第十一話 イケナイ世界に目覚めそうだ!
「はっ! そうだ! 忘れてたじゃん! おじさんにアレを付けてもらわないと! アレ」
地上に戻る前に、ちょっと休憩しようと思っていたら、元気になったクローデットが何かを思い出したように叫び出す。
そして指を鳴らすと、何もない空間に黒い穴ができた。
「クローデット、何を?」
「収納魔法を使っただけじゃん。あっ、そう言えばおじさんは魔法は使えない人?」
INT【G-】は伊達じゃないぜ。
魔法を使ってもほぼ成功しないだろうし、威力も低い。
それにMPもないしな。
魔法の魔の字も使えない脳筋戦士だ。
「ああ、使えない」
「そっか、ごめん、ごめん。これは収納魔法。この黒い穴の中は重さもなくなって、時間も進まない空間に物を詰め込める。使えるといろんなものを持ち運ぶのに便利だよ。魔力が多いほど容量も大きくできるしね。あーしも魔力はある方だしぃ、けっこう物が入れられるから重宝してる」
いろんなものを詰め込んだ荷物鞄を持たなくていいのは、うらやましいな。
V・F・L・Oはリアルな重量システムを積んでるから、筋力以上の重量過多になれば、比例して身体の動きが悪くなる。
まぁ、俺は高いVITランクを持つから、かなりの重量物を持っても制限はかからないんだがな。
非力な種族とか、VITランクが伸びにくい魔法職には必須の魔法か。
「魔法はやっぱ便利だな……」
「まぁ、そうなんだけどねぇ。万能なわけでもないしぃ」
クローデットは、俺と話しながらも黒い穴に手を突っ込んでゴソゴソ何かを探していた。
「一緒に外に出るから、アレ付けないとおじさんが怒られちゃう。えっと、たしかー。収納してたはず。ないなー、どこやったっけなぁ」
探し物が見つからないようで、今度は黒い穴に頭まで突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
いったい何を探してるんだろうか……。
それにあの黒い穴の中には、どれだけの物が入ってるんだ?
地面に放り投げられた品物の何に使うか分からない物がいくつもあるし。
「あった、あった。従魔の首輪。あーしをテイムしようとした馬鹿なテイマーを倒した時に拾ったやつ。はいはい、おじさん、これをあーしに付けて。ほら、ベルト式だから簡単につくよ」
黒い穴から目的のものを見つけたクローデットが、ニコニコ顔で銀の鎖の付いた革製の首輪を差し出してきた。
「つまり、俺がこれをクローデットの首に付けろと?」
ニコニコ顔のクローデットが勢いよく頷いた。
「従魔の証である首輪がないまま、魔物のあーしを街で連れ回すと、おじさんが衛兵に怒られるから、ちゃんと付けて欲しいっしょ。ほら、ほら、早くぅ」
従魔システム上、そうしないとクローデットと一緒に街には入れないってわけか。
サキュバスクィーンという魔物とはいえ、美人のギャルであるクローデットに首輪を付けるのは、なんかいけないことしてる気しかしないが――。
衛兵に怒られたくはないから、仕方ない。
それにクローデットを街の外で待たせておくのも可哀想だしな。
「分かった。分かった。今、付ける」
クローデットの差し出した従魔の首輪を受け取ると、ベルトを緩めて、彼女の首に巻き付ける。
ベルトは緩めにしといてやらないと。
「よし、完了だ」
「あーしはおじさんの従魔~♪ なっちゃったなぁ~♪ これからはおじさんには逆らえないっしょ~♪」
クローデットがご機嫌で歌っているが、明らかに序盤では従魔にできない魔物なんだろうと思う。
「じゃあ、じゃあ、おじさんはちゃんと、あーしの首輪から垂れてる鎖を持ってて」
革製の首輪から垂れた銀の鎖をクローデットが自ら差し出してきた。
街に戻った時、衛兵に睨まれるのは困るが、これはこれでやはりイケナイことをしている気分になる。
でも、従魔の管理は主人の責任っぽいし、やらざる得ないか。
俺はクローデットの差し出した鎖を受け取った。
「はぅん。おじさんの物になっちゃった♪ あーし、幸せ―♪ ああ、そうだ! ご主人さまぁ~♪ って呼ぶ? それともおじさん? それとも名前呼び? どれがいい? あーしはおじさんが言いやすいんだけどダメかなぁ?」
クローデットの放った『ご主人さま』という言葉に背筋がゾクリとなる。
やっぱ、イケナイ世界に目覚めそうだから気を引き締めないと。
「とりあえず、鎖を持つのは街中だけだぞ。人目のないところは、持たないつもりだ」
「えー、いつも持って欲しいなぁ。俺の牝だーって見せびらかして欲しいしぃ~」
「見せびらかしたりなんてしない。しないぞ」
そんなことしたら、他のプレイヤーにドン引きされそうだしな。
銀の鎖を持つのは、街中限定。
俺は持っていた銀の鎖をクローデットの手に返した。
「ちぇー、ケチー」
「あと、ご主人様はやめてくれ。クローデットがおじさんの方が言いやすいならそっちでいい」
「はぁい。じゃあ、おじさんにしとくねぇ」
「ああ、そうしてくれ」
性癖ど真ん中の可愛すぎる強い従魔を持ってしまったわけだが、何かドンドンとイケナイ方向へ向かっている気がしてならない。
「さて、じゃあ、地上に戻るとするか」
「おじさん、おじさん、あーしの部屋にまだ少し荷物あるから、それも持ってていい?」
「ああ、いいぞ。手伝おうか?」
「うん、ありがと、おじさん。じゃあ、こっち、こっち」
俺はクローデットに先導してもらい、彼女が封印され眠っていた部屋に立ち寄ることにした。
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