第12話 白い飴
「実際には逃げ切って、男は警察に取り押さえられたんですけど、逃げ切れずにあいつに捕まるのに、また逃げてるって感じですよ。捕まる恐怖と逃げる恐怖の悪いとこどり。段々薄れるか慣れるかと思ったら全然ですよ。しかも、起きてる間も突然あそこにいたりするし....」
西条寺は涙ぐんでいる。人形にも涙腺があるのを初めて知った。
「それは....キツい...な」
「東雲さんは違うんですか?」
「同じだね。僕も毎日突然、服着たままうんちする感触付きの監禁フルコースのエンドレスだよ」
「キツいじゃないですか。平気なんですか?」
「いや。ずっと頭が重いよ。悪い場所なんかないのに痛むし痒いし。また連れていかれたら嫌だなって」
「どうにかできたら...どうにかしてますよね...」
西条寺は両手で顔を覆う。
「...死に直したい?」
東雲はポケットから白い飴を取り出して、アルミホイルに巻いて西条寺の前に投げた。
直接渡すと予期せぬトラブルがあることを示す手順だ。
「これは....毒なんですか」
「僕らには毒だけど、人形にとっては治療薬じゃないかな。希望に満ちた明るく前向きな気持ちを詰め込んである。きっとスッキリする。万丈目先生が書いてた通り、僕らは人形の病気だからね」
「誰か食べたんですか」
「その万丈目先生が食べたよ。死を思い出し続けて狂うより、楽しく狂った方がいい。全部忘れたいって。それでこれ食べてるんるん気分でどこかに行っちゃった」
西条寺はアルミホイルの上からさらにアルミホイルを巻いて、ポケットに入れた。
「持っておくといいよ。君を生き返らせたのは”そうした方が良い“人を探す僕とあいつらで決めた手順に沿っただけだ。君の意思を確認したわけじゃない。いつでも好きな方を選ぶと良い」
今度は黒い飴をポケットから出し、アルミホイルで巻いてまたポケットに戻す。
「東雲さんは、なんで白い飴、食べずにいるんですか?」
「....食べにくくなるから聞かない方がいいと思うんだけどな」
新しい黒い飴をポケットから取り出し、アルミホイルを巻きつける。
「一度食べたらもう戻れないと思うとね。
人形には後悔がなくて、僕は未知が怖い」
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