第20話 知恵の輪
陽電子砲で損傷した部分が、二人三脚した時に互いの身体と癒着してしまった。人形が損傷すること自体が稀で、さらに欠損するなど初めてのことなので、再生時に密着してるとどうしてこうなるのかもよくわからない。
「同化するプロセスが誤動作して拮抗してるのかな」
「切除できなかったらこのままっぽい」
反物質兵器は対PZの破壊兵器として初めて効果があった分、2人の癒着を切断する手段が既存の道具にはない。
「メメントモリを作る時の感じで、分離するイメージを持ったらいけるかな」
「知恵の輪が外れるような爽快感をイメージしましょ」
カチリッ
知恵の輪が外れるような音をたてて、2人がずるりと分離する。そのような構造として作られたかのごとく、物凄く簡単に。
東雲の左足が中指の真ん中で裂けて左半分が西条寺の右半身にぶら下がり、西条寺の右腕も中指の真ん中で裂けて右半分が東雲の左半身にぶら下がる。
人形は人形でも油粘土で作った粘土人形のようないい加減さだ。簡便で良いといっていい。
半分しかない肢の断面は切断面になっておらず、消失してる部分を平面にしたような模様をしており、指はすでに短いながら立体化している。人形としての出力は激減しているのかもしれないが、元々が強靭なので荷物を運んだり、歩き回るくらいなら半ぴらの肢でも支障はなかった。
敦賀で柳と会う頃には2人とも手足は元に戻っていた。
「通信では聞いてたが今回は災難だったな」
「まさか死にかけるとは思わなかったね」
「えっ。ああ。それで、皇帝陛下はどんな顔してんだい」
「これが小早川教授。メメントモリの効果自体がなくなってたから多分もう起きない」
「しかしなんだな。東雲が英語覚えちゃうと西条寺は楽になるだろうが、寂しいんじゃないのか?」
「西条寺も金属加工できるようになったから、ダブルエンジンで仕事ができるよ」
「うん...?お前東雲なのか?そっちが西条寺?」
「なんだい。英語で喋ってお前と応対する奴はみんな西条寺なのかい」
「失礼な」
「いやいや、お前ら久しぶりにあったら見た目も似てれば声までそっくりだよ。一緒に旅しすぎるとそうなるのかい?」
私たちは互いの顔を見た。
「前と変わらないと思うけどな」
「変わらないよ」
「いやだな。俺、モハメドにもジョゼフにも似たくねえし、あいつらが似てきたらダブルパンチの2乗だよ」
「次会う時はそっちも誰だかわからなくなってるかもね」
「また移動するのかい」
「九頭類浄水場跡以外で植生が十分回復してる場所は無かった。だから、とりあえず九頭類のオアシスが湿地に拡大するまで世話してやろうと思うんだ」
「...本気か?滅茶苦茶悠長な計画だな。年寄り趣味さえ霞んで化石になりそうだ。西条寺は良いのかい。そんな同じ場所にジッとしてるの物凄く嫌いじゃなかったか?」
「ずっと黄色の中を歩いて、寝ても覚めても黄色で、たまに誰もいない地下遺跡を見るより、ジワジワでも拡がってく緑見てる方が良いって、散々わからせられたよ」
「...そういうもんか。まあ俺たちは別に組織じゃないし、どっちが上だ下だもない。目的もままならない。自由にしたらいいさ。2人がそれで良いならジョゼフにも言っておくよ」
柳は会釈して船に戻ろうとする。
「それでなんだが。浜田までフェリーで送ってくれないか」
「珍しいな。良いよ。釜山に行くついでだ。ジョゼフもごちゃごちゃ言わないだろ」
「ありがとう」
私は柳の肩を掴んだ。
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