頭痛の黒い種

中埜長治

第1話 旧アリゾナ

歩いているだけのスワンプマンが1番多い。その次に多いのが地面をならす奴。

扉を開けたり、簡単な物を作ったり、“雷に撃たれる前”の日課をこなす奴はとても少ない。


ただ、最初にスワンプマンになった人間は、それは複数人で、今では1番少ない日課をこなす奴らだったそうだ。まるで創世記の天使だ。


物凄い頑強で、なんでも食べて、食べる必要もなくて、しかも単純労働ができる程度の知能はある。

そんなスワンプマンをみた権力者は、なんて理想的な労働者なんだ。もっとスワンプマンを作って働かせようと賞賛したそうだ。どんな結末が待ってたかは、まあ言わなくてもわかるだろう。


「権力者は1人?」


大統領だけじゃなかったはずだよ。補佐官もいるし、他の国の連中も、野党の上院議員もいたはずだ。表では言い争いをしてても裏では汚くつるんでるのはどこに行っても一緒だな。


大変なことになってるのを隠して、アフリカで事態が表沙汰になった時も黙ってた。最後の方は意図的ではなかったろうな。もう自分達がやったこともわからなくなってたろうから。


権力者、なんて、それがなんなのか伝えるのも難しくなっていくな。こんなに何もなくなると。今のところ、破滅後に子供が生まれたって話は聞かないが。あるかい。


「生存者自体見ませんね」


そうだ。そこからだもんな。

生存者が見つかって、男女一揃いだったらそんな日もくるかもだが。

権力者なんて言葉、生まれてきた子は知らなくてもいい気がするよ。


「”雷を落とした“のは宇宙人?」


それは聞いたことないな。ありそうな話だが。


「”雷が落ちた“時はどこに?」


ホワイトハウスにいたよ。副大統領は大統領と行動を共にしない。だから私もそこにいた。いたはずなんだが今ここにいる。副大統領がどうなったかもわからない。


私が知ってることはそれぐらいだ。覚えてることも。


「これからも穴を掘っていく?」


掘らないといけないんだ。


私は知っていた。なのに何もしなかった。何かしたとして、あいつらに何ができたわけでもないのに。何かしでかして、自分のキャリアが終わるのが怖かったんだ。それがなんだというんだろうな。


こんな、こんなことになったら、キャリアに何の意味があるんだ。こんなっ!!


「誰にも予想できませんよ。こんなの」


興奮した。すまない。


どうにもできなかったという結果は罪じゃない。何をしてもダメな時はダメだ。


すべきことをしなかったことが罪なんだ。

だから私は自分に懲役を課した。


今の私にできることは、この砂漠で、井戸を掘ることくらいだ。

それはきっと、誰かのためになる。今度こそ。


君たちに今水をあげられないのが残念だ。


「いつか水が出ることを祈りますよ」


ありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る