは『
隠し部屋にネームドの魔物とくれば……。
初期武器こそ失ったが、これは大当たりなのでは。
「それはすまなかった。でも、ローダンって巨大トカゲは倒したぞ」
「おじさんさぁ、自分の格好見てみぃ。くっさい血にまみれてるじゃん。マジあり得ないんだけどぉ」
鼻を摘まみ、眉間に皺を寄せたJK風の制服を着たギャルが、俺の目の前で指をパチンと鳴らす。
すると、俺の身体に付いていた魔物の血が綺麗さっぱりと消え、血の臭いまでも消えた。
「これは魔法か?」
「
魔法ってスゲー便利だな……。
でも、今の俺じゃあそもそもMPもないし、覚えられる魔法もないからない物ねだりか。
その欠点を補って余りある戦闘力があるから、我慢するしかない。
「魔法をかけてくれて感謝する」
「別に感謝はいらないっしょ。それより、あーしの封印を解いたのはおじさん?」
鼻を摘まむのを止めたギャルが、引き込まれそうなほど綺麗なアイスブルーの瞳で睨みつけてくる。
「封印? なんの話だ?」
「大神バレンティヌスがあーしを罠に嵌めて、この地下宮殿に封じた封印のこと。おじさん、もしかしてしらばっくれてる感じぃ?」
「いや、何の話をしてるのかさっぱり分からないが?」
「ええぇ? この地下宮殿に来るには、地下墓地の奥にある封じられた扉を開けないと来られないはずっしょ。しかも、大神バレンティヌスが認めたやつしか入れないようになってるはずなんだけどなぁ」
「そうなのか? 俺はただ金目の物がないかと思って、扉を開けて進んできただけだが」
「嘘だぁ。大神バレンティヌスの封印は、認められた者しか破れないはずなんだけどなぁ。実際、おじさんは扉の封印を破ってここにいるわけだしぃ」
「いや、普通に押したら開いたぞ。あの扉」
ギャルの子は、どうやら俺を敵対視してる気がするが……。
それにしてもAIの会話精度もすげーじゃん。
ちゃんとキャラを維持して受け答えしてる。
普通に人と話してるみたいだ。
チュートリアルの受付嬢みたいな、抑揚ない喋りとは別物だな。
「そんなわけないっしょ! おじさん、大神バレンティヌスが送り込んだ眷族だよね! マジ、あのクサレ爺、めんどくさすぎぃ。もういい、この
吸精姫クローデットと名乗ったギャルは、怒りの表情を浮かべると、ひりひりするような威圧感を放つ。
さっきの巨大トカゲよりもさらに強そうな威圧感だ。
もしかして、ここのボスはこっちだったとかいうオチだったか。
クローデットが、アイスブルーの瞳でこちらを見据えたかと思うと、手のひらを突き出し、巨大な炎弾を撃ちだした。
魔法攻撃っ! けど、ジャストガードで無効化できるっ!
銅鑼の音が強弱をつけて響く。
相手の攻撃が強いのか、強弱の波が激しく入れ替わってジャストガードを難しくさせていた。
耳を澄まし、迫る炎弾の軌道を見極める。
「魔法攻撃は、俺には効かんさっ!」
タイミングぴったりで、拳を交差し、身体をガードするように構えた。
『JUST GUARD』と浮かんだ拳が、クローデットの放った炎弾を受け止め搔き消す。
ちゃんと【鋼の肉体】スキルが仕事してくれた。
魔法も、ジャストガードすれば、ノーダメだ。
「ふーん。オジサン、やるじゃん。これならどうよっ!」
クローデットが両手を突き上げると、氷の槍が地面から次々に突き立ち、こちらに向かって進んでくる。
魔法の間合いじゃ、こっちが不利だ。
距離を詰めさせてもらう。
ジャストガードを連発し、走ることができるのは、【無尽蔵のスタミナ】の恩恵のおかげだな。
通常じゃ、スタミナ切れで動けなくなるはずだし。
距離を詰めるため駆けながら、拳によるジャストガードを連発し、一気に接近戦の間合いまで近づいた。
おっしゃ成功! 試遊版でやり込んだ成果が出たぜ! 神引きスキルのおかげもあるけどな!
