第七話 巨大トカゲ襲来!


 地下墓地の通路を進むと、大広間みたいな広い空間に出た。



 朽ちた調度品が多数散乱しているが、宮殿のようにも思える作りをしている。



 そして、大広間の奥の方には大きな鉄の扉に、頑丈な鍵が付けられている部屋の入口が見えた。



 あの奥の扉、いかにも重要な物をしまってますって感じがするな。



 序盤の優遇を得られる アイテムとか装備があるといいが……。



 お宝の匂いに、心を躍らせながら扉に近づいていく。



 宝物庫の扉にあと少しまで近づくと、急に鉄の扉が鍵ごと吹き飛んだ。



「ギャオオオオオっ!」



 扉の奥からのしのしと重い足取りで這い出てきたのは、白銀の鱗が全身をびっしりと覆った俺の何十倍も巨大なトカゲの魔物だった。



 魔物の目がこちらを見据えると、びっしりと牙が生えた口を大きく開け、腹の底に響く咆哮をあげる。



 ほぅ、これはそこそこ強そうだな。



 さっき戦った魔物たちよりかは、強そうな感じがしてる。



 まだまだクローズドベータ版のV・F・L・Oの戦闘システムに慣れてないし、こいつにも攻撃回避の練習台になってもらうとしよう。



 俺は肩をグルグルと回し、軽く跳躍して身体をほぐすと、巨大トカゲを手で招いて挑発した。



「ギャオオオオオっ!」



 大きく口を開けた巨大トカゲの喉奥に、小さな炎が灯るのが見えた。



 鼻の穴が拡がってるし、炎を吐くモーション入りだな。



 おっけ、おっけ、余裕で見切れる。



 喉の奥から噴出された気化ガスに火種が着火し、巨大トカゲの口から高熱の炎が吐き出され、周囲の温度が一気に上がる。



 迫る炎の軌道を読み切り、余裕で回避することに成功した。



「そんな遅い炎には、当たらないぜ」



 声に反応した巨大トカゲが、大きな体躯を素早く動かし、こちらへ駆け出してくる。



 俺は突っ込んでくる巨大トカゲの前に立ちふさがって、大剣を構えた。



「いいのか? そんな無防備に突っ込んできて」



『うっとおしいやつ』と言いたげな眼で、俺を睨んだ巨大トカゲは、速度をさらに上げた。



 すごい速さで近づく巨大トカゲに合わせて、戦闘音感が告げるクリティカル攻撃の甲高い音が強弱の波として聞こえてくる。



 音を合わせろ……。



 最高のタイミングを選べ。



 集中力が最大限に高まり、音の強弱がゆっくりと感じられる中、クリティカル攻撃のチャンスを狙う。



「ここだっ! くらえっ!」



『CRITICAL ATTACK』と浮かんだ大剣の刃が、勢いよく突っ込んできた巨大トカゲの身体に触れた。



 かてぇ! こいつメタル系の身体かよっ!



 巨大トカゲの身体に触れた大剣が、粉々になって砕け散る。



 同時に突っ込んできた巨大トカゲは弾き飛ばされ、奥の部屋の壁にぶつかった。



 しょせん、初期装備って感じか。



 あの大剣では、俺の有り余る筋力を生かし切れなかったらしい。



 まぁ、武器こそ失ったが、やつが固い鱗を持つってことは分かった。



 固いやつは、その最強の打撃武器で殴って倒すしかないな。



 俺には神引きスキルで与えられた最強の打撃武器が備わってる。



 俺は拳を握ると、壁が崩れたことで起きた土埃から姿を現し、さっきよりもさらに険しい目でこちら睨む、巨大トカゲを見据えた。



 固いなら、手数で勝負。



 拳でボコボコにして叩き伏せるとしよう。



 脳筋戦士の力を見せつけてやるか。



 間合いと詰めようと動き出そうとした瞬間――



 巨大なトカゲは、先ほどと同じように大きく口を開け、喉の奥に小さな炎が灯った。



 また、炎か……俺には――。



 モーションが違うっ! 地面に向けて炎を吐いてやがるぞ! どんどん炎の色が変わる! 黄色、白、青!



 青い炎に変化したかと思うと、光線のように収束し始める。



 巨大トカゲが、地面に向けていた口をこちらに向けた。



 青い光線が横薙ぎに一閃すると、光線に触れた建物の壁が、赤い溶岩になって溶けていく。



 これ、当たったら即死攻撃だよな確実に。



 こいつってもしかして、けっこう強いやつか。



 いかん、いかん戦いに集中だ。



 巨大トカゲは、自らの吐き出し続ける光線を制御するのは難しいらしい。



 光線が不安定な軌道を描き、周囲への被害を拡げてやがる。



 口を閉じないと、天井が崩れたりして危ないな。



 俺は不安定な軌道を描く光線を掻い潜り、一気に巨大トカゲの前に躍り出ると、口元に向かって跳躍する。



 巨大トカゲの頭部に降り立つと、拳を握る。



「さぁって。お前のターンはここまでだ。ここからは俺のターン」



 音に合わせ『CRITICAL ATTACK』と浮かんだ握った拳を巨大トカゲの頭部に打ち付ける。



 1発、2発、3発、4発……。



 拳のクリティカル攻撃が、コンボで連鎖していく。



「俺の拳は、さっきの剣みたいに砕けないぜ」



 5発、6発、7発、8発……。



 音に合わせることに集中した俺は、ただ拳を打ち付けるマシーンと化した。



「ギャギャッ!」



 頭部のダメージにより、もうろうとなった巨大トカゲの口から光線の放出が止まり、黒煙が噴き上がる。



「そろそろ、ご自慢の固い鱗も鈍器には意味がないって分かってくれたころだろが――まだまだ、俺のターンだ」



 さらに『CRITICAL ATTACK』と浮かんだ拳を巨大トカゲの頭部に打ち付ける。



 9発、10発!



 砕けた手応えあり、これで骨が逝ったはず。



 11発、12発、13発、14発!



 骨が砕けたことで、鱗ごと頭部が凹んでいく。



 もう、脳みそに直接ダメージが行ってる段階だ。



 15発目の拳を打ち下ろすと、巨大トカゲの頭部が弾け飛んで、盛大な血しぶきが噴き上がった。



 巨大トカゲは、ぶるると全身を震わせると、脱力して地面に倒れた。



「ふぅ、勝ったが――。服が魔物の血だらけになっちまった。生臭せぇ」



 リアルさが売りのV・F・L・Oだけあって、血の臭いは強烈だぜ。



 こんな強い臭いさせてたら、敵が寄ってくるだろうし、人からも顔をしかめられること間違いなしだ。



 なるべく魔物の血を浴びずに、倒さないといけないことは今回の件で学習した。



「ふああああっ……。ドッスンバッタンうるさいっしょー。おちおち寝てられないんだけどぉー」



 血みどろになった服をどうしようかと考えていたら、背後から声を掛けられた。


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