第九話 助けるつもりのキスでぎゃるサキュバスに淫紋を刻んでしまった!


【吸精姫クローデットを従魔にしますか? YES/NO NOを選択時は吸精姫クローデットは消滅します】



 は? なんだこれ? 従魔ってテイマー職が使役契約した魔物のことだよな。



 なんで戦士の俺が、従魔を持てるんだ?



 それに、NOを選ぶとクローデットが消滅とか不穏なことが書いてあるし。



「ケホ、ケホ」



 ウィンドウの文字を読んでいると、抱きかかえていたクローデットが気絶から目覚めた。



「おじさんさぁ、めちゃくちゃ強いじゃん……。あーしがあんな簡単に翻弄されるのも初めての経験だったしぃ、おじさんと戦えて楽しかったなぁ。おじさんは楽しかったか分かんないけどさぁ……ケホ、ケホ」



 クローデットの身体が、急に脱力したかと思うと、俺に全体重を預け、荒い息をし始めた。



「はぁ、はぁ、負けたあーしのことは好きにしていいよぉ。従魔にするなり、殺すなり、おじさんの好きにして。できたら、ちょーつよいおじさんの専用牝とかになれたらなぁとか思ったけど……。それは、高望みすぎかぁ」



「おい、クローデット……。何を言って――」



「はぁ、はぁ、ヤバっ……。そろそろ限界きたかも、ちょー強い牡のおじさんともう少し一緒に……居たかった……なぁ」



 クローデットの顔から、血の気が急速に失せていく。



 マジやばそうなやつだが、俺は脳筋戦士だから回復魔法なんて使えないぞ。



 このまま、目の前で息絶えられたら、寝覚めがめちゃくちゃ悪いんだが。



 肌が触れているクローデットの身体から、どんどんとぬくもりが消え、冷たくなっていくのが分かった。



 クッソ、マジで死ぬやつだろ、コレ。



 倒されるべき魔物だし、死ぬのは当たり前って思うべきだけど―――。



 目の前で助けを求めてるのに、何もせずに逝かれるのはやっぱり後味が悪すぎる……。



 クローデットの目がゆっくりと光を失っていくのを見て、俺はどうしようもなく悲しい気持ちが湧き上がった。



 あークソ! 情が移った! くそ、くそ! 俺は自分の性癖をぶっ刺してくるこいつを助けたいって思っちまったぜ!



 すぐにYESを選択すると、クローデットが淡い光に包まれる。



 光がおさまると、服とスカートの間から見える下腹部に、文様が刻まれるのが見えた。



【従魔キャラのステータス開示可能】



 新たにステータス画面がポップアップしたかと思うと、クローデットのステータスが表示された。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 クローデット・アレディヌス サキュバスクィーン 牝 320歳


 HP:0/800(昏睡)


 MP:0/2000


 ST:0/400


 STR:B− VIT:A− INT:A+ AGI:B− DEX:A−


 特性:【吸精】【飛翔】【精気回復】【物理ダメージ50%カット】【魔法ダメージ50%カット】


 魔法:【炎魔法Ⅳ】【氷魔法Ⅳ】【雷魔法Ⅲ】【暗黒魔法Ⅳ】【回復魔法Ⅰ】【支援魔法Ⅳ】 


 基本攻撃値:900 基本防御値:600 基本魔法力:1200


――――――――――――――――――――――――――――――――

 


 は? 強すぎだろクローデット。



 序盤で従魔にする魔物じゃないだろ、このステータスは……。



 それに320歳って、見た目とは全然違う。



 見た目が若いままなのは、サキュバスクィーンだからか?



【従魔クローデットが昏睡状態です。回復を行ってください】



 クローデットのステータスを見ていたら、警告のメッセージが浮かぶ。



 すぐに荷物鞄から回復ポーションを取り出し、蓋を取ると慎重に彼女の口に注ぐ。



【サキュバスクィーンは、回復ポーションでは回復しません。男性の精気を口内摂取した場合のみ回復可能】



 えっと、つまりそれって、漫画とかアニメであったキスして精気を吸い取るってことか。



 蒼白な顔をしたクローデットの唇を見て、思わず意識をしてしまう。



 いや、待て……たしか俺の持ってるスキルってえっちな行為をしたら消滅するやつだったはず!?



 これってクローデットにキスしたら、スキルが消えちまうってやつか?



 最強脳筋戦士を構成している神引きスキルが消えたら……。



 チラリとクローデットの様子を見る。



 ゲーム内とはいえ、見殺しにするのはやっぱムリだよな……。



 これはエッチな行為ではなく人助け……。いや、従魔助けの行為だ。



「ふぅー。すまん、クローデット。あとで文句は聞くから帰ってこい!」



 俺は最悪スキルが消える覚悟を決め、クローデットの身体を抱き締めると、彼女の唇に自分の唇を押しあてた。



 クローデットの身体はどんどんと温かさを取り戻し、綺麗な顔にも血色が戻ってくるのが見えた。



 俺の精気を吸って傷を癒してるってのは、本当のようだな。



「おひさ……ん……? どほひて?」



 目に光が戻り、意識がはっきりしたクローデットが驚いた顔をしている。



 急にキスをされたら、そりゃあ驚くよな。



 ちゃんと謝るつもりだから、今は回復を優先するため許せ。



「ぷはぁ。おじさん、これ以上あーしが精気を吸うのは、あぶないっしょ! おじさんが干からびちゃうからさぁ」



 傷を癒す精気を得るためのキスをやめたクローデットが、心配そうな顔をしてこちらを見てくる。



 ぜんぜん、干からびる気配もなく、俺はピンピンしているが?



 身体がだるいとか、くらくらするとか、気持ち悪いとかもない。



「問題ないぞ」



 それにスキルの消失は起きなかった。



 きっと、サキュバスであるクローデットとのキスは、エッチな行為に判定されなかったらしい。



 エッチな行為ってどこまでがセーフなんだか……。



 とりあえず、キスは許されるということは分かったが……。



「嘘じゃん。おじさん、我慢してるでしょ。あーし、男の人からこんな大量の精気を吸ったの初めてだしぃ。絶対、絶対に無理してる」



 クローデットが、俺から吸った精気は、スタミナ消費だったしな。



【無尽蔵のスタミナ】の効果で、【吸精】されてもスタミナ消費は1でしかない。



 試遊版でのプレイした時、スタミナ切れ状態でST消費すると、消費分の体力値を削られることは知ってたが。



 けど、今は消費は1なので、あと1000回は吸えることになるし、HPの1000も加算すれば合計2000回は吸われても死なない。



 それに今のクローデットの回復加減を見る限り、4~5回で完全回復しそうな感じだ。



「問題ない。俺がクローデットに与えた傷が癒えるまで、好きなだけ精気を吸っていいぞ。詫び代だ」



「おじさん、マジで大丈夫なの? ほんとに、ほんと?」



「ああ、有り余ってるが?」



「おじさん、ちょー強いだけじゃなく、精気もいっぱいとかって、すごすぎぃ……。あーし、おじさんのことさぁ……」



 クローデットが急に頬を赤くして指をモジモジとし始めた。



 その姿が意外に可愛くて、見ていた俺の方も照れくさくなってきた。


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