「うっそ、おじさん、もしかして強い感じぃ? そっか、あのクソ爺の眷族だもんねぇ。弱くはないって感じがするっしょ」
「おじさん言うな。俺の名前はノーキンだ。大神バレンティヌスの眷属ではないが、たぶんかなり強いぞ」
「ふーん、この吸精姫クローデットと呼ばれてる、あーしよりも強いってこと?」
「だと思うぞ」
隠し部屋のボスとはいえ、吸精姫クローデットは、スキル構成に恵まれた俺にとって倒せない相手ではないはずだ。
冷静に相手の攻撃をジャストガードするか、パリィして、カウンターアタック決めていくしかねぇ。
「あーし、おじさんにちょー興味が湧いたじゃん。その拳だけであーしに勝てたら、何でも言うこと聞いたげるっ!」
クローデットの身体がブレたかと思うと、吐息が届く距離に詰めてきた。
なんだか、甘く痺れるようないい匂いがするな。
って! 油断なんてしないけどなっ!
鳴り響く重低音が、相手の攻撃意思を伝えてくる。
鋭く尖った爪先が、こちらの首筋を狙っていた。
『PARRY』が浮かび上がった拳で、クローデットの腕を絡めとり、攻撃を逸らす。
「え? うそ、あーしの攻撃が逸らされるなんて! うそっしょ!」
「甘いな。そんなんじゃ、俺の首は落とせないし、勝てないぜ」
俺は体勢を崩したクローデットに向け、『COUNTER ATTACK』と浮かんだ拳を打ち込む。
「ふぁっ! はぐぅ!」
腕を交差して俺の拳を防いだクローデットは、そのまま自らの居室の壁に打ち付けられた。
パラパラと崩れた石が降り、煙の立ち昇った中からクローデットが制服に付いた埃を払って姿を現す。
「けほっ、けほっ。おじさん、すっごい強いじゃん。あーし、強い牡を探してたんだぁ。おじささんが相手なら、ちょっと本気出しちゃおうっと」
拳だったとはいえ、威力10倍化してる俺のカウンターアタックを食らってるのにピンピンしてるぞ。
さすが隠しボスってところか。
ふつーのやつじゃ、ダメージも――。
もしかして強制負けイベントってやつかも?
いやでも、きちんとカウンター当てれば勝てそうな気もする。
こちらが身構える間もなく、クローデットの手からいくつもの炎弾と氷の槍が放たれる。
迫る魔法攻撃を拳でジャストガードし、無効化しつつ、再び間合いを詰めた。
「強い、強いじゃん。おじさんと、やってるだけで濡れてくるっしょ! はぁ、はぁ、たまんない! たまんないよぉ! おじさん、もっとやろうよっ! あーし、気持ちよくなってきたっしょ!」
ちょっと、セリフがエロいんだが。
無味乾燥だった受付嬢と違いすぎる。
このゲーム、レーティングは全年齢でR18じゃなかったよな?
魔法攻撃はジャストガードされると諦めたクローデットは、俺に接近戦を挑んでくるが、パリィで逸らし、拳のカウンターアタックを何度も食らうことになった。
「マジつよっ! あーしがこんな苦戦するなんて……初めてっしょ。」
口の端からこぼれた血を、自らの舌で舐めとったクローデットの目が妖しく光る。
「降伏しろ。勝負はついてる。俺にこれ以上殴らせるな」
「まだ、あーしはやれるっての! おじさん、あーしを舐めすぎぃ! はぁ、はぁ、まだやれる。あーしはやれるっしょ!」
もう身体もボロボロで、肩で息をしてるだろうが……。
どう見ても、次の攻撃を受けたら倒れるだろ。
なんで、そこまでして戦うんだよ……。
乱れた息を整え、尖った爪先をこちらに向けたクローデットが、突っ込んでくる。
最初の勢いはないから、余裕でパリィして、とどめのカウンターアタックを決めた。
拳を腹に受けたクローデットが、立てずに地面に崩れ落ちそうになったのを抱きすくめる。
「噓……じゃん。あーしが負けるなんて……。ありえないしぃ……」
「お前は強かったぞ。ただ、それ以上に俺が強かっただけだ」
「あーし、これでも……魔王の……で……最強の――」
何かを言おうとしたが、体力が尽きたクローデットは気絶した。
魔王とか言おうとしてたみたいだが、とりあえずこれで裏ボス撃破ってことだよな?
戦闘が終わると、ウィンドウがポップアップした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます