第六話 魔物とファーストエンカウントしたら、裏ダンジョンの入口を見つけた!

 ランタンの光を頼りに、かび臭い地下墓地の中を進むと、前方から生き物の声が聞こえた。



「ギャギャッ!」



 こっちの明かりに気付いたらしい。



 バタバタと走る音がしたかと思うと、緑色の身体をした小柄で醜悪な顔の生物が武器を持って姿を現した。



 ゴブリンだ……。試遊版のやつより、さらにリアルっぽい感じが増してるな。



 悪いが、神引きしたスキルを持つ俺の相手じゃない。



 とっとと、チュートリアルを終わらせて本編を進めたいから、ささっと終わらせてもらう。



「ギャガガッ!」



「ギャギャッ!」



 ゴブリンたちが威圧するようにこちらに向かって叫ぶ。



 戦闘モードに入ったことを知らせるように、種族特性の『戦闘音感』が発動した。



 俺は『戦闘音感』のスキルを使うまでもなく、ゴブリンたちに向け大剣を一閃する。



 ゴブリンたちの首が、5つ同時に胴体から離れた。



 頭部を失った胴体が地面に倒れると、ウィンドウが開く。



【討伐達成の報告に必要なゴブリンの牙を剥ぎ取ってください】



 メッセージに促され、地面に転がったゴブリンの頭部から牙を剥ぎ取る。



 うへえぇ! 試遊版でもグロかったけど、クローズドベータ版はさらにグロいぜ。



【報酬:2000レギル】



【これにてチュートリアルは終わりになります。広場のセーブクリスタルに触れれば、ソロサーバーからオンラインサーバーへの接続が開始されます。よいV・F・L・O生活をお送りください】



 チュートリアルが終わったメッセージとともに、また革袋に入ったお金が手に入った。



 合計3000レギルか。



 これで初期装備整えろってことだろうけど、心もとない金額だよな。



 このチュートリアルダンジョンの地下墓地に、何か換金できそうな物って隠されていそうな気もする。



 もう少し奥まで探してみるか。



 周囲をランタンで照らしながら歩き続けると、通路の突き当りに鉄の扉があった。



 扉には何か文字が刻んである。



『※▽▲〇×※●□□△◆※※▽▲〇×※●□□△◆※』



 文字表示がバグっている気がするが……。



 対応言語を習得してないため、読めない仕様になってるのか。



 さすが、リアル異世界転生をうたうV・F・L・O。



 芸が細かい。



 意味深な文字が刻まれた厳重そうな鉄の扉があるってことは、この奥にお宝を隠してるって可能性が高そうだ。



 どうせ死んでも、広場の噴水に前のセーブクリスタルに飛ばされ、一定時間デスペナルティ受けるだけだし、行ってみる価値はあるだろう。



 鉄の扉に触れると、ウィンドウが開いた。



【※▽▲〇×※●□□△◆※※▽▲〇×※●□□△◆※ YES/NO】



 文字化けしてるが、内部侵入の最終確認だろうな。



 ますます、お宝の匂いがしてきた。



 俺はYESを選び、鉄の扉を力づくで押し開けると、耳鳴りと眩い光が視界を包む。



 罠か? 光で周りがよく見えないが――



 ゆっくりと視界が戻ってくる。



 特に罠ってわけでもなかったようだ。



 イベント演出みたいなもんだったのか。



 気を取り直して、扉の奥に視線を向ける。



 通路の中は暗く視界が悪い。



 足元に気を付けながら、壁伝いに通路の奥へとズンズン進むと、新たな魔物とエンカウントした。



 すぐさま魔物に向かい、大剣を構える。



 敵は狼か……。試遊版にはいなかった魔物だな。



 大きな体躯をした漆黒の毛並みの狼だが、しょせんはただの狼。



 序盤キャラには、脅威ってくらいのレベルだろうな。



 ちょうど『戦闘音感』が発動してるから、今度の相手は試しに使ってみるとしよう。



「ぐぅるぅうううっ!」



 狼との間合いを詰めると、耳に聞こえている音が甲高くなった。



 音が最大化した際、攻撃すれば、クリティカル攻撃の発動だったはず。



 波打つように強弱を続ける甲高い音に耳を澄ましつつ、相手の出方を窺うため、間合いをさらに詰めた。



 一撃で仕留めさせてもらうとしよう。



「ぐぅるぅうううっ!」



 狼はこちらの首筋に狙いをつけ、飛びかかろうと身を屈め始める。



 甲高い音は狼の動きに連動し、強弱を続けた。



 3・2・1……。ここっ!



 甲高い音が最大化した時、飛びかかってきた狼に向け、剣を振り下ろす。



 羽毛のように軽い大剣は、『CRITICAL ATTACK』の文字を浮かび上がらせ、狼を真っ二つに両断し、勢い余って地面も斬った。



「おおー。すげー、一刀両断だ! 脳筋スキルの力もあって、狼程度じゃ一撃死だな」



 でも、血の表現や魔物の内部までキッチリと再現されるようにクローズドベータ版ではアップデートされてるのか。



 やっぱグロいな……。



 内臓を巻き散らして地面に横たわる狼を見ていたら、血の臭いに釣られた別の魔物が姿を現した。



 今度はデカいニワトリだな……。



 真っ赤な羽毛とトサカをしてて派手だぞ。



 こいつも試遊版には出てなかった魔物だ。



「ケェエエッ!」



 叫んだニワトリの魔物から、濃い緑色の息が吐き出される。



 むっ! 毒の息か!



 だが、俺には【鋼の肉体】スキルのおかげで効かないぜ!



 毒の息を無視して、デカいニワトリに接近すると、くちばしがこちらを狙って振り下ろされた。



 重低音の音がしてるっ! パリィしてやるよっ!



 くちばしの軌道を見極め、音の強弱を耳を澄ましつつ、タイミングを窺う。



 今だっ!



 音を頼りに大剣を盾代わりに前に構えた。



 デカいニワトリのくちばしは、『PARRY』と浮かび上がった大剣によって逸らされる。



 体勢を大きく崩したニワトリに対し、カウンターアタックを狙えることを示す金属音が聞こえた。



「おっけー! カウンターするぜっ!」



 音を合わせると、大剣を握り変えて下段から斬り上げる。



『COUNTER ATTACK』と浮かび上がった大剣は、デカいニワトリの身体を綺麗に断ち切った。



 絶命したことに気付かなかったデカいニワトリが、動き出そうとするとズレて地面に倒れる。



「ふぅー、完璧なタイミングだった」



 毒々しい血を流すニワトリの死体を蹴り飛ばす。



 狼と同じように綺麗な半身にされたニワトリの内臓はまだビクビクと動いていた。



 素材になるから、持って帰った方がいいんだろうけど……。



 汚れるの嫌だな。とりあえず、先に探索をしてからどうするか考えるか。



 俺は倒した魔物の死骸をその場に放置すると、さらに通路の奥に進んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る