第11話 地下街
部活の遠征で、その日は始発の特急に乗る必要があった。冬の朝5時は夜明け前で、人もいないし外は真っ暗。
その駅から乗るのは自分だけ、父も母も寝ているので見送りはない。見送りがあればあったで鬱陶しいから、それで良いと思ってた。
誰もいない駅の地下街を看板を頼りに歩く。学校には自転車で通っていたから駅は滅多に使わない。
あれ。11-2番?ハイフンに数字?私の行くべき通路は11番だよね。
案内看板の地図を見上げる。7C、8-3番、10番、11-2番と11-5番、12Aしかない。番号付の法則がわからない。なんで欠番があるの。
少し歩くくらいならなんでもない3kgくらいのリュックが、肩や首を摩ってじわじわと痛みを与える。始発までまだ時間はあるけれど、迷ってると乗り遅れるかも。
焦れば焦るほど地図の読み方がわからなくなる。ハイフンなしの11番はどこに行けばいいのかがわからない。
ふと嫌な臭いが漂ってくる。生ゴミの酸化した油臭に、生乾きのジャージのカビ臭、運動後の靴下を混ぜたような酷い臭いだ。
「ウッ」
嗚咽が漏れた。臭いそのものではない。臭いがしてくる方を見たのだ。
荷物を荷台に縛り付けるゴムベルトの束を持った、身長180cmの、紺色のパーカーを着た太った男だった。問題は、下に何も履いていない。履いてなくて何かが滴ってる。
「なんじだと思ってるんだ...不良め...」
その大柄さに不釣り合いな高い声で威嚇し睨みつけてくる。近寄って来るので逃げる。
「待て!!不良!!!」
ゴムベルトを振り回しながら追って来る。
リュックにベルトが叩きつけられた時、ベルトに付着していた酸っぱい異臭のする汁が飛び散る。
捕まったら何をされるかわからない。
無我夢中で地下街を逃げ回るが、普段歩かない場所だからどこに行ったら出られるのかわからない。階段のサインがあっても「営業時間外」と書かれてドアが開かない。
少なくとも来た方に戻れば出られるはずだったが、ベルト男がいる方なので戻れない。
なんで自分とベルト男しかいないんだ!ここはどこ!ここから出して!
地下街の飲食店の出したゴミ箱に接触し、ひっくり返し、盛大に転ぶ。腐った脂と魚の残骸が全身を汚す。悪臭と光景とストレスで、早朝に飲んだココアと胃液を吐き出した。
追いついた男にリュックを掴まれる。
嫌だ!誰か助けて!ここから出して!
「大丈夫。もう終わったことだから大丈夫。どんなことか知らないけど大丈夫。全部終わったから大丈夫。
私がしがみついているのは地下街の床ではなく、廃墟の壁だった。
掴まれているのもリュックではなく肩を直接だし、ねずみ色のウィンドブレーカーで山登りでもするのかという装備をつけた店員が映画館にいるわけない。そんなの当然だった。
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