第15話 みちのく
「仙台が牛タンとずんだ餅、福島と山形が果物、秋田がきりたんぽ、岩手がわんこそば、青森がリンゴ...だったかな」
「みちのく食い道楽ツアーだ。わあい」
「九十九里浜って何県?」
「東北じゃないでしょ」
「ずっと九十九里浜」
「17億里浜とか、32兆里浜」
「4000万総砂浜」
もちろん観光すべき物などない。
泥と砂。岩。人口密度に関係なく、農作物に被害を与えた動物達も、一切合切が消えた火星のような荒野。
視界の邪魔になるほど吹雪いているので、相当に寒いはずだが、元々が銃弾でも傷つかない肉体なのでうっすら「気温が低い」という気がするくらいだ。
体温は人間よりずっと低いが、動作熱の分か気温よりは高い。体表に積もった雪はゆっくり溶け、溶けたそばから吸収され、体内の化学反応に利用されている「感触」がある。
“フロル星人”がもしも地球人を殲滅したり罰したりするために送り込んだ兵器なら、これらの強靭さは完全にオーバースペックだ。感染性と認知機能の破壊だけで十分だ。
しかし、仮称元の狂ったWFP職員が言う通り、贈り物のつもりにしては、有機物を食い尽くす機能が邪悪すぎる。
むしろ地表生物の根絶が主眼で、地球人をその尖兵に作り変えたのだろうか。“フロル星人”に適した環境を作り出す自動兵器だろうか。
ならなぜ彼らの入植がいつまで経っても起きない。あの光体を見たのは一度きり、しかも2人しかいないのにとうとう降りてこなかった。
「こういう雪をみると、温泉に人間と猿が浸かって、柚子とかさつま芋を浮かべるなんていうのが風物詩だったよね」
猿と人間はかなり近い。酷い仕打ちにトラウマを抱えてるような反応をする哺乳類はさらに多い。PZは模倣する対象を、かなり狭く人間だけに絞って他は消化してしまう。“フロル星人”が地球人だけを狙っているのは確実だ。
何のために。何のつもりなのか。
「道中ずっとこんなこと考えてたの?」
「ずんだ餅も食べられないし」
「猿の話でこんなこと連想するなんてずいぶん根暗だね」
「うるさい」
「結論は?」
「あるわけないでしょそんなの」
「そりゃそうだ」
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