第10話 映画館
ネットで映画をダウンロードできる時代に映画館に行くのはなぜか。
映画を観ない人は映画館にも行かない。だから映画館という場所を知らない。ただ大きな画面がある場所くらいにしか思わない。
映画館は長い時は2時間、観客を拘束する施設だ。2時間も他人を拘束するとき、世間では拘束された人に給料を払う。
それぐらいの拷問をしておきながら、映画館は観客から映画の対価を得なければならない。
つまり、「拘束されている」という気を観客に起こさせないためには、大きな画面と大きな音響だけでは足りない。
2時間座っても床ずれの前段階すら起きずなんなら朝まで眠れるほどゆったりとした座席。
他の観客の体臭やポップコーンの油、ドリンクの香料を脱臭し、年中快適な温度と湿度を保つ強力な空調。
映画館はそこにいるだけでとても快適で、しかも家には置けないような大きな機材で映画を楽しめる、そんな素敵な場所なのだ。
私は映画館で買う食べ物はチョリトス派だ。グッズコーナーで既にパンフレットを買い、入場直前、チョリトスとコーヒーを買いに並んでいる。
後少しで座席に座れると思ったらこの程度の待ち時間はさして気にならない。
「ご注文は?」
ほら。いつの間にかレジの前だ。
忙しいのか、店員は制服ではない。恐らく私服の、ねずみ色のウィンドブレーカーだ。
「チュリトスとアイスコーヒーのSを」
「どうぞ」
注文したばかりなのにもう出てきた。今日はずいぶん早いな。チュリトスがずいぶん小さいような。あれ。コーヒー注文しなかったっけ。
「今、食べてください」
今食べるの?初めて指示された。変なの。
チュリトスをかじると、それは紙粘土を食べたような食感に、変な甘みと、泥臭さに鉄臭さ。
なんで。なんなの。あいつはなんなの!?
ここから出して!!ここから出してよ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます