第十八話 無表情な受付嬢は仕事ができる!

「ノーキンさん、おはようございます。昨日のご依頼は達成できましたでしょうか?」



 やはり目の前の受付嬢は、俺のことを知ってるらしい。



 それと、抑揚がない喋り方はチュートリアルのNPCだからと思っていたが、どうやらそれは俺の間違いだったようだ。



 なぜなら、今もチュートリアルの時と同じ抑揚がない喋りをしてるからだ。



 素でこういう喋り方の子だった。



 受付嬢の子が俺のことを覚えているとなると、ログイン時点でこの世界に転移させられてた可能性が高いようだ。



「地下墓地のゴブリン討伐だったな。それは達成してる。これが依頼達成の品と依頼票だ」



 荷物鞄からゴブリンの牙と依頼票を受付嬢の前に差し出す。



 受付嬢は単眼鏡をかけると、ゴブリンの牙を手に取り確認を始める。



 そして、確認を終え単眼鏡を外すと、依頼票に印章を押し、依頼料の1000レギルを差し出してくれた。



「依頼達成確認しました。おめでとうございます」



「あんたさぁ、もうちょっと表情ってのが出せないの? ぜんぜん、おめでたくなさそうに思えるんだけどさぁ」



「ご不快を感じたなら、別の窓口をご利用くださいませ」



 クローデットに対しても、ロボットのように無表情なのは、何か理由があってのことか?



「お客様、エミルが何か問題でも?」



 隣にいた年上の受付嬢が、クローデットとトラブルが起きたのかと察して間に入ってくれた。



「あ、いや。問題ない。エミルだっけ? 彼女はしっかりと自分の仕事をしてるだけだ。すまないな」



「そうですか、ならいいのですが。何かありましたら遠慮なく申し付けください」



 年上の受付嬢はそれだけ言うと、他の客の対応に戻っていった。



「おじさんは、女の子に優しいねー。あーしにももっと優しくしてくれてもいいんだよぉ。ほら、ほら」



 隣に立つクローデットが、身体を密着させてくる。



「エミルは、ちゃんと仕事したから問題ないだろ」



 目の前の受付嬢エミルからの感情のない視線が痛いほど俺に刺さった。



 居心地の悪さを感じた俺は、手に持っていた依頼票の束をカウンターの上に置く。



「えっと、これを受注したいんだが、処理を頼む」



 依頼票の束を見たエミルの表情が、一瞬だけ変化する。



 ゴブリン討伐の依頼票の束を見て、驚いたらしい。



 やっぱ彼女も感情があるんだな。



 移動距離を考えると、こんなに大量に受けないもんなぁ。



「本当にお受けになられますか? かなりの数ですが? 依頼達成の期限は長めですが……。その……儲かりませんよ?」



「問題ない。全部受注する」



「あーしがいるから、大丈夫、大丈夫。ちゃちゃっと、処理しちゃって~」



「承知しました。では、こちらに全部サインをお願いします」



 差し出される依頼票にサインを次々と書き込む。



 合計25枚のゴブリン討伐の依頼を受注した。



 エミルが依頼票の処理をしながら、別の紙に地図らしきものを書いてくれてるな。



 番号が振ってあるみたいだが――



「では、25件のゴブリン討伐をよろしくお願いいたします。こちらはサービスでお付けいたしますね」



 束でまとめられた依頼票とともに、手書きの地図が差し出される。



「これは?」



「依頼先を描いた簡易な地図です。番号順にこなせば、移動距離も少なくなるはずですよ」



 ほぅ、それはありがたい。



 クローデットは大丈夫って言ってるけど、もし歩かないといけない場合、時短になるので非常に助かる。



「へぇー、やればできるじゃん」



 手書きの地図を手に取ったクローデットもエミルのサービスを気に入ったようだ。



「じゃあ、これからはエミルに、俺たちの担当になってもらうとするか」



「お断りします。私は誰の担当でもありません。今回のサービスは大量受注の見返りですので、お間違えなく」



 表情にいっさいの変化がない―――



 いや、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ口元が緩んでる気がするぞ。



 デレたか? デレたのか?



「可愛げのない子。おじさんが褒めて担当にしたいって言ってるのにさー」



「まぁまぁ、クローデット、そう言うなって。エミルだって急に言われて困惑してるだけさ。とりあえず、担当の話は考えておいてくれ。それと地図ありがとうな。じゃあ、行ってくる」



「ご安全に……ご無事の帰還お待ちしております」



「おじさん、この順番通りにこなしていこう。さぁ、さぁ、時間もったいないから行くっしょー!」



 俺たちは大量受注したゴブリン討伐のため、日が高く昇り始めた11時にワイズの街から出て、第一の依頼先に向かった。

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