第十二話 お宝がすごかった!


「おじさん、お待たせー。準備おっけー」



 声に振り向くと、準備を終えたクローデットがニッコニコの笑みを浮かべていた。



「もう一度聞くが、本当に俺と一緒に来ていいんだな?」



「あったりまえじゃん。行く、行く。一緒に行くよぉ~。おじさん、あーしを倒して従魔にしたんだよ。強い牡に屈服させられた牝のあーしは、サキュバスの掟でおじさんの所有物だし、一緒に付いていくしかないじゃん。はっ! まさか、おじさん、あーしをヤリ捨てするつもりなのぉ!」



 俺に腕を絡ませ、こちらを見上げるクローデットの蒼い瞳が潤んでいる。



「人聞きの悪いことを言うな。やってないし、捨てるとも言ってないが」



「それって、一緒に付いてていいってことだよね。やったぁ! おじさん、やっぱ好き! ちゅーしよ。ちゅー」



 無邪気に目を閉じて口をとがらせているクローデットの頭をわしゃわしゃと撫でる。



「意思確認だ。意思確認。クローデットが、あの場のノリで言ってたのかもって思ったからな」



「そんなわけないじゃん。あーしは、死ぬまでおじさんに付いて行くよ。逃がさないもんねー」



 腕を絡めているクローデットが、身体を密着させてくる。



 クローデットは魔法も使えるし、頼りになる相棒だけど……。



 俺の性癖ど真ん中のカワイイ子だから、えっちな行為をしてはいけない縛りに、自分の理性がどこまで耐えられるか……。



 まぁ、でも3つしかないパーティー枠の1つを従魔の彼女が埋めてて、しかもなぜだか解除ボタンが見当たらないわけだし。



 だから、一緒に行動するしかないんだけどな。



「じゃあ、今度こそ地上に戻っていいな?」



「あー、おじさん。ちょっといいところあるんだけど、寄ってかない?」



「いいところ?」



「ほらぁ、これからお金もかかるじゃん。だから、金になりそうな物を探したくない?」



 まぁ、隠し部屋に来て、武器も失ったし、得たのはクローデットだが、金はいくらあっても困らないから欲しい。



 本来は資金調達のために探索したんだしな。



 急いではいるが、換金できそうな物を探すくらいの時間はある。



「探したい。案内してくれるか?」



「おっけ、おっけー。じゃあ、こっち、こっちー」



 俺はクローデットに手を引かれ、地下宮殿の通路を奥に進んだ。



 しばらく通路を進むと、突き当りに扉が見えてくる。



「ついたよ。ここが、さっき言ってたいいと・こ・ろ」



 クローデットが扉を開けると、外で見た大神バレンティヌスの巨大な神像と同じ物が置かれた祭壇のような場所が見えた。



「ここは?」



「あーしをここに封印した、あのクソ爺が作った趣味の悪い祭壇。えーっとたしか、ここにあったと思うんだけどなぁ」



 祭壇の部屋に入ったクローデットが、神像の台座をゴソゴソと弄り始める。



「あった、あった」



 ゴゴゴという音がしたかと思うと、神像が台座ごと後ろへと下がり、地下への隠し階段が姿を現した。



 おお! 隠し階段とかってお宝の匂いがする。



 隠しの財宝ゲットで、大金ゲットかもしれない。



「よーし、宝物庫漁るっしょー!」



「ああ、そうしよう」



 階段を降り、宝物庫の中に入ると、壁に設置された魔法の明かりが次々に点灯し、広い室内が青い光に照らし出されていく。



 宝物庫の中は武具だけでなく、使用用途の分からない道具や、衣服などとともにポーションっぽいものも、いくつも転がっていた。



「けっこう、いろんな品があるな」



「でも、ここはあーしを封印するためだけに作られた地下宮殿の宝物庫だから、ガラクタが多いけどねぇ。とはいえ、あのクソ爺の眷族が住んでた場所だし、そこそこ価値のあるものも残ってるはず。それらを換金すればおじさんも楽できるっしょ」



「だが、俺は物の価値が分からんのだが」



「そっか、おじさん【鑑定】使えなかったんだ。あーしは魔法で鑑定できるけど……。あ、たしか、あったかなぁ。えーっと」



 指をパチンと鳴らし黒い穴が現れると、頭ごと突っ込んだクローデットが探し物を始める。



「たしか、あったと思うんだけどなぁ。どこやったかな。あ、あった。あったよ」



 黒い穴から顔を出したクローデットの手には、小さな緑色の宝石が付いた指輪があった。



「指輪?」



「そう、これ、これ。これを付ければ誰でも【鑑定】が使えるってやつ」



「俺は魔法を使えないが?」



「これは、品物に付与されてるやつだから、魔力なくても使える品。あーしには必要ない品だったから、奥にしまい込んで忘れてた。おじさん、使ってみる?」



【鑑定】があるのと、ないのとではお金稼ぎの効率が違ってくるからなぁ。



 使えるか、試してみた方がよさそうだ。



「試させてくれるか?」



「どうぞ、どうぞ。あーしがはめてあげるぅ」



 クローデットが【鑑定の指輪】を俺の太い指にはめようとするが、指が太すぎて小指にしかはまらなかった。



「とりあえず、はまったが、どう使うんだ? コレ?」



「簡単、簡単。宝石の部分で品物に触れれば、勝手に【鑑定】が始まるはずだよぉー」



 宝石で触れればいいのか……。



 俺は近くの棚にあったボロボロの剣に、鑑定の指輪の宝石を当ててみた。



 ウィンドウがポップアップする。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 ランク:コモン


 アイテム名:朽ちた剣 


 基礎攻撃力:1


 属性:なし


 特別効果:なし


 武器種別:剣


 エンチャント:不可


 解説:錆びて朽ちてしまった剣。元の性能を取り戻すことは永遠にない。



 装備必須ステータス:なし



 価値:なし


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



「おお、できた。俺にも【鑑定】が使えるぞ」



「よかったじゃん。じゃあ、おじさんは自分に合う武器を探してみたら? もしかしたら使えるやつで、手に馴染みそうなやつあるかもよ」



「そうだな、けっこう広いし手分けして探した方が効率はよさそうだ



「うんうん、じゃあ手分けしてやろう。あーしはあっちから探してくるねー」



「おぅ、手伝うことがあったら呼んでくれ」



「はいはーい」



 俺はクローデットと別れると、宝物庫の中を武器を探して歩き回ることにした。



 宝物庫の中には、武器がいくつも転がっているが、どれも錆びてたり、欠けたりしてるやつばかりだな。



【鑑定】をしても朽ちた○○シリーズしか出てこない。



 クローデットは、ガラクタばかりだと言っていたが、本当にガラクタしかないらしい。



 床に転がっていた比較的形を残してる大きな金属の槌を持ち上げて振ってみる。



 これでもまだ軽いくらいだな。



 でも、これも朽ちてるシリーズだ。



 振っていた金属の槌を投げ捨て、他にめぼしい武器がないかの物色を再開する。



 大剣っぽいのが、たくさん床に散乱してるな。



 床に散乱している大剣の中で、比較的状態のよさそうなやつを選び、手に持ってみた。



 軽すぎて、しっくりとこない……。



 重くて、硬くて、粘り強さもある大剣はないか。



 漁っていると、散乱した大剣の一番下に、真っ黒な大剣が転がっているのが見えた。



 気になった俺は、邪魔なものを急いでどけて、真っ黒な大剣を手に取る。



 おぉ、この重みはいい感じだ……。



 握りもしっくりくるな。



 刀身の幅もあって、ガードをしやすい。



 硬度もありそうな気がする。



 真っ黒な大剣を両手で構えると、振り抜いた。



 いい具合だ……。



 これなら、今の俺の身体に対し、違和感なく使える武器になる。



 もう一度だけ、素振りをして感触を確かめた。



 いい武器だ。



 手応えの良さを感じた俺は、手にしている真っ黒な刀身の大剣を【鑑定】した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 ランク:レジェンダリー


 アイテム名:変転と聖心の黒き大牙 


 基礎攻撃力:300


 属性:なし


 特別効果:魔法攻撃をジャストガードすると、刀身に属性が付与され、ガードした魔法攻撃力が攻撃力に変換され加算される。


 武器種別:大剣


 エンチャント:不可


 解説:大神バレンティヌスの眷属である黒き戦士が愛用した魔法が付与された大剣。ジャストガード可、パリィ可、カウンターアタック可、クリティカル攻撃可


 装備必須ステータス:STR:S VIT:S


 価値:不明


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



 は? マジで? レジェンダリー武器が落ちてたとかありえないだろ!



 待て、待て、落ち着け俺。



 装備必須ステータスに【Sランク】指定が2つもある。



 普通のキャラじゃ、序盤で見つけても絶対に装備できないやつだろ。



 ……けど、俺は装備できるな。できてしまうな。



「俺の相棒はこいつだな……」



 神引きしたスキル構成の脳筋戦士に、レジェンダリーの大剣があれば、序盤の敵など脳筋パワープレイで粉砕できてしまう。



 今、この瞬間初期スタートダッシュ成功が確約された。



 マジで急がば回れだったな。



 チュートリアルを終え、急いで広場のセーブクリスタルに触れてたら、見つけられなかったお宝だ。



 真っ黒な刀身の大剣を見て、表情が緩むのを抑え切れない。



 もう少し探すとしよう。もしかしたら、まだ使える武器があるかもしれないしな。



 真っ黒な大剣を担いだ俺は、再び宝物庫を物色を再開することにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る