第十九話 ゴブリン討伐RTAしてみた!



 街の外に出たところで、クローデットが歩くのを止めた。



 【飛翔】は街中で使うと危険だと判断されるそうで、人気のない場所まで移動してきたのだ。



「よしよし、ここら辺なら怒られないよね。おじさん、今から第一の依頼先まで飛んで行くから、よろしくぅ!」



「ああ、よろしく頼む」



「じゃあ、準備するねー」



 クローデットの背中に、大きなコウモリの翼が生えた。



 彼女が指を鳴らすと、俺の身体が淡い光に包まれる。



「おじさんに軽量化の魔法をかけさせてもらったよ。この状態なら、あーしが抱えて運んでいけるしぃ」



 コウモリの翼を羽ばたかせ、浮かび上がったクローデットが、俺の胴体に腕を回し、抱き着いてくる。



 そのまま俺の身体も宙に浮いた。



「浮いた……。でも、この高さじゃ樹にぶつかるぞ。それに向かう先も見えなーー」



「そんなのは~。高く上がれば大丈夫っしょ~!」



 俺を抱えたクローデットが、コウモリの翼を大きく羽ばたかせると、一気に高度を上げた。



 眼下に俺が召喚された異世界が広がっている。



 大きな街や、高い山、大森林や地上に開いた大きな穴まで見えた。



 広大すぎる世界だろ……。



 大空の上から見た世界の広大さに感動していると、飛んでいるクローデットが指を差した。



「おじさん、あそこが第一番目の依頼先だね」



 依頼書に書かれている通り、大きな牧場がいくつもあって、近くに集落みたいな場所があるな。



 間違いなく、ゴブリン討伐の依頼先だろう。



「ああ、そうみたいだ」



「おっけ、おっけ。飛ばすから、おじさんもしっかりあーしの手を掴んでてね」



「ああ、分かった」



 俺は抱えてくれているクローデットの手をギュッと握った。



 速度を上げたクローデットは、牧場の連なる集落へ向かってグングンと加速して飛んでいく。



 本当にこれならすぐに着きそうだ。



 歩いていくとワイズの街から半日はかかる場所だが――



 クローデットの飛行速度だと、目的地がグングン近づいてきて、あっという間についてしまう。



「おじさん、降りるよ!」



「おお!」



 集落の真ん中に降り立つと、何事かと思った人がわらわらと出てくる。



 俺はすぐさまギルドカードと依頼票を取り出し、依頼主を探すことにした。



「冒険者ギルドでゴブリン討伐の依頼を受けた者だ。依頼主はいるか?」



 村長らしき、老齢の男性が手を挙げた。



「おぉ、貴方が受けてくれたのか。実は――」



「細かい話はいい、ゴブリンの巣へ案内してくれ。殲滅してくる」



「え!? あ、はい。では、村の者に案内させます」



 村長が若者に目配せすると、案内のために走り始めた。



「クローデットはそこで休憩しててくれ。俺が殲滅してくる」



「はぁい。フレッ! フレッ! おじさん~♪ ガンバレ、ガンバレ、おじさん~♪」



 応援してくれるクローデット、可愛すぎか……。



 やる気が漲ったぞ。



「おう、任せろ!」



 クローデットと別れた俺は、村の若者の後に続き、牧場の近くの岩場の洞穴の前に来ていた。



「ここです。ここにゴブリンが住みついてしまって。村の者だけでは追い払えず。村長がワイズの街の冒険者ギルドに依頼を出して――」



「分かった。では、行ってくる。殲滅したら、呼ぶから君が見分してくれ」



 討伐に時間をかけるわけにはいかないので、ランタンを灯し、大剣を構えた俺は洞穴に向かって突撃した。



 ゴブリン程度なら1000いようが2000いようが、俺の相手ではない。



 洞穴の中に入ると、こちらに気付いたゴブリンたちがわらわらと出てくる。



「ご苦労さんっと」



 飛び出してきたゴブリンの集団に大剣を突き込むと、首と胴体が離れ、絶命する。



「ギャギャッ!」



「新手か? だが、声を出して襲った時点でお前の負けだ」



 飛びかかってきたゴブリンに拳を当てると、熟したトマトみたいに弾けた。



 続けざまに近くにいるゴブリンを撲殺していく。



 最強の鈍器武器で攻撃されたゴブリンは、誰一人として生き残る者はいなかった。



「ギャギャギャッ!」



 奥からゴブリンの声がしたかと思うと、炎の矢が飛んでくる。



 魔法が使えるゴブリンシャーマンもいたらしいな。



「だが、俺に魔法は効かんよ!」



『JUST GUARD』と浮かんだ大剣によって炎の矢は掻き消され、武器の特殊効果が発揮された。



 魔法を吸収した刀身に炎を宿り、周囲を明るく照らし出すと、魔法の威力分の攻撃力が上がったようだ。



「最後の1匹!」



 奥にいたゴブリンシャーマンに駆け寄ると、炎の刀身で身体を貫く。



「ギャアアアアア!」



 自らの魔法の威力も加算された攻撃を受け、ゴブリンシャーマンは黒焦げになって絶命した。



「よし、完了!」



 俺は急いで村の若者を連れてくると、討伐が完了したことを見せ、冒険者ギルドへの報告品であるゴブリンの牙を剥ぎ取った。



 若者に完了したことを確認してもらい、急いで村に戻ると、村長さんに依頼票への捺印を促す。



「本当に何といってお礼を言えばいいか、よければ村で泊って――」



「すまないが、次の依頼があり急いでいる!」



 捺印をもらった依頼票と印章を受け取ると、クローデットに視線を送る。



「では、さらばだ!」



「おじさん、行くよー!」



 クローデットが羽ばたくと、次の依頼先に向かって飛びあがった。



 ワイズの街からの移動に5分、村の滞在時間は体感で20分。



 このペースだと、夕方までに残り24個分の依頼は達成できない。



 もっと時間を削らないと……。



「クローデット、速度をあげられるか?」



「おっけー! 飛ばすよー! しっかり掴まっててねー!」



 俺たちはゴブリン討伐RTAをすることになり、試行25回で最速クリアタイムは7分34秒。



 ただ、この7分34秒は、ゴブリンの巣が近いという好条件が重なった結果の最速クリアタイムだ。



 なのでクリアタイムは、平均して15分24秒。



 総試行時間7時間越え。



 倒したゴブリンの数348、ゴブリンウォーリアー28、ゴブリンシャーマン9。



 なんとか閉門時刻前にワイズの街に戻り、冒険者ギルドへ駆け込むことができた。



 窓口が閉まる前に駆け込みでエミルのところへ行き、捺印済みの依頼票と印章、そして討伐対象物をカウンターに置く。



「お戻りになられたのですね」



「ああ、確認を頼む。依頼票25枚分、キッチリと討伐してきた」



「承知しました。確認しますので、お待ちください」



 エミルは単眼鏡を付け、依頼票の捺印や印章の確認をしながら、ゴブリンの牙も一つずつ確認をしていく。



 件数が件数のため、確認に多少時間がかかるようだ。



 やがて、確認を終えたエミルが単眼鏡を外すと、依頼票に次々に報告完了の印章を押していく。



「お待たせしました。ゴブリン討伐25件。全て問題なく完了いたしました。ゴブリンウォーリアーとゴブリンシャーマンの討伐も確認できましたので、既定の追加報酬も加算させてもらいます」



 エミルがそう言うと、革袋に入った報奨金を差し出してくる。



「総額27000レギルとなります」



 意外と稼げたな。



 塵も積もれば山となるって感じか。



「ああ、ありがとな。エミルの地図がとても役に立った。これからもよろしく頼む」



「いえ、あれは大量受注された方へのサービスなだけですのでお気になさらず」



 感情のない言葉であるが、俺は見逃してないぞ。



 こころもち、目尻が下がってて、ちょっと嬉しいなとか思ってるんだろう。



「何か、私の顔についておりますか?」



「いや、なんでもないさ。また、明日もよろしく頼む」



「明日は、お休みになっておりますので、別の受付嬢にご依頼をお願いします。では、窓口業務も終了時間ですので、失礼いたします」



 エミルが窓口を閉め、奥の部屋に消えていった。



 まぁ、悪い子じゃないし、仕事はしっかりする子だしな。



 お休みの日以外は、エミルのところに依頼票を持っていくことにしよう。



「おじさん、あーし、頑張ったよぉ。今日はいっぱい飛んで疲れた~」



「ああ、今日中に依頼が完遂できたのは、クローデットのおかげだ。ご苦労さん」



「報酬はちゅーがいいなぁ。ちゅーが。おじさんの濃厚なちゅーがいい」



 冒険者ギルドに併設された酒場で飲んでいる冒険者たちから、刺すような視線がいくつも飛んでくる。



「クローデット、宿に戻るぞ」



「はぁい。宿でおじさんとちゅ~ができ―――むふぅ」



 俺はクローデットの口に手を当てると、そのまま冒険者ギルドを出て、『囁く小悪魔亭』に戻ることにした。

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