第18話 講義

「この身体で作れる模造品は、自分の身体感覚を超えることができない。飴玉はそのような硬さと味を思い浮かべてそのような情報を集積させれば出力できる。しかし、例えば君は磁力を感じたことはないだろう。磁力には味も見た目もない。それは私たちを構成する成分に磁力がないからだ。だから磁石を思い浮かべても、磁石のような触感と冷たさの金属に見える物が出てくるだけだ」


相変わらず小早川教授の話は長い。

単に「僕らの身体に磁石はないから磁石は模造できない」で終わる話だ。


「だったら磁石を作りたい時はどうするか。それは他所から持ってくればいい。重要なのは磁石が作れないことじゃない。裏を返せば、我々を構成している成分だけで良いならなんだって模造できるんだ。電子制御のないディーゼルエンジンだって作れる。仕組みの知識とそれをイメージする熱意が大事だ」


それで、なんであんたはパンツ一丁なんだい。

「なんでパンツ一丁なんですか?」

あけすけに聞きやがったよ、こいつ。


「粒子加速器を作るのに、模造品以外で必要なのは磁石くらいだった。細かい制御は筋肉と神経で置換できたんだ」


質問に答えろよ。

「パンツ一丁だと考えがまとまるとか?」


「幸い、磁石は遺跡から取り出した物で間に合った。粒子加速器を見たことがあるかい?スイスの最大の物は27kmあるぞ。そんな大きさになるのは微細で強度のある部品を人類が作れなかったからだ。だが、私にはアイデアはあった。粒子加速器をわずか10mにするアイデアがな。生前は研究室を馬鹿共にめちゃくちゃにされた話をしたな。あれさえなければ人類は私の手で飛躍的に宇宙の真理に近づけたはずなんだ。」


パンツ一丁でいつまで喋ってんだ。

「まだパンツ一丁の方が良いんですか?」


「だが。今は、このアイデアさえあればなんだって模造できる身体なら。10mどころじゃない。1mにすることだってできる。いや、できたんだ」


急激に小早川のパンツが盛り上がり、棒状の物が突き出る。


「いい加減にしろよクソジジイ」

「汚ねえもんしまえ」


だが、僕らが思い浮かべたような物ではなく、それは金属の筒だった。よく見ると、下腹部よりやや上、臍の下ぐらいから伸びている。


「昔、食あたりを起こしてね。熱くて痛い物が大腸を動いて腹の中を上へ下へとぐるぐる回ってたんだ。ああ。まるで人間粒子加速器だな。それで閃いたんだよ。私はその時のイメージで腸を粒子加速器にすれば良いんだと」


シャツがめくれた腹には、腹腔を透過して漏れるほどの強烈な光を放つ球が現れ、胸の下から臍の下までを時計回りに周回している。


「だからパンツ一丁なんだよ」

「わかるけどわかりたくねえよ」

「わからないしわかりたくねえよ」


小早川はパチンコ台のように光が回転する腹をさすって不敵に笑う。


「今は改良に改良を重ねて、陽電子を集積できるようになったんだ」

「知らねえよ」

「そんなもんで何をしたいのさ」


微笑が急に無表情になりため息をつく。


「何をしたいって決まっているだろう。人間もどきをこれでぶっ壊すんだ。それで君らを呼んだんだよ。呼んだら来る人間もどきなんて君らくらいだから」

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